その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はフィリッパ・ペリー(著)、高山真由美(訳)の『 子どもとの関係が変わる自分の親に読んでほしかった本 』です。
【はじめに】
最近、あるコメディ番組を見る機会がありました。番組ではマイケル・マッキンタイアというコメディアンがこう言っていました。「子育てをするとき、私たちがしなければならないことは4つあります。子どもに服を着せること、食事をさせること、風呂に入れること、寝かしつけることです。実際に親になる前には夢がありました。子どもとしょっちゅう楽しいことをするのだろうと思っていましたよ。しかし現実には、いま言った4つをこなすだけで毎日が戦争のようです」。
彼が子どもをなだめて髪を洗わせようとしたり、コートを着せようとしたり、外へ連れだそうとしたり、野菜を食べさせようとしたりといった真似(まね)をして見せると、観客席から大きな笑い声があがっていました。似たような経験のある親なればこその笑いです。
親(*)になるというのは大仕事です。退屈に感じたり、気が滅入ったり、イライラしたり、苦労もあるでしょう。同時に、これまでで一番おかしくて、喜びに溢れ、愛に満ちた、このうえなくすばらしい経験にもなりえます。
おむつが取れなかったり、子ども特有のさまざまな病気にかかったり、子どもが(幼児期であれ、10代であれ)癇癪(かんしゃく)を起こしたりといった、子育てにつきものの瑣末(さまつ)な厄介事にはまり込んでいるとき、あるいは、フルタイムの仕事を終えて帰宅し、これから本当の労働──ベビーチェアの隙間に詰まったバナナを掻(か)きだしたり、先生からの呼び出しの手紙を読んだりといった骨折り仕事──が待っているようなときには、親でいることを広い視野で捉えるのは難しいかもしれません。
そんなときに、本書は子育ての全体像を提示します。あなたが一歩下がって、何が大事で何がそうでないか、子どもがなりたい自分になれるように手助けをするにはどうしたらいいかといったことを見きわめるための本なのです。
子育ての核心は、子どもとの関係にあります。人が植物だったら、親子関係は土壌です。親子関係は人という植物を支え、育み、成長させ、場合によっては成長を妨げます。いざというときに頼りになる親子関係ができあがっていなければ、子どもの安心感は損なわれてしまいます。あなたと子どもとの関係は、子どもにとって──やがては子どもの子どもにとっても──力の源となるべきものです。
私は心理療法士として、子育ての困難な側面にぶつかって悪戦苦闘する人々の相談に乗ってきました。そうした仕事を通して、親子関係がどのように機能不全を起こすのか、また、うまく機能している状態を取り戻すにはどうしたらいいかを観察する機会がありました。本書のねらいは、子育てにおいて何が重要かを提示することにあります。あなたや子どもの感情にどう取り組むか、子どもをよりよく理解するためにどう寄り添えばいいか、衝突や拒絶をくり返すことなく真のつながりを築くにはどうすればいいかを考えていきます。
私は子育てを長い目で捉えています。ちょっとした秘訣やコツで乗りきろうとは思っていません。私が興味を持っているのは、子どもとの関係をどう築いたらいいかであって、子どもをどうコントロールするかではありません。自分の乳幼児期や子ども時代をふり返ることを読者のみなさんに勧めています。自分自身が育てられてきたなかで、してもらってよかったことは継続し、助けにならなかったことはやめるために。
本書では、親子関係をより良いもの、子どもが育つときの拠りどころとして最適なものにする方法を示していきます。妊娠中のありようが将来の子どもとのつながりにどう影響するか、また、子どもの力の源となり、あなたにとっても満足のいく関係を築くには、乳幼児期、学童期、思春期、大人になってからのそれぞれの時期にどう接したらいいかも論じていきます。それを実践するうちに、服を着せ、食事をさせ、風呂に入れ、寝かしつけるための不毛なバトルも大幅に減るでしょう。
これは、子どもを愛するだけでなく、子育てを楽しみたいと思う親のための本なのです。
【目次】