安倍首相が28日招集の臨時国会で衆議院を解散する可能性が高まっている。いわゆる冒頭解散だ。政府与党は、衆議院選挙について来月10月公示、22日投票の日程で調整しているという。
確かに、自民党にとって今はチャンスである。安倍内閣支持率は、ここへ来て危険水域とされる30%を脱した。産経新聞とFNNが16、17両日に実施した世論調査での支持率は、50.3%まで回復した。読売新聞の調査では50%、日経新聞・テレビ東京は46%、朝日新聞は38%、毎日新聞は39%だ。
さらに、今は野党が弱体化している。特に民進党は、次から次へと離党者が相次いでいて、まとまりようがない。山尾志桜里議員のスキャンダルも痛手になった。
政治団体である「日本ファーストの会」も、まだ具体的な体制が整っていない。代表を務める若狭勝氏と細野豪志氏、小池百合子東京都知事はどのように連携していくのか。28日の臨時国会招集前には新党を結成すると言っているが、どうなるのか。
野党がバラバラになっている今、安倍首相は「チャンスだ」と判断したのだろう。
これに対し、野党や新聞、テレビは「全く大義のない解散」と非常に手厳しく批判している。共産党の小池晃書記局長は、衆議院解散について「安倍首相は仕事人内閣とか仕事師内閣とか言っているが、本当に『仕事しないかく』になっているんじゃないか」と主張した。
さらに野党は、「これは森友・加計の疑惑隠しだ」と指摘している。臨時国会が始まれば、当然、森友・加計問題について野党から厳しく追及される。「その前に解散するのは、無責任そのものではないか」と民進党の前原誠司代表は強調した。
共産党の志位和夫委員長は、「冒頭解散は、究極の党利党略、権力の私物化であり、憲法違反の暴挙だ」と痛烈に批判した。非常に厳しい言葉である。
確かにそういう問題は多々ある。しかし、安倍首相が早々に解散する理由は、「今がチャンス」だけではないと僕は思う。
なぜ訪米後の意思決定なのか
安倍首相は訪米直前の18日、衆議院の解散・総選挙について「帰国後に判断する」と述べた。
これは一体、どういうことか。僕は、安倍首相はトランプ大統領の「本音」を確かめているのではないかと考えている。
本音とは何か。
ニッキー・ヘイリー米国連大使は、「北朝鮮は戦争を求めている。あらゆる外交努力を尽くすが、米国の忍耐にも限界がある」と発言した。さらにマティス米国防長官は、「韓国の首都ソウルを重大な危険にさらさずに北朝鮮に軍事力を行使する選択肢がある」と述べている。
つまり米国は、北朝鮮への武力行使について本気で考え始めているのではないか。安倍首相も同様の疑いを抱いている。もし、米国の武力行使が現実となれば、韓国や日本にも被害が及ぶ可能性がある。これだけは避けなければならない。
14日、トランプ大統領は、11月に日本、中国、韓国などを訪問する意向を明らかにした。中でも目玉となるのは、中国でのトランプ・習近平会談だ。米国は、この時までは武力行使に踏み切ることはないだろう。やるとすれば、12月以降だ。
そこで安倍首相は、今回の訪米で、トランプ大統領に「武力行使を本気でやろうとしているのか」を確かめようとしているのではないか。
もし、12月以降に武力行使の可能性があれば、有事の前に解散し、選挙をして体制を整えなければならない。安倍首相はそのように考えているのではないだろうか。
自民党の萩生田光一幹事長代行は、「北朝鮮の脅威とどう向き合うかも含めて国民に説明する必要がある」と述べているが、これは米国による武力行使の意味も含まれている。
逆に言えば、武力行使の恐れがないと判断すれば、選挙をしない可能性もある。
余談だが、僕は、安倍首相に「トランプ大統領と会談する前に、中国の習近平に会うべきだ」と話したことがある。
もし、中国やロシアが北朝鮮を核保有国として認めることになれば、当然、朝鮮半島のバランスを均衡させるために、米国は「韓国も核保有国にしろ」と主張するだろう。韓国が核保有国になれば、日本でも核を持つべきだという意見が強まりかねない。
「韓国や日本が核保有国になることは、中国にとって最悪の事態である。回避しなければならない」と習近平に伝えるために、安倍首相は訪米の前に訪中すべきではないかと僕は伝えた。
自民党にとってのリスクとは
もし、安倍首相が解散・総選挙に踏み切るとすれば、自民党にとってリスクもある。これをきっかけに森友・加計問題が再燃し、「疑惑隠し」どころか支持率の低下にも繋がりかねないからだ。
先にも述べたように、今は野党にまとまりがない。選挙をするならば、確かにこのタイミングは自民党にとって有利である。森友・加計問題の追及から逃れたいという思惑もあるだろう。
しかし、自民党はそこで議席を大幅に失うリスクも同時に抱えている。マスメディアがこれだけ「大義なき選挙」「疑惑隠し」と報じている。そのメッセージは国民に確実に伝わっているはずだ。実際に僕も、自民党の議席数は高い確率で減ると思う。
問題は、その減り方だ。大幅に議席を失えば、安倍首相は総裁選で敗北する。石破茂氏、岸田文雄氏、野田聖子氏らがポスト安倍を狙っている。
それでも選挙を早める理由の一つには、米国の武力行使の可能性があると思われる。野党は「大義なき選挙」と批判しているが、武力行使の前に体制を整えることは、日本国にとっての大義である。
安倍首相は22日に帰国する。その後、衆議院解散についてどのような判断を下すのか。まずはここに注目したい。
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