英首相がシリア攻撃に踏み出せず、議会・世論反発

英首相がシリア攻撃に踏み出せず、議会・世論反発
8月29日、英国政府がシリアへの軍事介入に踏み出せないでいる。写真はキャメロン首相。ロンドンで6月撮影(2013年 ロイター/Stefan Wermuth)
[ロンドン 29日 ロイター] - 英国政府がシリアへの軍事介入に踏み出せないでいる。大量破壊兵器を保有しているとして米国のイラク侵攻を支援した記憶が鮮明で、国内世論や議会内で慎重な対応を求める声が上がっているためだ。
キャメロン首相は29日の議会で、「(シリアへの軍事介入に)国連安全保障理事会で圧倒的な反対があれば、(英国が軍事行動を)開始することは考えられない」と言明した。
首相はシリア問題に関する議会討論で「過去の紛争の教訓、とりわけ2003年のイラク戦争での失敗に伴う国内の強い懸念の声に十分留意している」と発言、国内の懐疑論に理解を示した。
議会では与野党双方から、軍事行動に関する採決を行う前に、化学兵器使用のさらなる証拠が必要との意見が噴出、軍事介入に前向きだった首相は主張を弱めざるを得なくなった。
首相が軍事介入に向け国内政治をまとめきれない現状が、早期のシリア攻撃開始に傾く米仏の計画にどのような影響を及ぼすかは不明だ。
保守党関係者は介入の遅れについて、野党・労働党のミリバンド党首を批判。ミリバンド党首は「国民は過ちを記憶しており、イラクの教訓を学ぶ必要がある。過ちを繰り返したくはない」と述べた。
キャメロン首相率いる保守党は議会で絶対多数を確保しておらず、連立での政権運営を強いられていることが政権基盤が磐石でない一因とみられている。
英国の調査会社YouGovが29日に公表した世論調査結果でも、国民の51%がシリア攻撃に反対、賛成は22%にとどまった。
一方、英政府はこの日、国連安全保障理事会の決議が得られなくても、シリアへの軍事攻撃に踏み切ることが合法的であることを示す法的見解を発表した。
英政府の法的見解に関する文書は、シリアで起きている非人道的な行為を抑止するため「国連安保理での行動が阻止されたとしても、英国は国際法の下、異例の措置を講じることが可能」と指摘。
「さらなる(非人道的な)攻撃の発生を防ぐことを目的に、特定の標的を攻撃する軍事介入は必要かつ適切だ。そのため法的に正当化される」とした。
また、シリアの化学兵器使用疑惑に関し、英情報当局の資料も公表。化学兵器が使用されたことに疑いの余地はないとし、アサド政権が行った「可能性が極めて高い」ことを示す「一部」情報が存在するとした。
英合同情報委員会の委員長は書簡で「(化学兵器による)攻撃が政府側によるもので、ダマスカスの戦略上重要な地域から反体制派を一掃することが目的だったとの見解を裏付ける情報が、限られてはいるものの増えつつある」と指摘した。
政府は28日、シリアへの軍事介入に踏み切る前に、化学兵器使用疑惑をめぐる国連の調査結果を安保理が精査する必要があるとの認識を示した。軍事行動を決める前に、議会での採決を2度実施することを約束。当初は29日に1度行うとしていた。

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