ヒメイカ。全長は1cm程度(撮影:佐藤長明)ヒメイカ。全長は1cm程度(撮影:佐藤長明)

 ヒメイカをご存じだろうか。全長1センチ程度の、世界最小のイカである。世界でも数種しか存在が確認されておらず、その生態は謎に包まれている。

 そんなヒメイカの生態に迫るのは、佐藤成祥氏(東海大学海洋学部講師)。佐藤氏によると、ヒメイカは交接後にある特徴的な行動をとり、それが彼らの繁殖戦略に大きな影響を及ぼしているという。

 ヒメイカの不思議な生態について、『密かにヒメイカ 最小イカが教える恋と墨の秘密』(京都大学学術出版会)を上梓した佐藤氏に、話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──ヒメイカと初めて対面したときの印象について、「こんな小さいイカは見ていても面白くなさそうだな、というのがその時の正直な感想である」と書かれていました。現在では、ヒメイカに対してどのような感情を抱いていますか。

佐藤成祥氏(以下、佐藤):当時は、大きい動物は見ごたえがあって、小さい動物は面白くないと思い込んでいました。小さい動物が面白い行動なんてするはずがない。それがヒメイカ研究のスタート時の私の心境でした。

 けれども、やればやるほど「こんなに面白い動物はいない」「こんなに多様な行動を見せてくれるイカはヒメイカだけだ」という気持ちがじわじわと湧いてきました。

 本当に面白くなければ、研究テーマをほかの動物に変えることもできたはずです。にもかかわらず、いまだにヒメイカの研究をしていますし、これからもやりたいと思っています。ヒメイカには、それぐらいの魅力があります。

 最初に出会ったときから180度変わって、ヒメイカと出会えて本当に良かったと思っています。「こんな小さい生き物は面白くない」と思っていた自分に対して、「今にその魅力に気付くよ」と言ってやりたいです。

──本書の第2章のテーマは「密かに燃えるヒメイカの恋」です。これは、佐藤先生の博士課程の研究テーマでもある「密かな雌の配偶者選択」に関係しているのですか。

佐藤:はい。「密かな雌の配偶者選択」は、私たちの業界では「Cryptic Female Choice」、略して「CFC」と呼ばれています。