39歳「トランプの継承者」は田舎出身の「厨二病をこじらせた男」…?副大統領候補の「本心」

39歳の「トランプの元批判者」

7月中旬に開催された共和党全国大会で、J.D.ヴァンスがドナルド・トランプのランニングメイト、すなわち副大統領候補に選ばれた。トランプ化した共和党を象徴するような選択だ。

ヴァンスは2022年にオハイオ州で上院議員に初当選したばかりの39歳。11月の大統領選で勝利すれば、ミニレアル世代初の副大統領となる。78歳のトランプのちょうど半分の歳であり、あいだにいるX世代の議員を飛ばしての大抜擢だ。副大統領というからには、高齢のトランプに何かあったときには大統領職を引き継ぐ存在だ。そうでなくとも次の2028年大統領選では有力な大統領候補の一人となることは間違いない。そこから彼の抜擢を警戒するものもでてくる。

詳しくは後述するが、ヴァンスはいわゆる新たな保守運動である「ナトコン」や「New Right」に加わる一人であり、彼の台頭は新たな保守運動が夢見るアメリカ、これまでのデモクラティックなアメリカとは異なる、時に「ダーク・アメリカ」とも呼ばれる異なるアメリカを実現させると思われている。自由を享受するためにデモクラシーを諦め、権威主義的な体制を歓迎する、というスタンスだ。

その様子は、副大統領候補となった直後から始まった彼の過去の言動を掘り出した報道に見て取れる。「Childless Cat Lady」という言葉で子どものいない女性を非難したのに加え、子どものいない人たちと異なり、子どものいる親は社会の再生産に貢献しているのだから特別な投票権を与えるべきだとも語っていた。リベラルな個人主義を狙い撃ちした発言である。

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ヴァンスといえば、なによりもまず映画化もされたベストセラーの自伝『ヒルビリー・エレジー』の著者である。この自伝で彼は全米における名声を獲得したのだが、その頃はまだトランプの批判者だった。トランプのことを、人心を腐らせる「オピオイド」とか「ヒトラーの再来」などと非難していた。その彼が、トランプがホワイトハウスの主を務めた2017年から2020年の間にトランプ支持者に転身した。転向後、首尾よくトランプに認められたことで、2022年上院選で勝利した。だから今回の抜擢は、左派から右派への転向者に対してもトランプは暖かく迎える用意がある、という寛大さの誇示でもある。気にせず今からでもトランプの共和党の下に集いなさい、と。

もちろん、当選して2年しか経っていない上院議員――しかもヴァンスにとっては初めての公職――を副大統領に指名したことに疑問を抱く人は少なくない。共和党の政治家にも疑問視する人たちがいる。それでも、ヴァンス指名の立役者がドン・ジュニア、すなわちドナルド・トランプ・ジュニアだといえば話は違ってくる。彼の狙いは世代交代にこそあるからだ。46歳のドン・ジュニアからすれば、一気に若返りを図り、トランプ後の共和党掌握の道筋をつけようという魂胆だ。

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