誰が音楽をタダにした? CDが売れない時代を作った張本人を発見
巨大産業をぶっ潰した男たち田舎の工場で発売前のCDを盗んでいた労働者、mp3を発明したオタク技術者、業界を牛耳る大手レコード会社のCEO……。
CDが売れない時代を作った張本人たちの強欲と悪知恵、才能と友情を描いた話題作『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』(早川書房)より、イントロダクションを特別公開!
この音楽はどこから来たんだ?
僕は海賊版の世代だ。
1997年に大学に入った時、mp3なんて聞いたこともなかった。
初めての学期末に、2ギガバイトのハードドライブに海賊版の曲を何百と詰め込んだ。卒業する頃には、20ギガバイトのドライブ6台がぜんぶ満杯になった。
2005年にニューヨークに引っ越した頃には、1500ギガバイトの音楽を集めていた。アルバムにするとおよそ1万5000枚だ。再生待ちに1時間はかかったし、アーティストのアルファベット順に曲を並べ替えたら、ABBAからZZトップまで聞き終わるのに1年半はかかる計算だった。
僕はものすごい数の海賊版をダウンロードして、それをだれにも言わなかった。秘密を守るのは簡単だった。僕はレコード屋にも行かなかったし、パーティーでDJもしなかった。曲のファイルはチャットチャンネルで見つけたり、ナップスターとビットトレントを通して手に入れたりしていた。
今世紀に入ってからは、自分のお金でアルバムを買ってない。古いレコードのコレクターは、地下室いっぱいに埃をかぶったアルバムジャケットをため込んでいるけれど、僕のデジタルコレクションは靴箱に収まる。
聞かない曲も多かった。ABBAなんて大嫌いだし、ZZトップのアルバムは4枚も持っていたのに、正直タイトルも思い出せない。
じゃあ、なんでそんなことをやってたんだろう。好奇心もあったけど、何年も経った今思いかえすと、雲の上のエリートの仲間に入りたかったんだとわかる。
そう意識していたわけじゃないし、もしそうだろうと言われたら、否定していたはずだ。でもそれが海賊行為のひねくれた魅力だし、だれも気づかなかった点だ。音楽を手に入れることだけが目的じゃなかった。それ自身がサブカルチャーだったんだ。
僕はデジタルダウンロードというトレンドの最先端にいたことになる。
もし何歳か年上だったら、そこまで入れ込んだかどうかわからない。年上の友達は違法コピーをいかがわしく思っていたし、敵意をむき出しにすることもあった。音楽好きの人でさえそうだった。というか、音楽好きの人は特にそうだった。
レコードの収集もサブカルチャーだったけど、そんな絶滅危惧種の人たちにとって、アルバム探しはウキウキするような挑戦だった。ガレージセールを回ったり、安売りコーナーを漁ってみたり、バンドのメーリングリストに入ったり、毎週レコード屋巡りをしたり。
でも、僕やもっと若い人たちにとって、曲集めに努力はいらなかった。音楽がそこにあったからだ。困ったことといえば、どれを聞いたらいいか決められないことくらいだった。
数年前のある日、ものすごい数の曲をブラウジングしていた時、急に根本的な疑問が浮かんだ。ってか、この音楽ってみんなどこから来てるんだ?
僕は答えを知らなかった。答えを探すうち、だれもそれを知らないことに気づいた。
もちろん、mp3やアップルやナップスターやパイレートベイについては詳しく報道されていたけれど、その発明者についてはほとんど語られていないし、実際に海賊行為をしている人たちについてはまったくなにも明かされていなかった。
僕はこの疑問に取りつかれ、調べていくうちに今まで知らなかった驚きの事実を発見しはじめた。