アングル:ソニーの分社化推進で社内に緊張感、事業撤退も躊躇せず

ソニーの分社化推進で社内に緊張感、事業撤退も躊躇せず
 2月18日、ソニーが2015年度から分社化を推進する方針を表明した。事業部に権限委譲するとともに、本社がポートフォリオ再編を進めていく。写真は平井社長、当日撮影(2015年 ロイター/Issei Kato)
[東京 18日 ロイター] - ソニーが2015年度から分社化を推進する方針を表明した。事業部に権限委譲するとともに、本社がポートフォリオ再編を進めていく。背景には「事業の撤退や売却は通常のビジネスサイクル」(幹部)との思想がある。平井一夫社長は、赤字体質のテレビ事業とスマートフォン(スマホ)事業について売却や提携も視野に入れる意向を改めて表明。社内には緊張感が走っている。
<CFOのねらい>
事業の分社化は、2014年4月に就任した吉田憲一郎最高財務責任者(CFO)が、構造改革とともに今期の課題として着々と準備を進めてきたプログラムだ。昨年5月から「インターナルネゴシエーション(内部調整)からエクスターナルアカウンタビリティ(外部への説明責任)へ」とのスローガンを社内の会議で何度も呼びかけた。
8年でテレビ事業のトップ6人が入れ替わるなど、頻繁なマネジメント変更と組織再編で、社内の権限や責任の所在が曖昧になっていた。吉田CFOの解決策は、事業部ごと市場にさらす荒療治で、今期から事業部門ごとの業績予想の開示を復活。さらに昨年11月にはエレクトロニクスの事業部ごとに中期計画を初めて公表し、各事業部門トップは市場に戦略を直接説明することになった。
18日の経営方針説明会で公表した「17年度の連結営業利益5000億円以上」は、事業部が先行して発表した3カ年計画の数値を積み上げる形でまとめ上げた。これにより、事業部は市場に対して計画達成の義務を負うこととなった。
「事業部は顧客ニーズを、顧客と接して感じている。株主のニーズも直接対面して感じたほうがいい。本社に報告して終わりという意識を変えるべき」(幹部)とのねらいが吉田CFOにはあったという。
<事業トップ更迭>
パソコン撤退、テレビ分社化、本社コスト30%削減を含む5000人の人員削減―。これら今期の構造改革の柱は、昨年4月の時点ですべて決定済みだった。吉田CFOにとっては、これを淡々と進めることで、「今期中に構造改革をやり切る(平井社長)」シナリオができていたが、目算が外れたのがスマホ事業だ。
「スマホの無理な計画に気づいたのは5月の決算発表の直後」(本社幹部)。中国市場で小米科技(シャオミ)躍進を背景に、ソニー苦戦の数字が続々と届けられ、4―6月決算でスマホ販売計画を下方修正。本社から事業部に計画の見直しを指示した結果、9月17日に1800億円の減損処理を決断した。
「計画を作った事業部の責任」(幹部)が厳しく問われたのはこの時だ。平井社長は人事権を行使し、鈴木国正氏をスマホ事業トップから外した。人事発表は10月30日だったが、複数の関係者によると、後任に指名された十時裕樹氏が内示を受けたのは10月に入ってから。減損処理を受け、短期間で事業部トップの「結果責任」を追及した実証例となった。
<GEモデルに権限委譲>
事業部への権限委譲は、米ゼネラル・エレクトリックがモデルとなっている。昨年10月、吉田CFOは「Confidential(極秘)」とした一通のメールをソニー米国本社CEOのマイケル・リントン会長に発信し、「事業部の執行能力と説明責任の強化」の本社方針を伝えるとともに、GEのジェフ・イメルト会長の分権型経営を紹介する雑誌記事を添付した。
GEの分権型経営を本社サイドからみれば、事業のスピンオフによる撤退や売却、頻繁な事業ポートフォリオ変更による「選択と集中」がある。14年には創業から100年超の歴史がある白物家電事業の分離・売却を決めた。
18日の記者会見で平井社長は「他社との提携や、事業の買収・売却の選択肢を各事業責任者が主体的に検討することを促す」と述べた。特に、赤字体質のスマホとテレビの両事業は「売却、提携の出口戦略を一切考えないことはない。視野に入れる」と語り、事業の入れ替えに躊躇しない姿勢を強調した。
昨年2月に決定したPC撤退は「この会社にも事業撤退はあり得る」との緊張を社内に広げた。ある幹部は「PCは撤退のやり方としてあまりに突然やめてしまったので損失を膨らませたが、ある1つの事業から撤退するというのは通常のビジネスサイクルの1つという意識を広げる効果はあった」と述べる。
平井社長にとっては、2012―14年の中期経営計画が未達成。この結果責任は未だ問われていないが、2015年度以降、分社化した事業部とともに「背水」の構えが求められることになる。

村井令二 編集:宮崎大

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