死の間際に人が残した願いが生み出す匣庭(はこにわ)。
そこで彼が出会ったのは自由奔放で美しい夜色の女性、一蓮安(にのまえ りあん)。
全ての匣庭を滅ぼすのが望みだと言った彼女が彼を見出したのは、彼こそが人の願いを叶える宿命を負った龍だったから——。
かつて大火で焼けた深灰という街で、妖魔と戦い、悲しい子供の願いを叶えながら、匣庭を廃し続ける蓮安とシロは、それぞれが負う呪いのような運命と向き合い、やがて避けようのないある選択を強いられていきます。
脇を固める怪しい黒色眼鏡の社に藤色の髪を持つ十無、ツンデレ少女かと思いきや、運命に翻弄されるイチル、そんな彼女にやたらと絡んでくる妖魔の姫子、同じ龍でありながら、全く違う性質を持つ玄龍と彼の契約者である老婆。
それぞれの願いがさまざまに絡み合い、人の願い、生と死、救いと裏切り、さまざまな人の業が描かれながらも、どんな時にも軽やかに、そして真っ直ぐさで切り開いていく蓮安先生がもう大変素敵なのです。
祝詞と共に繰り出される不可思議の術が鮮やかに脳裏に浮かぶバトルシーンも圧巻、ラストバトルではもうスタンディングオベーションでした。最高!
と興奮した後に迎えた、対照的に静かな最終話。
灯されていた蝋燭がふっと消えるような、切なくも優しく温かい物語の終わりにもう胸がいっぱいになってしまいました。
少しずつ変わっていくシロくんと、ずっと変わらない蓮安先生。
きっと初めから結末は決まっていたであろう二人の物語。それでも、彼らが何を考え、どうしてその決意に至ったのか、人間ドラマとしても最高だし、エンタメとしても大変楽しめる一作なので、ぜひ時間を見つけて一気読みがおすすめです。
誰かの幸福を願うとはどういうことなのでしょう。
そんなことを考えさせられる作品です。
たとえば、「あなたのため」と押し付けられる願いはどうでしょう。押し付けられた当人が後々になって「確かに自分のためになった」と認め感謝することはあるかもしれません。しかし、それは結果論とも言えます。そうならない可能性も十分に存在するのです。
では、相手の願いを無条件に叶えるのはどうでしょう。願いを叶えたその瞬間は幸福であるかもしれません。しかし、時の流れや状況の変化に侵されない永遠不変の願いがあるでしょうか。また、言葉にされた願いが本当に心からの願いであると保証できるでしょうか。後から悔やまないと言えるでしょうか。
かように、一筋縄ではいかないのが人の心です。
本作には人間の願いを叶える超常の存在《黄龍》が登場しますが、早々にその限界も示されます。彼は人間という大いなる矛盾を前に挫折します。願いを叶えるその力が、しかし、必ずしも人を幸福にはしないことを悟ります。
《匣庭》はその不完全性を補うようにして求められ、人間を単純化し、矛盾を取り除くことで主の願いを永久に叶え続けます。
しかし、それは言ってしまえば停止した世界です。本作の主人公、シロと一《にのまえ》蓮安《りあん》はそんな《匣庭》を破壊するべく行動を共にすることになります。
その過程で二人が対峙するのは、あらゆる虚飾です。
《匣庭》という作り物の世界は言うに及ばず、真名を隠す妖魔、そして、心の奥底にある真の願いを差し置いて言葉にされる《願い》。
虚飾を剥ぎ取り、真実を掴みとる――その過程がときにバトルを、ときにトリッキーな仕掛けを交えながら描かれます。
誰かの幸福を願うとはどういうことなのか。
その答えもまた、すべての虚飾が取り払われた先にあります。
それが具体的にどのようなものかはぜひ本編でお確かめください。
虚飾と華燭の魔都《深灰》――その怪しい雰囲気と巧みな構成に心地よく幻惑されること請け合いです。
虚飾と華燭の魔都といわれる深灰の一角で、料理と酒と演劇を楽しめる『勾欄』を営む訳ありの青年シロと、彼のまえに突然あらわれた美しき夜色の女、蓮安(リアン)。
『ここで匣庭が発生している』
物語は蓮安が告げたそのひとことからはじまります。
人の強い願いが生む『匣庭』という現象。そこは生者と死者が混在する世界。
命の危機に『死にたくない』と思うのも、愛する者に『生きてほしい』と願うのも、きっと当然のことでしょう。だけどその祈りは、はたして誰のためのものなのか。
お互いのことを思いながら、そして、お互いのことを思うからこそすれちがってしまう願いがある。
物語がすすむにつれ、どうしようもないやるせなさに何度となく胸がつぶされそうになりますが、ラストまでたどりついたとき、そしてページをとじたあとの余韻がまあたまらんのです。
なにがどうたまらんのかはもう読んでとしかいえないのですが。完結しましたので一気読みもまとめ読みもできます。とにもかくにも読んでください。ぜひ、最後まで。
中華をモチーフにした世界で繰り広げられる、とにかく格好いいバトルと人間模様の絡み合うファンタジー作品。
人の強い願いが作り出す「匣庭」では、その願いが常に叶えられる。そしてその世界に紛れ込むのは生者だけでなく死者も……。
そんな匣庭を壊すことを目的とした夜色の女、一(にのまえ)蓮安。彼女は勾欄(劇場)を営むシロという蜂蜜色の髪をした青年に開口一番「ここで匣庭が発生している」と告げ――。
まず何と言ってもバトル時の呪文が超絶格好いいです!
カタカナの羅列じゃなく、呪文もしっかり中華風。短い呪文なんだけど、そこに属性とか、どんな攻撃とかが分かるようにしっかり考えられてるところが凄い。
この作者様にして格好いいバトル描写あり!といっても過言ではないので、ぜひ美しい蓮安が華麗に戦っている姿を脳裏に焼き付けて欲しいです。映像浮かぶから!
物語は後半に行くほど蓮安とシロ君の関係性が変わってきて、切なさに胸が軋むほど。
お互いのことを大事に思っているはずなのに、互いの願いが重なり合わなくて……読んでいると、どちらの思いも分かってただただ切ない。
重厚なストーリー展開。流れるように美しいバトル描写。独特で完成された世界観。
そこに息づく魅力的なキャラクターも多く、「願い」を軸にそれぞれの思いが交差されていく。
読んでいく内に明かされていく真実。そこから導き出される未来が、多分この物語のキャッチコピーに現れているんだろうなと思います。
これは時間のあるときに読むのをお勧めします。どっぷりと深灰の世界に浸れること間違いなし。
物語は、虚飾と華燭かしょくの魔都と謳うたわれる深灰で繰り広げられます。
中華の色濃い表現で、1話目の半分も読めば、その世界観に引き込まれます。
詳細にプロットが練られているのか、お話の中に出てくる衣装や建物の描写、匣庭と言う謎の現象の表現にも、ファンタジーなのに、納得させるだけのリアルがあります。
また、登場してくるクールで美しいヒロインの蓮安と、体は大きいけれど少々頼りのないシロの2人の対比が、生きていて、さらに読み手を楽しませてくれます。
まだ、3部までしか投稿されていませんが、現時点で十分に『五龍伝説の息づく魔都、深灰』の物語の魅力に魅了されるお話です。
今後、どう恋愛要素が盛り込まれるのかも楽しみです。