Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

アヌシー国際アニメーションフェスティバル

2008-06-17 00:41:44 | アニメーション
世界三大アニメーション映画祭というものがある。アヌシー、ザグレブ、広島だ。特にアヌシーは最も歴史が古い。そのアヌシーのアニメーションフェスティバルで、日本人が最高賞を受賞した。加藤久仁生の『つみきのいえ』だ。

以前、加藤久仁生についてはこのブログでも紹介したことがある。彼の『或る旅人の日記』はカルヴィーノの小説『見えない都市』に雰囲気が似ている、という趣旨のものだった。その際、おれは、『或る旅人の日記』はそれほど評価していないということを付け加えておいた。仲間内でやっているあるHPの掲示板にも、おれはこんな書き込みをした。

加藤久仁生。『或る旅人の日記』が代表作です。この人は、雰囲気で魅せる作家だと思われます。ただ、感性は大人、知性は子供、と言ったら厳しすぎるでしょうか?やりたいことはものすごく分かるのです。巨大な豚のような生き物(脚がとてつもなく長い)に乗って旅をする、マフラーをはためかせたすらりとした男性。月に向かう列車、コーヒーの中を泳ぐ魚…。しかし、時折り挿入される日記が、なんとも幼稚な気がするのは私だけでしょうか?要するに、演出が非常に拙いのです。その点、『或る旅人の日記』の続編である「赤い実」は、日記が挟まれることはなく、ユーモアもあって心地よく見ることが出来ました。77年生まれと、まだ非常に若い作家ですから、これから「化ける」かもしれません。そのような才能の片鱗は感じさせます。雰囲気はどこかたむらしげるに似ているところがありますが、自分の方向性を確立していって欲しいと思います。あ、それはもう大丈夫かな?

このようなものだ。『或る旅人の日記』に対するおれの評価は今でも変わらないが、今回、アヌシーで賞を取ったということで、頭をよぎったのは、「化けた」かもしれない、ということだ。確かに才能の片鱗は感じていた。それでも、当時は表現が稚拙であり、まだまだだと思っていた。だが、『或る旅人の日記』以降の作品もいくつか観てゆく過程で、稚拙さは薄れてきたように感じていた。それでも、いずれも殻を破るにはもう一歩、とも感じていた。

アヌシーで、殻は破れたのだろうか?受賞作はまだ観ていないが、機会があれば是非観てみたい。この人の作風は基本的に好きだから、これで表現が伴えば、お気に入りの作家になるはずなのだ。『つみきのいえ』が素晴らしい作品であることを、心底願っている。