2014.08.28
# 本

海外で目にした「ハゲ」のブランド力! 「気に病む」日本人男性800万人のステータスを変えられるか

『なぜ世界でいま、「ハゲ」がクールなのか』第1回
なぜ世界でいま、「ハゲ」がクールなのか』(講談社+α新書) 「はじめに」より

禿頭のブランド力

著者の福本容子氏(毎日新聞論説委員)

スイスのチューリッヒ空港からバスで2時間程。ダボスは美しい山々に囲まれた、標高1500mの高級スキーリゾートだ。普段の人口はわずか1万1000人。木々も建物も厚い雪を被り、街の灯りがまたたく冬の夜景は、まるでおとぎ話に出てくる挿絵のよう。

その俗世間から切り離されたような山間の街に毎年1月、世界中から大統領や大臣やビル・ゲイツさんのような「超」の付くお金持ちや、アンジェリーナ・ジョリーさんのような「国際貢献活動も頑張ってるのよ」といったセレブたちが大勢集まり、とても現実的な世界の問題を議論する。

「ダボス会議」として知られる世界経済フォーラムの年次総会だ。これを取材に行った時のことである。2005年1月だった。

私が宿泊したのは、部屋にテレビもない、全然高級じゃない、でも清潔な感じがする普通のスキーロッジだった。極端に混み合う会議中のこの時期。ちゃんとしたホテルは、1年以上も前から、うんとお金を持っている人たちや、会議の関係者たちに全部押さえられている。世界的に有名なテレビキャスターやコラムニストではない一般の報道陣は、主催者から割り振られた地味な場所に泊まる。だから、あの人が同じ所にいるとは全然思ってもいなかった。

なぜ世界でいま、「ハゲ」がクールなのか』 (講談社、税込み 907円)

でも、そのシルエットは、紛れもなくあの人のものだ。パスカル・ラミー。元通商担当の欧州委員で、その後、世界貿易機関(WTO)の事務局長になったフランス人である。

後ろから見ただけで、「あ、ラミーさん」と思った。何と言っても、彼の頭のお陰だ。耳の上あたりから襟足にかけて、ロマンスグレーのごくごく短い髪があるけれど、頭部の少なくとも上3分の2以上はツルツルだ。ハゲ頭、というか同じ意味ではあるけど、禿頭と呼んだほうがいい、そのブランド力を改めて思い知らされた瞬間だった。

ハゲてる男の人って素敵だったんだ――。

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