このレビューはネタバレを含みます
暮らしは豊かでなくとも、ただ静かに日々を精一杯生きる一組の夫婦。
寡黙だが真面目で優しいヨウティエと、内気で身体に障害のあるクイイン。厄介者払いをされるようにお見合い結婚をさせられた2人が、慎ましく暮らしながらお互いを労り合う姿がただひたすら愛おしい。
ドキュメンタリーを見ているような感覚にさせられるほど、淡々と日常が流れていく。穏やかな2人を見ていると、心に明かりが灯るような気さえする。いつまでもこの夫婦の行く末を見守っていたいと思えた。
ところが、清貧な2人の暮らしも、村人や、市や、国に奪われてしまう。損な役回りをやらされても、交わした小さな約束を律儀に守っても、誰も2人の力にはなってくれなかった。素晴らしい慈愛の周りにあったのは、冷徹な現実。
本作を見て良かったと心から思うが、また見たいかと聞かれると二の足を踏んでしまう。なんて優しくて、暖かくて、そして悲しい物語なんだろう。
強烈に印象に残っているのは名もなきロバ。ヨウティエを投影したかの様に複数の隠喩を含んでいる。ラストシーンで涙する人も多いのでは。
原題は「隠入塵煙 RETURN TO DUST」。隠入塵煙=大切なものは塵の中に埋もれてしまう という意味
鑑賞後に原題を知ったので余計に悲しい…。邦題は「小さき麦の花」だが、こちらは本編中の2人が幸せに暮らしていた時のやり取りを連想させられて心が温かくなる。(邦題の方がロマンチック!)
2人が出会い、支え合い、汗を流し、心を通わせた日々。作ったレンガ、家、農作物、育てた家畜。それら全てが塵となり埋もれていくとしても、確かに在った2人の幸せ。その手触りを確かめる様な映画だった。
(終盤〜ラストにかけて恐ろしいほど泣いたので涙腺ゆるい方は覚悟して見るべし)