「5月にこの場で『挽回したい』と申し上げた。実質的には(営業利益が)過去最高となった前期並みを達成できている」。円高逆風下の決算会見でも、トヨタ自動車の伊地知隆彦副社長の言葉からは自信が垣間見えた。

8日の決算会見で説明するトヨタ自動車の伊地知隆彦副社長(写真:つのだよしお/アフロ)
8日の決算会見で説明するトヨタ自動車の伊地知隆彦副社長(写真:つのだよしお/アフロ)

 トヨタは11月8日、2016年4~9月期決算を発表した。2017年3月期通期では5期ぶりの減収減益決算となる見込み。連結売上高は前期比約2兆4000億円減の26兆円、連結営業利益は同約1兆1500億円減の1兆7000億円にとどまる見通しだ。

 ただし、営業利益は8月の前回予想より1000億円上方修正し、減益幅は縮まる見込み。伊地知副社長が「挽回したい」と話してから半年で、為替やスワップの影響を除くと1800億円の利益を積み増す計算になる。

 上方修正した1000億円の内訳は、原価改善400億円、営業努力150億円、減価償却費などの減少100億円、その他がマイナス50億円で計600億円。残り400億円分は為替が前回予想より円安に振れることを見込んだ。

カンパニー制が原価改善で効果発揮

 「従来と同じように、仕入れ先との原価改善、VA(価値分析)、工場や物流のカイゼン。上方修正の背景は色々あるが、今回の決算のウリはない」。伊地知副社長は特別なことはないとした後で、こう続けた。「4月から導入したカンパニー制と、ブレグジット(英国のEU離脱)が決まった後の緊急収益改善の効果が出た」。

 トヨタは今年4月、製品群ごとに7つのカンパニー体制に移行。短期・中期の商品計画や製品企画の決定権を各カンパニーに移管した。それまでは生産技術などの機能軸でビジネスユニットを分けていたが、企画から生産までを、より一気通貫でコントロールできる組織に変えた。

 この効果が早くも出た格好だ。「機能軸に加えて、各カンパニーのプレジデントのリーダーシップで進めたことで、改善の方法が早め早めに出てきた」(伊地知副社長)。

 一方で年々増えている研究開発費と設備投資はそれぞれ1兆700億円、1兆3400億円(いずれも通期見通し)で前回発表から据え置いた。

 厳しくなる環境規制への対応や自動運転などの新技術の開発で、自動車各社の開発費は増大傾向にある。逆風下でも簡単に削減できない状況が続く。

 特にエコカーは次世代車の主流が見えにくく、経営資源を特定のパワートレインに振り向けるのが難しい。中でも世界トップのトヨタは、“博打”ができない立場にいる。

 「我々のビジネスは車種も地域もフルライン。全方位だ。何かがダメでも他で補う」。伊地知副社長はこう説明する。同じことがパワートレインにも当てはまる。

「究極のエコカーは燃料電池車だ」

 トヨタの研究開発費は足元では内燃機関車とHV(ハイブリッド車)で相当な割合を占める。時間が経つに連れて、PHV(プラグイン・ハイブリッド車)、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)へとシフトしていく見通しだ。

 EVに舵を切って2020年には量産体制を整えるという報道が出ていることに対して、伊地知副社長は「我々(の本命)はFCVだと思っている。究極のエコカーはFCVであり、今も考えは変わっていない。だからFCVに重点を置いた開発を続ける。ただし、その過程では様々な選択肢がある。ゼロ・エミッション達成にはEVの選択肢がある。その国のインフラ整備の状況に応じて、商品としての投入の検討が可能な体制にはしておきたい」と述べた。

販売台数は1000万台をキープ

 通期のグループ販売台数計画は1010万台と前回から5万台引き下げるも大台をキープする。北米で乗用車需要がSUV(多目的スポーツ車)やトラックに移行していることや、国内軽自動車の需要減を見込んだ。

 主力市場の一つである北米については、「2017年も安定的な市場が続く。主力セダンや小型SUVを投入する。需要にしっかり応えていきたい」(伊地知副社長)とした。

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