森功氏は、2005年ごろから地面師事件に関する取材を始めた。前編(「地面師」著者が明かす手口 なぜ不動産のプロもだまされるのか)では、地面師詐欺の特徴やなぜ不動産のプロがだまされるのかを聞いた。後編では、地価上昇局面で地面師に狙われやすいエリアや詐欺を防ぐ方法、取材の裏話を聞く。
『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(講談社、18年)を読みましたが、地面師詐欺において、犯行グループ全員を起訴することは非常に難しいそうですね。なぜでしょうか。
森功氏(以下、森氏):地面師事件は複雑であるがゆえ、捜査には不動産の法的な知識や過去の経験が物を言います。ですが、事件件数に対して、地面師詐欺事件を扱う担当刑事が少ないという状況が要因の一つです。
捜査本部の置かれる所轄署に刑事を派遣できず、そのまま起訴せず見逃してしまうというケースも何件か見ました。
ちなみに、警察や地面師などへの取材を基に大体の数字を割り出したところ、被害届が出ていないものも含めておそらく年間50~100件ほど地面師事件が起きているのではないかと見ています。
もう一つの要因として、事件の全体像をつかむのが難しいという点も挙げられます。
地面師は法律の盲点をうまく突いています。法的には、地面師詐欺の主犯は事件の計画者ではなく、地主になりすました人物です。ここに犯罪歴のない「素人」を充てるのです。警察が日頃からマークしている詐欺師ではないため、居場所を探すのも一苦労です。
たとえ捕まえられたとしても、事件の全体像を知らないため情報を引き出せず、計画者や首謀者にたどり着かないのです。
地面師事件では多くの場合、事件1件あたり役割ごとに複数人が関与するとのことでした。こうした組織化も地面師詐欺の立件が難しい一因ですね。地面師グループの間でだまし取ったお金の分配はどうするのでしょうか。
森氏:見てきた事例の多くで、計画の首謀者が報酬の大半を得ています。実際、地面師グループの配分には、なんとなく相場があるようです。
書類などの偽造を担当する「道具屋」や、人材を手配する「手配師」の報酬は数百万円と比較的安いものの、複数の案件を手掛けて稼ぐ傾向にあります。
なりすまし犯は法的には事件の主犯で、地面師詐欺では重要な役回りを果たしますが、多くの場合で報酬は数十万円程度です。お金に困った高齢者が、ちょっとした小遣い稼ぎの感覚で手を出しているケースも少なくありません。
リスクが高いエリア
地面師詐欺はどうしたらなくなるのでしょうか。
森氏:なくならないでしょうね。
特に土地の価格が上がり、詐欺を1回働けば数億~数十億円も稼げる場合は必ず地面師が現れるでしょう。現在も地価上昇の局面なので、リスクが高いと言えます。
不動産業者も、土地の売買において本人確認は徹底しているはずです。しかし、やはり競合より早く売ってもらうことがビジネス上で非常に大事ということもあり、詐欺だと気づかないまま取引を急いてしまうのです。
詐欺の技術もどんどん高度化しています。例えば、不動産取引に必要な書類も、偽造ではなく同じものをつくれるようになっているようです。3Dプリンターで実印をつくり、見分けがつかないほど精巧な書類を偽造する。偽の実印で改印して新たな印鑑証明をつくり出す行為を繰り返せば、どの時点で偽造したか分からなくなります。
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