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一人の栄光と5千万人の恥【特派員コラム】

登録:2025-01-17 06:32 修正:2025-01-17 09:58
イ・ボニョン|ワシントン特派員
高位公職者犯罪捜査処と警察が、尹錫悦大統領に対する2回目の逮捕状の執行に乗り出した15日午前、ソウル駅で市民たちが関連ニュースを見ている/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は後日、大韓民国の最高指導者として忘れられない場面は何を思い浮かべるだろうか。2023年4月27日の米上下院合同会議での演説も、栄光の場面の一つとして記憶されるのではないかと思う。当時、演説後に議員席に降りてきた尹大統領と「自撮り(セルフィ)」を撮ろうとする米国の議員たちが列を成した。人気スターになった韓国大統領は、浮かれているように見えた。筆者は尹大統領の訪米を高く評価するわけではなかったが、その場面だけは少し嬉しい気持ちで見守った。韓国人の努力と成果が作り出した場面に思えたからだ。

 今日で特派員を終える筆者は3年間、米国人の韓国に対する評価と関心が以前とはあまりにも違うことを実感した。数十年前に移民して白髪になった韓国人たちは感慨もひとしおだろう。「大変な思いをして太平洋を渡らなくても良かったかも」というニュアンスで話す人もいる。彼らの母国が以前には到底想像できなかった評価を受ける国になったためだ。

 韓国の民主主義、経済、文化などに対する外国人たちの称賛は、韓国人が実感する以上の側面もあるようだ。韓国をほめちぎる米国の当局者たちの言葉には「こんなに立派な国に私たちが育てあげた」という自負ないしは自画自賛もにじみ出ている。「育ててもらったなら、何か差し出すべきだろう」という意味も込められている。自分たちが半分に分けた朝鮮半島の片側に住む人々が苦労して成し遂げた成果に対する傲慢な態度と言わざるを得ない。

 ともかく称賛自体はいいことだ。富国で生まれれば個人的な努力とは関係なく貧国の人が享受できない経済的利益を得るという「市民権レント(rent)」という言葉もある。韓国人は文化的な市民権レントも、国家的な評判の上昇による市民権レントも享受できるようになったのだ。

 国を代表する大統領はこのような変化の大きな恩恵を受けるものだ。尹大統領は歴代のどの大統領よりも手厚いもてなしを受けていただろう。もう一度言っておきたいが、尹大統領が素晴らしいからではない。尹錫悦を大統領に仕立て上げた人たちとその人々の先代が血と汗を流した結果だ。

 尹大統領の12・3親衛クーデターは多くを変えた。韓国のイメージは急転直下に墜落した。韓国民主主義のレジリエンス(復元力)を称賛する声もある。しかし、強烈ながらも後進的な場面は、世界の人々の脳裏から簡単には離れないだろう。多くの人々の心の中で韓国は30年、40年前に戻ったことだろう。韓国大統領は米国の国務長官でもなく副長官に「深刻な誤判断」を犯したと叱られるはめになった。韓国外交部長官は、夜中に米国大使の電話に出なかったと叱責された。好意と尊重はあっという間に冷淡と軽蔑へと変わった。韓国の外交官が堂々と米国を相手にするのはさらに難しいだろう。

 大統領は国の地位と評判を少しでも改善して守るのに最も大きな責任がある人だ。そのような人が5千万人の韓国人の顔にここまで泥を塗るとは。指導者は一瞬の過ちで多くの人を不幸に陥れやすい。ところが、尹大統領は単なる無能と過ちではなく、故意と悪意でクーデターを起こした。そうしておきながら、歴史に残る「現職大統領による立てこもり」を行ったあげく、逮捕されると「望ましくない流血事態」を防ぐために自ら出頭したと主張した。

 5千万人の名誉を踏みにじってでも、自分の名誉は守りたいのだろう。茫然自失というのはこんな時に使うためにある言葉なのかもしれない。

//ハンギョレ新聞社
イ・ボニョン|ワシントン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1178297.html韓国語原文入力:2025-01-16 18:51
訳H.J

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