某日。
「ただいま! ダーリンダーリン、帰りにコンビニでおいしそうなお惣菜売ってたから買ってきたよ! 夕ご飯が一品増えるにゃ!」
「あっ……それ……」
それ前に食べたことある。
不味くはなかったけど、「まあこんなもんか」って感じだったやつ。
ぱくり。
何これ超うまい。
「おいしいね!」
「お……おいしい……ね?」
(おかしい……)
別なある日。
「このお店おいしいね!」
「ほんとだね! ピザはチーズもソースも具材もおいしいし!
お手頃価格でこんなにおいしいお店が近くにあったなんてすごいね!」
後日。
「今日は奥様ちゃんがお出かけなので一人で来たのだ。ピザを独り占めするのだ」
「……あれ? 不味くはないけど……こんなもんだったか? ピザもやたら耳が多いし……」
「……と、このようなことが何度かあって気づいたのですが、つまり『奥様ちゃんと一緒に食べると何でもおいしく感じる』!」
「へー。あ、このお店、回鍋肉がおいしいからオススメだよ」
「つまり奥様ちゃんから何かが出ている!」
「え、そういう話?」
「奥様ちゃんのパッシブスキル『全てをおいしくする魔法』の効果範囲にいる間、食味の改善、満足感、多幸感などの影響が……」
「あっ、でも私もダーリンと一緒だと似た感じのあるよ」
「そうなの!?」
*回想シーン*
「季節限定ケーキ、おいしそうだにゃー」
「おいしそうだにゃー。ダーリンのも一口ちょうだい?」
「いいよ。……奥様ちゃんのはくれなくていいよ」
「ダーリン、レアチーズケーキ苦手だもんね」
「あーっ、ダーリンのケーキおいしい!」
「うん、おいしい」
「私のはちょっと思ってたのと違った! 私もそれにすれば良かった!」
「交換してあげたいとこだけど、あからさまに私の苦手なやつだからなあ……」
「うにゃーっ!」
数日後。
「はい奥様ちゃん、この前のケーキ、今日覗いたらまだ売ってたから買ってきたよ」
「ほんとに!? ありがとう!」
「……あれ、でも、この前ダーリンに分けてもらった時の方がおいしかった……」
*回想終了*
「……というわけで、私の場合、ダーリンから山賊したものの方がおいしいのにゃ」
「なんだその黒魔法スキル……」
我が家では、相手の食事を取って食べることを「山賊行為」と呼んでいます。
この記事が由来。
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バイキング(海賊)に対してバンディッド(山賊)。
「というわけで、ダーリンの回鍋肉ちょっとちょうだい」
「でもこれ、奥様ちゃんのと同じ鍋で同時に作った、完全に同じ回鍋肉だと思いますけど」
「いいから」
「おいしーっ!」
……さて。
「みんなでたべるとおいしいね」
みたいな表現は、それこそ小学生の頃から見聞きしてきました。
ただ、私は、
「みんなで食べると『楽しい』ならわかるけど、他人がいるかどうかで味覚が変わるとかなくない?」
とずっと思ってきたのです。
だって、他人が一緒にいたって、目が良くなったり耳が良くなったりしないじゃないですか。
味覚だって同じですよね?
しかしどうやらそうではないのだ、本当においしく感じるのだ……ということに、なんと私は四十代も半ばを過ぎてようやく気づいたのでした。
……そして、そう考えると、それは食べ物だけなのか? とも思います。
私が見るもの、経験するもの全てに、妻の「魔法」がかかっているのではないか?
妻がいてくれるだけで、この人生全てが、数段よいものに感じられているのでは……?
(正直、「素晴らしい」というより、生きづらさを感じることの多い人生ではあるのですけど、それでも)
彼女が末永く健康でいてくれることを願ってやみません。
ところで後日。
「私が一緒だとピザおいしい?」
「……このピザ、耳もおいしい……」
「してみると、メイド喫茶の『おいしくなる魔法』も、実はちゃんと効果があるのかも知れない……」
「『ぼっち・ざ・ろっく!』で見た! 同じ冷凍オムライスなのに、喜多ちゃんが『おいしくなーれ♥』ってやるとおいしくなるんだよね!」