スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

火山灰の続報と「対英蘭・仕返し」説

2010-04-17 03:33:54 | コラム


アイスランドの火山噴火がもたらした火山灰のために、ヨーロッパの航空路線は麻痺状態だ。当初はイギリス、オランダ、ベルギー、デンマーク、スカンディナヴィア半島など北ヨーロッパだけの影響に留まっていたが、風向きのために火山灰が南にも向ったため、より広範の地域で飛行禁止令が発令され、空港が閉鎖されている。

前回は、スウェーデンの外務大臣カール・ビルトが、ロンドンから飛行機に乗れなかったため、鉄道でベルギーのブリュッセルに移動し、ここから飛行機でストックホルムに戻ろうとしたものの、ブリュッセルの空港も閉鎖されていた、という可哀想な話を紹介した。

さて、その後どうしたかというと、彼はブリュッセルから車を手配し、ドイツのハンブルグを経て、フェリーに乗ってデンマークに渡り、そこから車での移動を続け、海峡大橋を渡ってスウェーデンにたどり着き、自身の故郷であるハッランド地方を通過し(ハッランド地方は美しい、とブログに書いている)、ヨーテボリでの党会合に合流したという。

地図で見ると、ロンドンからブリュッセルなんて、ブリュッセルからスウェーデンまでの道程に比べたら目と鼻の先、という気さえしてくる。


赤は領空が完全に閉鎖された国、黄色は領空の大部分が閉鎖された国。ただし、これは土曜日朝刊に掲載された地図なので、その後、さらに拡大されている。

ヨーロッパ全体では、1日に29000便の航空機が飛んでいるというが、このうち半分以上が欠航しているようだ。空路が閉鎖されたヨーロッパ各国では、陸路に変更して移動する人々のために、鉄道やバスが満席状態だ。

スウェーデンでも、ストックホルム-マルメ間ストックホルム-ヨーテボリ間の幹線が満席状態で、Intercity特急X2000の列車編成を長くして運行している。国鉄SJが言うには「キャパシティーを100%利用して一人でも多くの座席を確保しようと努めている」とのことだ。X2000の2編成連結(6両×2編成=12両)はもちろんのこと、ストックホルム-マルメ間では、前代未聞の3編成連結(18両)まで行われているとか。詳しいことは分からないが、おそらく停車駅ではプラットホームの長さが足りないだろうから、編成ごとに順番に2回か3回に分けて停車しているのではないだろうか?

陸路ではるばる移動したのは、カール・ビルトだけではなく、イギリスのコメディアンであるジョン・クリーズもだ。たまたまノルウェーのオスロでトークショー(Skavlan)の収録があったものの、帰りの飛行機が欠航し、フェリーもなく、鉄道の切符も取れなかったため、スウェーデン、デンマーク、ドイツなどを経由する合計1500kmの陸路を何とタクシーを使って移動し、イギリスに戻ったという。運賃は総額3万ノルウェー・クローナに達した。日本円にすると50~60万円くらいだろうか。運転を途中で交代するため、運転手は2人いたという。

スウェーデンのタクシー会社も、ストックホルムからヨーロッパの各方面に特別にタクシーを走らせている。ストックホルムからオスロまでは6850スウェーデン・クローナ(約9万円)。コペンハーゲンまでは8500クローナ(約11万円)、ハンブルグまでは1.2万クローナ(約16万円)だとか。ドイツやフランスにいるスウェーデン人からもストックホルムのタクシー会社に問い合わせがあり「はるばる迎えに来てくれ」という注文があるが「それは無理。現地のタクシー会社に頼んでくれ」と断っているらしい。

下の図が示すとおり、火山灰は6000~8000メートル上空に主に集まっているという。しかし、スウェーデンではヘリコプターの飛行もできず、急患を運ぶ救急ヘリの運用も制限されている。よく分からないが、火山灰がそれよりも下の高度に滞留・落下する可能性もあるということなのだろうか?
(火山灰がエンジンに入り込むのを防ぐフィルターが装着された救急ヘリはゴットランドとヨーテボリに2機しかないとか。でも、めったにしか起こりえないのだから、2機あることだけでも驚きだ。先ほどそのうちの一機がヨーテボリ大学の大学病院の上空を飛んでいるのが、私のアパートの窓から見えた。)


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前回、この火山噴火は金融バブルで大はしゃぎして、その後、経済危機のどん底を経験することになったアイスランド人に対するアイスランド神話の神様の戒めではないか、という説を紹介した(笑)が、よりもっともらしい説が実はある。それは、むしろ哀れなアイスランド人に味方する神様の御加護ではないか、というものだ。

アイスランドでは、ICESAVE銀行という銀行がバブルの頃、高い利回りを約束してイギリス人やオランダ人から多額の預金を集めていたが、金融危機に伴って、それが全部焦げ付いてしまった。アイスランド政府は、国内の預金者に対しては預金保護法を適用して預金を保護したものの、海外の預金者の救済は拒否した。

これに怒ったイギリス政府オランダ政府は、ICESAVE銀行に預けていた自国の預金者を自腹を切ってまず救済したうえで、その費用をアイスランド政府に支払うように要求した。金融危機と財政危機の中、アイスランド政府にはそんなお金がない。しかし、この要求を飲まなければ、アイスランドのEU加盟を認めない、とこの両国は迫った。

結局、アイスランド政府今後15年にわたって分割払いで両国に返済することを決定したが、これを巡っては国内で猛反対が起き、国民投票ではNO!という結果になった。

このアイスランドとイギリス・オランダ両国の争いは、このブログでも紹介したことがあるが、二つの国が人口30万あまりの小国を袋叩きにしているような感じさえする。

だから、それを見かねたアイスランド神話の神様は、イギリス・オランダに仕返ししてやろうと、火山を爆発させて、大量の火山灰をこの両国に送り込んだのだった。事実、この両国で航空路線が見事麻痺している! スウェーデンも、アイスランドの財政救済を巡って対立したことがあったので、今頃、しっぺ返しが来ているのだろう(笑)

経済危機で国が丸ごと敗退してしまったのだから、潔く負けを認めなさい! それとも、まだ抵抗を続けるつもり?