7月8日(月)発売の、『週刊東洋経済』7月13日号のコラム「中国動態」に、「中国は反緊縮の実践例?天安門事件前夜の教訓」という記事を寄稿しました。
日本でも消費増税が争点となった参議院選挙を控え、反緊縮の機運が高まる中で、MMT(現代貨幣理論)が注目を集めています。その中で、下記の記事のように 「MMTのモデルに最も近いのは中国」(日本がそうだ、という議論もありますがこれは明確に誤りなので)といった見解がちらほら見られるようになっています。
現在、MMTの政治経済モデルに完全に沿った国は存在しないが、最も近いのは中国である。ミッチェル教授は、中国が「自国通貨の独占的な供給者として得られる機会」を示しており、その結果として「公共の目的を追求するために財政赤字を計上する」ことが可能になっていると語る。1989年の民主化運動以来、共産党は国有銀行や地方政府、国有企業への命令を通じて完全雇用を維持してきた。同時に中国政府は、与信規制、土地の差し押さえ、そして中国の研究者であるチン・フイ氏が言うところの「人権の乏しさという比較優位性」によってインフレ率を抑制している。
こうした政策の長期的な結果として、投資が促進され、消費がその犠牲となった。これによりゴーストシティーが生まれ、生産能力が過剰となり、貧困が広がる中で極度の汚染が発生している。人々を働かせるための仕事を探すのは簡単だが、働かせる価値がある仕事を探すのは難しい。不経済な企業を閉鎖していれば、短期的には失業率が上昇して無駄が増えただろうが、長い目で見た場合の無駄を減らすことができただろう。
しかし、この見解は、例えばリーマンショック後に行われた景気刺激策のための投資が財政赤字を計上することではなく、「融資プラットフォーム」と呼ばれる地方政府主導で設立された民間のダミー会社の借り入れや、地方政府の土地使用権の売却資金によってまかなわれた、という点や、1990年代後半の国有企業改革によって大量の「下崗」(リストラ)された労働者を生み出したことを無視しています。『「反緊縮」!宣言』でも書いたことですが、この意味で天安門事件後の中国経済の運営は基本的に新自由主義的であると私は考えています。
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「反緊縮」的な経済政策の実践例として中国経済を見るならば、天安門事件より前の趙紫陽の経済政策にまでさかのぼる必要がある、というのがこのコラムの趣旨です。もっとも短いコラムでは十分に論旨が展開できたとは言いがたいので、このトピックについては機会があればまた別の媒体などで詳しく論じたいと考えています。