2013.12.11

[裏方NAVI]
篠田洋介(横浜F・マリノスフィジカルコーチ)<前編>「“おっさん軍団”強さのワケ」

 中村俊輔35歳、中澤佑二35歳、マルキーニョス37歳、ドゥトラ40歳――今シーズンの横浜F・マリノスは、主力メンバーに35歳以上の選手が4人と、J1の全18チームの中で最も主力の平均年齢が高かった。いつのまにかつけられた愛称は“おっさん軍団”。正直、「1シーズンもつのか」という見方もあったことは否めない。ところが、“オーバー35”の4人はそろって、シーズンを通してほとんど休むことなく、フル出場。その甲斐あって、今シーズンのF・マリノスは、ほぼ固定したメンバーで安定した力を発揮した。果たして“おっさん軍団”を支えたものとは何だったのか――。

「いい意味で、大人のチームでしたね」
 そう語るのは、2003年からF・マリノスの選手をサポートし続けてきたフィジカルコーチの篠田洋介だ。
「俊(中村)、ボンバー(中澤)、マルキ、ドゥトラの4人をはじめ、主力には経験年数の高い選手がそろっていました。彼らは自己管理能力が非常に高い。こちらから『これをやりなさい』『あれをやりなさい』と指示を出さなくても、自分に何が必要かがわかっているんです。よくベテランと言われる選手たちがここまでフル出場できるのは、何か特別なトレーニングをしているからではないか、と聞かれるのですが、チームとしてフィジカルトレーニングは特にはやっていないんです。練習以外のところで個人個人が、それぞれの目的をもって、きちんとトレーニングをしてくれている。それが今シーズンの結果につながったのだと思います」

 今シーズンのF・マリノスの強さは、ベテランだけに限ったことではない。主力メンバーのうち、ケガで長期離脱する選手は一人も出なかった。これもシーズンを通して力を発揮し続けた大きな要因のひとつであることは言を俟たない。とはいえ、昨シーズンまでと今シーズンとで、大幅にトレーニングを変更したことはないという。ただひとつ、工夫したことをあげれば、練習前のウォーミングアップだ。

 昨シーズンまで、篠田は練習時のウォーミングアップにボールを使ったパス回しなどのメニューを入れていた。だが、今シーズンはウォーミングアップでは一切、ボールを使っていない。その理由を篠田はこう語っている。
「実は、昨シーズンは捻挫をする選手が結構多かったんです。そこで、今シーズンはボールを使った練習をする前の身体づくりを集中してやろうと。ケガをせずに、きちんと練習に参加できるようにしたいということで、ウォーミングアップではボールを使わずに、筋肉と神経系をしっかりと刺激させることに集中させました。ボールとは切り離して、身体づくりというところに特化させたんです」

 ほぼ毎日、足のステップワークなどのメニューを入れ、さらには肉離れを起こしやすいハムストリングにしっかりと刺激を与える屈伸運動にも時間を費やした。「それが理由かどうかはわからない」と篠田は言うものの、少なからず影響があったことは確かだろう。篠田によれば、チーム全体のケガの総数は、昨シーズンまでとそれほど変化はないのだという。激しい接触プレーの連続であるサッカーという競技において、それは致し方ないことかもしれない。だが、ケガの重症度合いという面から見れば、長期離脱する選手が主力から一人も出なかったという結果が、ウォーミングアップの重要性を如実に表している。

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