上田準二さんの「お悩み相談」。今回の相談は、勤める会社のLGBT対応を懸念する30歳の女性から。前向きな意識が芽生えたことを歓迎する一方で、管理職の一部が危うい方向に向かっていると心配します。上田さんは「当事者から相談されない限り、表立って動かない方がいい」と助言します。
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悩み:上層部や管理職の一部が進めているLGBT対応が気がかりです。対応者の前向きな意欲を応援しつつ、リスクは避けたいと考えています。何かできることはありますか。
やや古い体質の企業の管理部門に勤めている者です。この数年、社内で発達障害やLGBT(性的少数者)への理解を深める良い空気感が生まれている一方で、上層部や管理職の一部が危うい方向に向かっているのが気がかりです。例を挙げますとマイペースな若手社員を素人判断で発達障害だと認定したり、LGBTアライ(支援)企業になるべく社内に当事者がいないか探し、物腰柔らかな独身男性社員にそれとなく探りを入れたりしています。仮に発達障害やLGBTに偏見を持たない者だとしても、上記の行為を受ければ、プライベートな事柄に関する干渉と感じるかもしれず、会社にとってリスクになります。
今の時代にキャッチアップする意識が社内に芽生えたのは歓迎すべきことです。一方で、無自覚な行動がせっかくの取り組みに水を差すことも避けたいです。私には権限はありませんが会社に愛着があります。何かできることがあればご助言いただきたく存じます。
(30歳、女性、会社員)
上田準二:なかなか難しい相談だね。相談者さんの会社が時代の変化に合わせて、LGBTを理解し支援する「アライ(=ally、同盟や支援を意味する英語)」の取り組みを進めているのは歓迎すべきことでしょう。大事なことだと認識していても、実際に一歩踏み出せる企業は限られているからね。
小笠原啓(日経ビジネス編集):一方で、やや勇み足気味の管理職がいるのが気になるそうです。
上田:相談者さんの目には危うく映るのかもしれないね。進め方を間違えると会社にとってリスクになるわけだから。
では、相談者さんはどう振る舞えばいいのか。少なくとも、LGBTの当事者を探すような行動は絶対に避けるべきだよね。仮に上司からそのようなことを依頼されても、きっぱりと断りましょう。一方で、上層部や管理職の振る舞いをあれこれ注意するようなこともやめておこう。度を超していれば別だけれど、前向きな動きに水を差してしまいかねない。
会社全体としてLGBT当事者への理解を深め、支援していくことを決めた以上、相談者さんの立場から意見できる範囲はおのずと決まってくるでしょう。投稿にある一部の上層部や管理職だって、それなりに研修を受けているだろうし、何らかの信念を持って行動しているはずだ。会社の中で不平等な扱いを受けている人がいるなら、それを是正するのが管理職の1つの仕事だからね。相談者さんに権限がないのであれば、心配する必要もないと思うよ。
小笠原:でも、一部の管理職に対しては何らかの形で懸念を伝えたい、と。
表立って意見するのは逆効果に
上田:思いは分かるけれど、相談者さんの立場で表立って意見すると逆効果にならないかな。言い方やタイミングを間違えると、相談者さん自身がLGBT支援に反対していると誤解される恐れがある。お勤めの会社に内部通報制度があれば、まずは匿名で注意喚起するのがいいかもしれないね。「会社のLGBT支援の動きは歓迎していますが、現場ではやや無自覚な動きがあるようです。傷つく人が出ないよう、細心の注意を払って取り組むべきではないでしょうか」、ぐらいのことは伝えてもいいだろうね。
小笠原:仮に、それとなく探りを入れられた「物腰柔らかな独身男性社員」から相談されたらどうしましょうか。
上田:上司から何らかの打診があったけれど、面と向かっては言いづらいから相談者さんに頼ってきたという構図かな。だとしたら、一肌脱がざるを得ないだろうね。相談者さんが代弁する形で上司に問題提起するというやり方もあるだろうけれど、それだと逆に波紋が広がりかねない。まずは男性の話をじっくり聞いた上で、内部通報制度の利用を促すのがいいかもしれないね。
その際は、社内で「犯人捜し」のような事態にならないよう注意してください。せっかくの取り組みが台無しになりかねないから。
小笠原:結論としては、関わらざるを得ない状況になるまでは静観するのがよさそうですね。
上田:そうなるね。相談者さんの立場から見える風景と、実際に対応している管理職が見ている景色は違うと思うんだよね。会社としての取り組みの是非を、動き始めたばかりの段階で判断することはやめておこう。相談者さん自身が変な打診を受けたり、同僚から悩みを打ち明けられたりしたら別だけれど、それまでは静観していた方がいいでしょう。古い体質の企業が前向きな方向に変わろうとしていることは間違いない。その事実を優しい気持ちで評価してあげましょう。
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