新型コロナ第4波の「地獄」を見た医師、「本当に怖いのは人間」
中山 祐次郎
東京での新規感染者の拡大に歯止めがかからず、「このままでは医療崩壊。第4波の大阪の二の舞いになる」という声も聞かれるようになってきた。
2021年3~5月の「第4波」では、「地獄の大阪」と呼ばれるほどの修羅場を大阪の医療現場は経験していた。このとき現地で実際に何が起こっていたのか。外科医の中山祐次郎氏が、近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医である倉原優氏に、当時の様子を詳しく聞いた。
静かだった大阪の第1波、第2波
中山祐次郎氏(以下、中山):大阪での2020年の第1波はどんな具合でしたか。
倉原優氏(以下、倉原):ダイヤモンド・プリンセス号が横浜に到着して、感染症専門医の忽那賢志先生などが診療し始めていた頃、関西では、奈良県の観光バスの運転手が新型コロナだったということで、バスが立ち寄った店などを調査していたと思います。
実際のところ、第1波ではほとんど入院患者はいない状態で、このときは保健所から委託された帰国者・接触者外来の診療が主でした。昨年の1~4月で最も困ったのは、PPE(個人防護具、マスクやフェースシールド、ガウンなど)の不足です。ボランティア団体から、手作りのエプロンやフェースシールドを送ってもらいました。
4月に複数の病院でコロナ病棟が正式に立ち上げられ、診療が始まりました。第1波のときは、私の病院は軽症中等症病床で、診療するCOVID-19患者さんのほとんどは軽症でした。このときはまだ平和でした。
中山:それから第2波、第3波と続き、少しずつ疾患の実態や予防法、治療法などが明らかになっていったと思いますが、臨床現場はどのようでしたか。
倉原:大阪府では、軽症中等症病床で気管挿管(人工呼吸器を使用する際などに気道を確保するために気管チューブを挿入すること)が必要になった場合、重症病床へ転院になるのですが、そういった症例が出てきたのが第2波以降でした。それでも第2波は、高齢者クラスターなどが多く、そこまで不気味な肺炎という印象は持っていませんでした。治療のエビデンス(科学的証拠)は徐々に増えてきましたが、レムデシビルやデキサメタゾン(いずれも厚生労働省に新型コロナ治療薬として認定された薬)が、ものすごくよく効くかというと、そこまで頼れる「相棒」という感じではなかった。それは今も同じです。
第3波になってくると、肥満や糖尿病の比較的若い患者さんがどんどん入院してきました。第1波、2波とは別の疾患じゃないかとすら思いました。CT(コンピューター断層撮影)検査では、両方の肺が真っ白のすりガラス陰影が多く、数時間で呼吸不全に陥る例もちらほらありました。
第3波の時点ではまだ重症病床への転院はできましたが、「挿管しないと引き受けられない」という条件付きのことが多く、たくさん気管挿管を行いました。私の病院は呼吸器内科医が多く、全員がRSI(迅速導入気管挿管。気管挿管のなかでも特殊な技術を要する)をできるわけではなかったため、コロナ病棟を担当する呼吸器内科医が感染リスクを抑えて技術的に容易にできる挿管方法をということで、気管支鏡下挿管をルーティンにしていました。
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