一本うどん
一本うどん(いっぽんうどん)は、通常のものと比べて、極めて太く作られたうどん。
やほきの一本うどん
編集藪忠(東京滝野川区中里町(現・北区)、日月庵・やぶ忠)の村瀬忠太郎(『蕎麦通』四六書院 1930 の著者)によれば、江戸深川浄心寺のうどん専門店「やほき」で売り出された。 その製法が難しかったために、模倣する者が無く、やほきが無くなるとともに、行われなくなった。
ふつうのうどんと同じものであるが、親指ほどの太さで、かつ長くて丼鉢にただ1本のみ盛り入れた。 口当たりはきわめてやわらかく、適当な長さに箸で切り、汁につけて食した。 飯のかわりに、また酒のさかなにもよろこばれた。 村瀬によれば、そのすばらしさは切り口が鮮やかな四角形で、芯までやわらかく火が通っていることで、打ち方、茹で方にも技量を要した。 前日の夕方に打って、ある程度まで茹でたら火を引いて、蓋をしたままひとばん置いて、余熱で煮込んだらしいという。
京都の一本うどん
編集村瀬は同書の中で京都および名古屋にも類似したものがあるが、詳細は知らないと記述している。
京都のうどん店「たわらや」は北野天満宮の付近に店を構え、一本うどんを名物として出していた。たわらやのものはあらかじめうどんつゆにつけられており、享保年間といわれる創業当時から出されていたと言われている[1]。戦後の食糧難の時代に一時閉店したため、一本うどんの伝統は一時絶えた。1996年(平成8年)になって復刻され、現在も店の名物となっている。ただし喉に詰まらせると危険であるため、現在では2~3本に切られている。
文芸の中の一本うどん
編集江戸時代の食事がしばしば取り上げられる池波正太郎の小説でも、一本うどんはたびたび登場する。鬼平犯科帳の短編「掻堀のおけい」では、豊島屋という一本うどんで有名な店が登場し、「男色一本饂飩」では表題にもなっている。知名度も高く、各地のうどん店や製麺業者によって類似品が販売されている。
脚注
編集参考文献
編集- 村瀬忠太郎『蕎麦通』(『蕎麦通・天麩羅通』坪内祐三・監修、解説 廣済堂文庫 2011 所収)
- 片山虎之介「虎視眈々--そばの散歩道 人生は太く、長く縁起の良い「一本うどん」」