世界的に認知が広まりつつある「SDGs(持続的開発のための目標)」。国連におけるSDGs推進の責任者であるデヴィッド・ナバロ博士に、SDGs達成に向けて、国連が企業に期待する役割や進捗状況について聞いた。

(聞き手は日経エコロジー副編集長・ecomom編集長、村上富美)

──日本でも、国連が掲げる「持続可能な開発のためのアジェンダ(2030年アジェンダ)」とその行動計画「SDGs」が注目されています。2030年までの目標達成に向けて、民間企業に期待することは何でしょうか。

<b>デヴィッド・ナバロ博士</b><br />国連事務総長特別顧問。担当は持続可能な開発と気候変動のための2030年アジェンダ。各国政府や関係団体と協力し、2030年アジェンダの活性化と実行に当たる。ナバロ博士はまたビッグデータを社会的に活用する取り組みや、女性や子どもの権利、飢餓の撲滅などの分野も担当。公衆衛生や栄養改善の分野で30年以上の経験を持つ。1999年に国連に入り、WHO(世界保健機構)の要職にあったほか、鳥インフルエンザやエボラ出血熱の対策にも当たった。
デヴィッド・ナバロ博士
国連事務総長特別顧問。担当は持続可能な開発と気候変動のための2030年アジェンダ。各国政府や関係団体と協力し、2030年アジェンダの活性化と実行に当たる。ナバロ博士はまたビッグデータを社会的に活用する取り組みや、女性や子どもの権利、飢餓の撲滅などの分野も担当。公衆衛生や栄養改善の分野で30年以上の経験を持つ。1999年に国連に入り、WHO(世界保健機構)の要職にあったほか、鳥インフルエンザやエボラ出血熱の対策にも当たった。

ナバロ博士:2030年アジェンダは地球の未来と人類のためのプランです。2015年9月、国連加盟各国が承認しましたが、その内容は普遍的なものであり、あらゆる発展を推し進めるものです。また、すべての社会活動に関わるものであり、世界の人々が対象です。

 私たちは、変革をもたらすアジェンダと呼ぶこともあります。貧困を減らし、人々の暮らしを豊かにすることを想定しているものだからです。より大きな豊かさを分かち合い、不平等や不正と戦い、平和とパートナーシップを推し進める計画でもあります。

 この具体的な目標を定めたSDGsを達成するために、国連は各国政府や議会、企業、市民団体などあらゆるセクターと連携していく必要がありますが、なかでも企業を中心的存在と位置づけています。SDGsの枠組み自体に、企業が様々な場面で果たせる役割を組み込んでいます。

国連が企業に期待する4つの活動

──具体的に企業にどんな活動を期待しますか。

ナバロ博士:企業に期待するのは、第一に自社の事業戦略をSDGsと照らし合わせ、自社の戦略がゴール達成に貢献するものかどうか、検証することです。第二にSDGsの中でも、クリーンエネルギーの実用化といった、実現に向けて困難が伴う分野での各社のイノベーションや研究開発に期待しています。

 第三に企業の事業活動や廃棄物削減に関する取り組みにも期待しています。例えば、アフリカでの電力化事業やクリーンエネルギーの推進などです。第四に、現在、製品やサービスが届いていない地域への進出を期待したいと思います。企業はあらゆる場面で力を発揮できると考えます。

「SDGs(持続的開発のための目標)」の認知度は高まりつつあり、日本企業の戦略や事業活動にも大きな影響を与え始めている
「SDGs(持続的開発のための目標)」の認知度は高まりつつあり、日本企業の戦略や事業活動にも大きな影響を与え始めている
国連ビル1階ホールに掲示された「MDGs(ミレニアム開発目標)からSDGsへ」の移行を示すポスター。2000~2015年の目標だったMDGsは貧困対策など8つの目標を掲げていたが、SDGsの目標は環境や働きがいなどを含め17と大きく増えた
国連ビル1階ホールに掲示された「MDGs(ミレニアム開発目標)からSDGsへ」の移行を示すポスター。2000~2015年の目標だったMDGsは貧困対策など8つの目標を掲げていたが、SDGsの目標は環境や働きがいなどを含め17と大きく増えた

──博士はこれまでのインタビューで2017年末までに世界の20億人にSDGsを認知させたいとおっしゃっていますね。その狙いは。

ナバロ博士:世界の20億人という数は、70億の世界の人口の3分の1弱です。ここまで世界で認知度が上がると、SDGs達成を前進させる大きな力になると思います。市民はSDGsを知ることによって、目標達成を政府や企業に働きかけていくと思われるからです。

 私たちの見積もりでは、世界の20億人に認知してもらうためには、100万人のSDGs推進者が必要です。この点でも企業に大きく期待しています。企業内のSDGs推進者が活動することで消費者にリーチすることができます。もちろん大学や学校、宗教団体などの活動にも期待をしていますが、こうした動きは消費者が国連の目標を理解する流れを作ると思われます。

 そのなかでも日本は大変重要な存在です。日本企業は世界に巨大な市場を抱えています。またG7のメンバーでもあり、TICAD(アフリカ開発会議)にも象徴されるようにアフリカ市場への取り組みにも熱心です。東京にはSDGs推進本部も設置され、活動を牽引しています。

機関投資家や開発銀行にSDGs推進を呼びかける

──加盟国の取り組みには違いがあるとお感じですか。

ナバロ博士:SDGsに積極的に取り組む21の国が2016年、ニューヨークの国連本部でSDGsの進捗状況を発表しました。足並みは様々ですが、こうした国や日本を含め少なくとも50カ国が国の政策に取り入れるなど活発な動きを見せており、さらに約50カ国がそれに続いているという状況です。

──ほかにも、SDGsを推進する動きはありますか。

ナバロ博士:特にわれわれ国連が注目するのは、年金組合などの機関投資家や開発銀行の動きです。こうした投資家に対して、SDGsの推進を彼らの投資計画に組み込むよう働きかけていきたいと思っています。ほかにも携帯電話会社がビッグデータを公共の利益のために提供するといった動きや、地方公共団体が持続可能性を意識した政策を実施したり、世界の主要な広告代理店が広告活動を通じてSDGsの促進に取り組んだり、といった動きにも期待しています。まだまだこうした動きは広がると思います。

──米国のドナルド・トランプ次期大統領は、環境政策等に熱心ではないと言われます。この点をどう見ますか。

ナバロ博士:はっきり言いますが、各国政府は既にSDGsに署名したのです。これは合意文書であり、政権が交代したからといって変更はできないのです。またどの国でも、特に25歳以下の層は、彼らの子世代、孫世代がきちんと生きていくことのできる世界を望んでいます。つまり世界の政府はSDGsの実現に動くべきです。ある国が賛同できないと言っているからといって、持続的開発に取り組まないというわけにはいかないのです。

 一方で、カナダ、メキシコをはじめ、北欧の各国、オランダ、フランス、ドイツなどもSDGsを活発に推し進めています。英国も積極的です。もちろん日本もです。ブラジルやインド、中国など中程度の所得国も熱心です。南アフリカ、ナイジェリアも非常に前向きですし、インドネシアなども非常に優れた取り組みをしています。

 繰り返しますが、どこかの国が消極的だからといって心配する必要はありませんし、政権が交代したからといって立ち止まることはできないのです。

SDGsのロゴを製品パッケージに

──SDGsの達成度については、どのように検証していくのですか。

ナバロ博士:169のターゲットについては、達成を検証する指標を設けていますし、ワールドデータフォーラムといった場なども含め、ビッグデータを使った検証を考えています。達成度を測るのが難しい目標もありますし、性差や地域差などを調べるにはデータを掘り下げる必要があるでしょう。また経済的に貧しくデータを集めるのが難しい国もあるでしょうが、可能な限りデータを集め、分析に取り組みたいと思います。

──SDGsを広めていくために、国連としても広報などを考えていますか。

ナバロ博士:さきほども広告代理店の話をしましたが、世界の主要な広告代理店6社と提携しSDGsのメッセージを届けていきます。国連グローバルコンパクトに署名した企業を通じて、消費者に告知していきたいと考えています。またすべての企業に、SDGsに対応した商品のパッケージにSDGsのロゴを印刷するなど、SDGsを生かしたブランド化も検討してほしいと思っています。すでに企業の中にはSDGsの意図を反映した原料を使う取り組みも見られます。こうした動きはぜひ、広がってほしいと思います

国連本部ビル1階ホールに掲示された歴代国連事務総長の肖像画(イランが寄贈したシルクの織物)。米国の国連政策の変化が懸念されるが、持続可能な環境・社会に向け、各国の連携はさらに重要になっている
国連本部ビル1階ホールに掲示された歴代国連事務総長の肖像画(イランが寄贈したシルクの織物)。米国の国連政策の変化が懸念されるが、持続可能な環境・社会に向け、各国の連携はさらに重要になっている
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