酒が進むにつれ、飲むピッチが速くなる。
酒好きなら、「うん、うん」とうなずく方が多数ではないだろうか。かくいう筆者もまさにそうだ。
最初のうちは「飲み過ぎないようにゆっくり飲もう」と自分に誓うのだが、1杯目のグラスが空く頃には、そんな誓いなんてとうに忘れている。そして、いつの間にやらペースを乱し、つい飲み過ぎてしまう。
飲み放題だと終盤に行くにつれさらにペースが加速。「ラストオーダーです」と言われると、すでに飲み過ぎているのが分かっているくせに、「追加でハイボールお願いします」と言ってしまう意地汚い自分が情けない……。
このコラムでも何度か書いているが、酒は食事をしながらゆっくり飲むのが体にも負担が少なく、歯止めもかけやすい。しかし酔いが回ると、食事がおろそかになり、どうしても飲むピッチが速くなる。
もっとペースダウンして、ゆっくり酒を味わうにはどうしたらいいだろうか――そう思っているとき、偶然にもユニークなビアグラスを教えてもらった。それが今回紹介する「ゆっくりビアグラス」だ。
このグラスを作製したのは、クラフトビール「よなよなエール」でおなじみのビールメーカーであるヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)。砂時計のような形をしていて、見るからに「飲みにくそう」。限定販売だったが、購入希望者が殺到したという。
どのような意図でこのグラスを作ったのか。実は、深い意味が込められているのだという。同社の代表取締役社長の井手直行氏に話を伺った。
飲む時間が通常の3倍かかるグラスを開発
クラフトビールを製造する会社が、ビールをゆっくり飲むグラスを作るなんて驚きだ。グラスを作るきっかけは何だったのだろうか。
「2024年2月に発表された厚生労働省の『健康に配慮した飲酒に関するガイドライン』がきっかけの1つです。それ以前から、自分も含めた飲み手の健康について考えなければならないと社内で話していました。健康に配慮した適正飲酒のためには、飲み過ぎないように、『ゆっくり飲む』ことが大切です。ただ、『ゆっくり飲んでください』と言うだけでは、こちらのメッセージがうまく伝わらない。ゆっくり飲んで、かつおいしく、楽しく飲める方法はないだろうか。しかも、うちの会社らしく、ユーモアあふれる方法で伝えられないだろうかと考えたとき、このグラスのアイデアが生まれたんです」(井手氏)
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