スウェーデンはIT先進国だと言われ、私も当初はずいぶん大袈裟な表現だと疑ったこともあったが、調べてみるといろいろな面でIT化や電子化が実用的な形で生かされていることに気づく。インターネットの普及や利用者の増加は他の国に比べても早かったし、それに対応する形でネットを利用した銀行取引などのサービスも早い段階で導入された。国税庁や社会保険庁もデータ管理や年末調整をIT化によって効率させたし、早くも2001年か2002年頃からネット上で確定申告ができるようになった。
携帯電話を財布代わりに使えるようなシステムこそないが、一方で、銀行カード(デビッドカード)やクレジットカードでの支払いは、私がスウェーデンに住み始めた2000年の段階で基本的にどこの商店やレストランなどでも可能だった。コンビニでも、小額の買い物からカードを使うことができた。
例はまだまだあるが、一般論として言えるのは、スウェーデンの社会は、新しい技術や製品を日常の生活の中でいかに実用的に生かしていくかを考え、実行していくのが上手だと思う。実用的なものである限り、それが他の国にない超最新のものであるかどうかにはこだわらない。技術そのものは既に確立されたものでもいい。ハイテクでなくたって、ローテクでもよい。要は、それをいかに活用していくか? それが重要なのだと考えられているように思う。そして、その活用の仕方が一つの新しい「技術」としてスウェーデンから「輸出」されていくことになる。
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ITのうまい活用の仕方として、もう一つ紹介したい。
現在は研究のかたわら、スウェーデンの大学の学部生を相手に、いくつか講義も担当しており、学生にレポートなどの課題提出を求めることも多い。そんな時、学生は自分達(多くの場合グループワークなので)のレポートを直接、私に提出するのではなく、Wordの文書として私宛の特別なメール・アドレスに送信する。
これは、ネット上で見つけた文章や他の学術論文、もしくは他の学生が以前書いたレポートの一部をそのまま自分達のレポートに使うという盗用や剽窃を防ぐためのシステムなのだ。
特別なアドレス、と書いたのは、私の通常のアドレスではないということである。その特別なアドレスに送られたメールは、添付された文書がすべてフィルターにかけられ、ネット上の情報や学術論文、他の学生や他大学の学生が過去に書いた様々なレポートと照らし合わせ、全くの盗用やよく似た文章がないかどうかがチェックされる。
そして、私の通常のアドレスには、その学生のレポートのオリジナルファイルと、フィルターにかけた分析結果がメールで送られてくる。
例えば、こんな感じだ。(もともとスウェーデン語ですが和訳しました)
そして、分析結果の詳細をクリックすると、盗用の疑いがある3つの箇所の抜粋と、それと酷似しているそれぞれの文書の該当箇所を見ることができる。ある時はそれがネットからの丸写しであることもあるし、ある時はある概念の定義の説明として、その情報源をきちんと示した上で引用しているケースもある。また、課題の内容によっては、学生の答え方がどうしても限られてくるケースもあり、その場合は盗用の意図が全くなくても、高い酷似率が示されるケースもある。
盗用チェックの際に比較対照として利用されるデータベースは、かなり膨大だ。一般公開されているサイトはもちろんのこと、パスワードが必要なサイトもデータベースに加えている(100億ページに及ぶサイトをカバーしているという)。また、出版物にしても、PDFファイルとしてネット上で手に入るものだけでなく、百科事典や日刊紙、学術雑誌、さらには一般書籍の一部も加えられている。学生が過去にこのシステムを通じて提出したレポートや論文も蓄積されている(その数は2009年2月の時点で150万部に及ぶとか)。そして、データベースは常に拡大している。
また、スウェーデンのほとんどの大学が同じ盗用チェックのシステムを利用しているため、他大学の学生が提出したレポートを、別の大学の学生が入手して、自分のレポートに一部分をコピーして提出した場合でも、盗用を暴くことが可能となる。このシステムは、課題・レポート提出だけでなく、学士論文や修士論文の提出の際ももちろん利用されている。
今から振り返ってみれば、学生のレポート作成作業もここ20年で大きく変わっただろう。ワープロやパソコンの登場によって、それまで手書きだった作業がモニター上でできるようになった。そして、インターネットが登場し、それが提供してくれる情報量が膨大になるにつれ、コピー&ペーストするだけで、それらしいレポートが簡単に作成できるまでになってしまった。だから、盗作や剽窃は世界中の大学が頭を悩ませているのではないだろうか。
スウェーデンでは、大学教員の数人がITやネットを活用した効率的チェック方法のアイデアを提案し、早くも2000年からこのサービスが事業化することになった。最初は限られた数の大学しかこのサービスを利用しなかったが、大学教員からの評判がよく、また、大学教育における盗用問題が社会的な問題となるにつれ、利用大学が増えていった。私がリサーチアシスタントとして働いていたヨンショーピン大学も2003年からこのサービス会社と契約を結んだ。大学教員向けの説明会が何回かあったのを覚えている。そして、私が今在籍してい
スウェーデン国内におけるこのサービスの成功談は、国外にも伝わっている。このサービスを提供しているスウェーデンの企業は、北欧諸国やヨーロッパ諸国、そしてアメリカなどでも事業を展開するようになっているのだ。
携帯電話を財布代わりに使えるようなシステムこそないが、一方で、銀行カード(デビッドカード)やクレジットカードでの支払いは、私がスウェーデンに住み始めた2000年の段階で基本的にどこの商店やレストランなどでも可能だった。コンビニでも、小額の買い物からカードを使うことができた。
例はまだまだあるが、一般論として言えるのは、スウェーデンの社会は、新しい技術や製品を日常の生活の中でいかに実用的に生かしていくかを考え、実行していくのが上手だと思う。実用的なものである限り、それが他の国にない超最新のものであるかどうかにはこだわらない。技術そのものは既に確立されたものでもいい。ハイテクでなくたって、ローテクでもよい。要は、それをいかに活用していくか? それが重要なのだと考えられているように思う。そして、その活用の仕方が一つの新しい「技術」としてスウェーデンから「輸出」されていくことになる。
ITのうまい活用の仕方として、もう一つ紹介したい。
現在は研究のかたわら、スウェーデンの大学の学部生を相手に、いくつか講義も担当しており、学生にレポートなどの課題提出を求めることも多い。そんな時、学生は自分達(多くの場合グループワークなので)のレポートを直接、私に提出するのではなく、Wordの文書として私宛の特別なメール・アドレスに送信する。
これは、ネット上で見つけた文章や他の学術論文、もしくは他の学生が以前書いたレポートの一部をそのまま自分達のレポートに使うという盗用や剽窃を防ぐためのシステムなのだ。
特別なアドレス、と書いたのは、私の通常のアドレスではないということである。その特別なアドレスに送られたメールは、添付された文書がすべてフィルターにかけられ、ネット上の情報や学術論文、他の学生や他大学の学生が過去に書いた様々なレポートと照らし合わせ、全くの盗用やよく似た文章がないかどうかがチェックされる。
そして、私の通常のアドレスには、その学生のレポートのオリジナルファイルと、フィルターにかけた分析結果がメールで送られてくる。
例えば、こんな感じだ。(もともとスウェーデン語ですが和訳しました)
文書ファイルのタイトル:「所得税減税が所得再配分に与える影響の理論的考察.docx」 結果:この文書の約7%の部分は、別の3つの文書の一部と酷似していることが分かった。 酷似箇所の最長は29文字であり、その部分の酷似率は89%である。 分析結果の詳細を見る場合は、以下のリンクをクリック。 https://**********************80498-71548 オリジナル・ファイルをダウンロードする場合は、以下のリンクをクリック。 https://**********************c7=78272
そして、分析結果の詳細をクリックすると、盗用の疑いがある3つの箇所の抜粋と、それと酷似しているそれぞれの文書の該当箇所を見ることができる。ある時はそれがネットからの丸写しであることもあるし、ある時はある概念の定義の説明として、その情報源をきちんと示した上で引用しているケースもある。また、課題の内容によっては、学生の答え方がどうしても限られてくるケースもあり、その場合は盗用の意図が全くなくても、高い酷似率が示されるケースもある。
盗用チェックの際に比較対照として利用されるデータベースは、かなり膨大だ。一般公開されているサイトはもちろんのこと、パスワードが必要なサイトもデータベースに加えている(100億ページに及ぶサイトをカバーしているという)。また、出版物にしても、PDFファイルとしてネット上で手に入るものだけでなく、百科事典や日刊紙、学術雑誌、さらには一般書籍の一部も加えられている。学生が過去にこのシステムを通じて提出したレポートや論文も蓄積されている(その数は2009年2月の時点で150万部に及ぶとか)。そして、データベースは常に拡大している。
また、スウェーデンのほとんどの大学が同じ盗用チェックのシステムを利用しているため、他大学の学生が提出したレポートを、別の大学の学生が入手して、自分のレポートに一部分をコピーして提出した場合でも、盗用を暴くことが可能となる。このシステムは、課題・レポート提出だけでなく、学士論文や修士論文の提出の際ももちろん利用されている。
今から振り返ってみれば、学生のレポート作成作業もここ20年で大きく変わっただろう。ワープロやパソコンの登場によって、それまで手書きだった作業がモニター上でできるようになった。そして、インターネットが登場し、それが提供してくれる情報量が膨大になるにつれ、コピー&ペーストするだけで、それらしいレポートが簡単に作成できるまでになってしまった。だから、盗作や剽窃は世界中の大学が頭を悩ませているのではないだろうか。
スウェーデンでは、大学教員の数人がITやネットを活用した効率的チェック方法のアイデアを提案し、早くも2000年からこのサービスが事業化することになった。最初は限られた数の大学しかこのサービスを利用しなかったが、大学教員からの評判がよく、また、大学教育における盗用問題が社会的な問題となるにつれ、利用大学が増えていった。私がリサーチアシスタントとして働いていたヨンショーピン大学も2003年からこのサービス会社と契約を結んだ。大学教員向けの説明会が何回かあったのを覚えている。そして、私が今在籍してい
スウェーデン国内におけるこのサービスの成功談は、国外にも伝わっている。このサービスを提供しているスウェーデンの企業は、北欧諸国やヨーロッパ諸国、そしてアメリカなどでも事業を展開するようになっているのだ。
学部学生や大学院生だけでなく、大学教員が執筆する研究論文にも、このシステムが必要な気がします。
日本でも時々大学教員の論文、博士論文で、剽窃が発覚することがあります。
スウェーデンでは、こうしたプロの盗作問題は生じないのでしょうか?
これはITの問題では無くて、カード取り扱い手数料の問題だと思います。
日本の場合、3~7%程度とちょっと高めです。
カード使用はイクラ以上と下限を設けている店も少なく有りません。手数料をお客さんから取る店も散見されるくらいです。本当は規約違反なんですけどね。
ただ、私のポイントは、そのような便利なものを日本ではなぜもっと早い段階で導入させようとしなかったのか、という点です。クレジットカード手数料が高いことが障害だとしても、それなら業界側がカードの使用者を増やしたり、利便性を高めるために、手数料を下げる努力をしたり、デビッドカードのような利便性の高いシステムを導入するような取り組みをすることはできたと思うのです。もしくは国が規格の統一化などを行うことで普及が容易になったかもしれません。
そうすれば、たとえば携帯電話を財布代わりに使って決済をするというようなシステムの到来を待たずして、便利な決済手段を広めることができたと思うのです。
一般的な話として、日本では一つ問題があると(上の例では、カード手数料が高い、という問題)、そこで思考や行動がストップしてしまい、その先(それでも普及を進めていくための解決策を探る)へ進まないことが往々にあると思います。日本は新しい技術やハードウェアにはすぐ飛びつくのですが、新しい技術の開発や到来を待たなくても、本当は解決の道は身近なところにあった、ということがよくあるのではないかと思います。
環境政策にしても、日本のジャーナリストをはじめ新しい技術やハードウェアの視察にはよく来るのですが、新しい技術であれ古い技術であれ、ではそれをいかに活用していくか、というソフトの部分にはあまり目を向けない、という話をよく聞きます。
そういう点を考えると、スウェーデンはその正反対と言ってもよく、そういう意味で、実用志向の強い社会だと思うのです。
こちらこそ御無沙汰しております。
日本では各大学の紀要など、デジタル化されていないものもたくさんあるのではないかと思いますので、あれらをデジタル化してひとつのデータベースを作ってほしいものです。そうしたら、おそらくその段階で既に酷似文章がたくさん発覚し、冷や汗をかくことになる「プロ」の研究者もたくさん出てくるのではないかと思います。
スウェーデンではどうなのか、具体的な統計は分かりませんが、発覚して大きなニュースになったこともあります。ペナルティーも大きいかと思います。
一般的な話として、スウェーデンで助教授や教授といった肩書きを持つためには、博士号学位の授与権を持つ大学で博士号を取得しなければならず、また、レフリー付きの国際的ジャーナルに定期的に研究を発表していることなどが条件だと思います(正確な規定は忘れましたが)。
ですので、大学以外の世界から大学に入ってきていきなり「教授」や「助教授」といった肩書きをもつことはできません(名誉号は別ですが)し、研究はせず教育だけに専念している教官はあくまで「大学教官」であって、教授や助教授とよばれることはありません。そのため、プロの研究者の質の保証はある程度できているのではないかと思います。
今回、スウェーデン関係で検索していて、こちらのブログにたどり着きました。
スウェーデンの今が伝わる、素敵なブログですね。またちょこちょこ拝読させて頂きます。
論文チェックの話は、現在レポートや論文に追われている身ですのでかなり身近に感じます。限られた時間内で、特に昨今のようにネットなどに膨大な情報がある世の中では、引用から導いた分析などを自分の言葉で書いたつもりでいても、既に誰かが同じような事を同じような表現で書いていた、という事もありうるわけで、このチェック機能を持っていない学生には頭が痛いなぁと思う部分もあります。
>このチェック機能を持っていない学生には頭が痛いなぁと思う部分もあります。
確かに、学生としてのそのような意見もあるかもしれませんね。ただ、たとえ似た表現になってしまったとしても、意図したコピーかそうでないかは、前後の文脈や表現の使い方などから、ある程度は分かると思います。意図したものでなければ、それは「白」ですので、たとえ同じような表現でも、間違って罰せられる可能性は少ないでしょう。
類似性の高いレポートを提出した学生は、呼び出して説明を求めますが、その際にある程度、分かると思います。もちろん完璧ではありませんが。