激痛が襲う「胆石症」…誰も知らない世界「手術室の中」で、外科医はどう考え、何をしているのか。その全てを公開する

手術を受ける人も、外科医を目指す人も、まずはこの1冊から!

そもそも「手術」とは何か? 手術で大事なこととは?

手術の考え方から、器具の詳細、そして具体的な手術の流れまでを詳細に記述した科学新書ブルーバックス『手術はすごい』から、特に重要な部分をウェブ上の短期集中連載としてお届けします。

第8回のテーマは「外科医は手術をどう進めていくのか」です。「胆石症に対する腹腔鏡下胆のう摘出術」を取り上げながら、執刀医の思考過程を追っていきたいと思います。

(*本記事は石沢武彰著『手術はすごい』から抜粋・再編集したものです)

【書影】手術はすごい
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腹腔鏡手術で胆石の摘出に挑む

症例

49歳の女性。身長155cm、体重65kg。

  • 主訴:食後の右側腹部痛。
  • 現病歴:数ヵ月前から食後の右側腹部痛が続くため、近医を受診。超音波検査で胆のう内に径5mm程度の結石が十数個描出され、胆のう結石症と診断された。
  • 既往歴:特記すべきことなし。
  • 近医……かかりつけ医や、紹介元のクリニックの総称
  • 既往歴……過去に受けた手術や治療のこと。現在治療中の疾患を含む場合も多い

治療戦略

典型的な症状がある胆石症なので、腹腔鏡による胆のう摘出術(ラパコレ)の適応があるだろう。

熱や黄疸が出ているわけではないので、緊急性はないな。痛みは続くかもしれないが、申し訳ないけど手術までは痛み止めで対応しよう。

その間に、MRIで胆管の解剖と、胆のうより下流の総胆管に石が落ちていないかを確認しておこう。偶発がんの可能性もいちおう説明しておかないと。

  • 症状がある……胆のう結石があっても、症状がなければ手術をしないことが多い
  • 適応がある……「その治療や術式が医学的に妥当である」という意味でよく使われる
  • 解剖……生物の身体の一部(臓器や脈管)の位置、枝ぶりなどの確認を行うこと。必ずしも、切り刻む行為を指すわけではない
  • 偶発がん……手術前にがんの所見がなくても、胆石で切除した胆のうを病理検査に出すと、1%前後の確率で偶然に微小ながんが診断されることがある

手術の戦術

炎症は強くなさそうだし、昔の手術の癒着も心配する必要がないので、開腹でなく腹腔鏡でいけるだろう。

患者さんが「傷」のことを少し気にしているので、助手はいつもより細径の鉗子を使って、できるだけ整容性にも配慮しよう。

MRIで確認したところ総胆管には石がなかったので、手術前に内視鏡でクリーニングをする必要がなく、この点は良かった。一方、肝臓から出る胆管のうち1本が業界用語でいう「南回り」の経路を走っているので、胆のうをはく離する時に損傷しないように気を付けないと。蛍光胆道造影も使って確認しよう。

手術中に胆のうを大きく動かすと、結石が総胆管に落ちて手術後に残ってしまうかもしれないから、これも要注意だ。

  • 細径の鉗子……よく使われる鉗子は径5mm弱だが、体が小さい小児外科の手術や、特に傷を小さくしたい場合は径3mm程度の鉗子を使うこともある
  • 内視鏡でクリーニング……胃カメラの技術を延長して、胆管内にワイヤーを挿入し、総胆管に落ちた結石を内視鏡的に除去する治療法。総胆管に石がある場合、胆のう摘出術の前または術後に行う
  • 南回り……肝臓の後区域という領域から出る胆管は門脈や動脈の頭側、つまり胆のうから離れた場所を走行する「北回り」の頻度が高いが、日本人の約15%では血管の足側(南回り)の経路をとり、胆のうに近接する形になるので損傷に注意する必要がある
  • 蛍光胆道造影……手術前にICG(色素)を静注し、胆汁排泄されたICGが発する蛍光を近赤外カメラで撮影することで胆管の枝ぶりをリアルタイムに描出する技術

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