掃除機「紙パック式」と「サイクロン式」はどちらを選ぶべきか?

「吸引力」だけじゃない重要なポイント

高級掃除機に採用されている「サイクロン式」。ゴミが溜まっても"吸引力が変わらない"といわれますが、いったいどのようなしくみなのでしょうか? 従来の「紙パック式」との違い、それぞれの方式のメリット・デメリットを『すごい家電』の著者でもある西田宗千佳さんに解説していただきました。

100年前から変わらない掃除機の基本原理

「掃除機」の歴史は意外に古く、アメリカやイギリスでは20世紀初頭から販売されていました。

100年近く使われつづけている電気掃除機ですが、その基本原理は変わっていません。モーターなどで強い空気の流れを起こし、空気と一緒にゴミやチリなどを吸い込んだうえで、それら塵埃(じんあい)だけを分離し、溜め込みます。

一般に使われているのは、モーターの回転によって空気の流れを生み出し、内部に空気の圧力が低い部分をつくって、そこに外から空気が流れ込んでくるしくみで、強い空気の流れを継続的に生み出すものです。空気の圧力が下がることから「真空掃除機」などとよばれることもありましたが、もちろん実際に真空になるわけではなく、圧力が低下するだけです。

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どの掃除機も、空気の流れをつくり出すしくみはほとんど同じで、「モーター」がキーデバイスです。家庭用の電力から、いかに強い「風」を効率的に生み出せるかがポイントです。そのため、家庭内で使われるモーターの中でも強力なものが使われており、そのぶん発熱も大きくなっています。

掃除機のモーターは、他の機器と違って「短時間だが超高速回転が得意」であることが求められます。電動工具ならトルク(ねじりの強さ)が重要ですし、エアコンなどでは、一定の強さで長く効率的に動くことが求められます。

しかし、掃除機のモーターにはまったく異なる特性が必要であり、一般的には専用設計で、掃除機以外には使われません。一般的なもので毎分3万〜4万回転しますが、毎分3万回転といえば、一般的な扇風機に比べ20倍もの回転速度になります。高速回転するとモーターが発熱し、寿命が短くなりますが、ゴミを吸い込むために使った風をモーターに当てて冷やすことでカバーしています。

掃除機の進化は「ゴミの分離方法」にあり

除機の進化は、モーターの進化に加え、ゴミやチリの分離法にも現れています。

初期の掃除機は、分離に「布袋」を使っていました。「布袋式」は、布袋を空気が通り抜けるときに、布の目を通れないゴミが袋の中に残って分離されるしくみです。

この分離法のデメリットとしては、布目より小さなホコリやダニ、カビの胞子などがすり抜けてしまうことが挙げられます。フィルターを組み合わせる改良によって、空気と一緒に小さなホコリが出ていく量は軽減されましたが、完璧にはほど遠い状況でした。

また、ゴミを捨てる際に布袋をきれいにしなくてはならない点で、手間のかかるしくみでもありました。加えて、布袋は使うたびに傷んでいくため、掃除機内が不潔になりやすく、吸引力も下がってしまう欠点がありました。

改良型として登場したのが「紙パック式」です。布袋を紙パックに置き換えた掃除機は、「コロンブスの卵」といえる発想から生まれました。

布袋式の問題は、布袋の手入れが面倒であることと、小さなホコリがすり抜けてしまうことにありました。紙パック式では、紙パックそのものが第一段階としてのフィルターの役目をはたすため、布に比べてホコリをしっかり内部に残せます。

ゴミを捨てるときには紙パックごと処分できるため、掃除機内の掃除も不要です。

Photo by Dzurag/iStock
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布袋式では、捨てる際にゴミの中身を必然的に見ることになりましたが、紙パック式ではゴミを見ずにすみ、紙パックを入れ替えるだけで新品のように使えるメリットがありました。よりシンプルで清潔な掃除機へと進化したのです。

ただし、紙パック式掃除機にも欠点があります。

第一に、紙パックという消耗品が必須であること。紙パックはメーカーごと・製品ごとに規格が異なり、常備しておく必要があります。使い捨てのためエコとはいえず、出費もかさみます。

第二に、紙パック内がゴミで一杯になってくると、吸引力が落ちてくるという問題もありました。布袋式にもいえることですが、紙パックの内部にゴミが増えて空気の流量が減るにつれて、吸引力が徐々に下がります。

紙パックがパンパンになるほどゴミを詰め込まず、メーカーが想定するサイクルで交換していけば、吸引力低下は実用的な範囲にとどまりますが、理想どおりにはいかないケースもあります。

特に粉じんの多い場所では、ゴミの量以上に目詰まりしやすくなるという問題もあります。便利になった反面、「紙パックは交換が面倒」という声も聞かれるようになりました。

高級機種で採用される「サイクロン式」

そこで登場したのが「サイクロン式」です。

サイクロン式は、紙パックというフィルターへの依存度を減らした掃除機といえます。サイクロン式では、吸い込んだ風を“らせん状”に巻き込んで動かすことで、遠心力によってゴミ・ホコリと空気を分離するしくみを採用しています。紙パックにおけるフィルターの代役を、風の渦でおこなっているわけです。

吸い込まれたゴミは、「ダストボックス」や「ビン」などとよばれる、ゴミを溜める場所に入ります。たいていは透明なプラスチック製で、ゴミが溜まってきたら、布袋より簡易にゴミ袋に捨てることができます。

紙パックというフィルターに依存しないので、吸引力はさほど変化せず、つねに強い状態を維持しやすくなっています。

紙パックを使わない「エコ」な印象と、吸引力が低下しにくい点が評価され、近年の高級機種では、多くのメーカーがサイクロン式を採用しています。

もちろん、サイクロン式も完全無欠ではありません。

まず、サイクロンだけでは完全にホコリを分離できないという欠点が挙げられます。ごくごく細かなホコリは空気の渦だけでは分離しにくいため、別途フィルターを組み合わせて濾(こ)し取る必要があります。そのため、数ヵ月に一度はフィルターの手入れが必要です。

特に、粉じんが多い場所で使う頻度が高いなら、サイクロン式より紙パック式のほうが向いています。

次に、使用するたびに掃除機内のゴミを捨てなければならない点で手間がかかります。ゴミ捨ての際に細かいホコリが舞い上がりやすいことも課題の1つです。さらに、サイクロン部の圧力損失が紙パック式と比べて大きいため、そもそもの吸引力が低くなる傾向にありますが、技術革新によって少しずつ軽減されてきています。

そのような理由から、紙パック式は現在も広く使われており、サイクロン式とすみ分け可能な製品となっています。どちらを買うかを迷った際には、「捨てる際にゴミを見たいか見たくないか」「掃除する場所は粉じんが多いかどうか」を基準にしてはいかがでしょうか。

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じつは「吸引力」よりも重要なこと

掃除機の性能として「吸引力」ばかりに注目が集まりがちですが、じつは掃除機の命の半分は「ノズル」にあります。

たとえば、私たちが「カーペットからたくさんのホコリを吸い込む」と感じる場合に、掃除機そのものの吸引力に依存する要素は意外と小さく、掃除機のノズルにあるブラシで、いかにホコリをかき出すか、のほうが重要です。

ノズルのブラシ部には、形状から回転の仕方まで、各メーカーそれぞれに工夫が凝らされています。ホコリを床に張りつける静電気への対処、ごみの量の可視化など、ノズルに込められた技術に興味を持たれた方は、ぜひ『すごい家電』をご覧ください。

(この記事は『すごい家電』の内容を再編集したものです)

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