第33話 基地見学

「改めまして、私が如月隊員の所属するルーキー隊の部隊長、水嶋リョウヘイです」

「うちが副隊長の永野ケイ! ケイさんって呼んでねぇ」

「よ、よろしくお願いします!」


 早速隊服に着替えさせられ、1階ロビーに集合した3人。


「ちょっと服がぶかぶかのような気がするんですが……」

「すぐに筋肉がついてちょうど良くなります」

「そんな子ども服みたいな……」


 するとレイの背後から、1人の兵士が近づいてきた。


「よう新入り!」

「わっ、びっくりした!」


 振り返るとそこには、ずっとレイの管理をしていた背の高い兵士が立っていた。


「同じルーキー隊の内海ダイスケだ。これまで厳しくして悪かったな。これからはもっと厳しくしていくから覚悟しろよ」

「は、はい……」


 笑いながら肩を叩いてくるダイスケ。思っていたより穏やかな人間のようだ。


「まずは基地内を見学していってもらうのですが……その前に」


 水嶋が合図をすると、廊下の奥から台車を押した研究員が現れる。


「モス! 無事だったか」


 運ばれてきたのはカプセルに入ったモス。研究員によってすぐにカプセルは開かれ、ようやくモスも自由の身となる。


「久しぶりだなぁレイ、ちょっと痩せたんじゃないか?」

「お前の方はちょっとまたデカくなったなぁ」


 モスを抱きかかえ、肩に乗せるレイ。その様子をダイスケがまじまじと見つめる。


「ほぉ、これが噂の毛虫型エイリアンかぁ」


 モスの背中をちょいちょいとつつくダイスケ。モスは少し嫌そうにする。


「気安く触るんじゃないよ。オレはまだお前らのこと信用したわけじゃないからな。俺の知ってる秘密も、まだ喋るつもりはない」

「やれやれ、やはり我々に協力的ではありませんね」

「その話はまた今度にしましょう。まずは基地内を案内します!」


 ダイスケとはここで別れ、永野ケイが先導し基地の中を見学していく。

 レイが肩に乗せたモスは、すれ違う隊員たちのほとんどの視線を奪っていた。


「1階は基本的に講義室が並んでいます。隊員たちも普段は教室でエイリアンの知識や戦闘についての座学を受けながら、実技講義で実践するという形になっています」

「あの、実技ってのは水嶋さんみたいに銃を扱うんですか?」

「いいえ、基本的にはまず体術、近接戦から学んでいっていただきます。戦闘はほとんど住宅地など人が多いところになりますし、正直な所銃を使える機会は多くありません」


(水嶋さん、結構積極的に発砲してたけどな……)


「それでは2階に上がりましょう。2階は座敷の習練場と、物置がほとんどですね」


 それからレイたちは順番に基地をめぐっていき、3階をさらに上がり屋上に出た。


「うわぁ、いい景色だなぁ」


 人里離れた山の上に建てられたACD基地。屋上からは山々の景色が一望でき、遠くの方に小さくビル群も見える。


「昼休みはここで景色を見ながら談笑している隊員たちも多いです。うちもこの場所は好きですよ」

「私はどちらかと言えば、部屋にこもっている方が好きですが」

「水嶋隊長の趣味は聞いてませんよぉ」


 峰の方からぶわっと強い風が吹いた。柵に寄りかかって下を見ると、隊員たちが走り込みをしている。


「……おおかた基地の見学はここまでです。うちも訓練に戻りますね」

「ああ、じゃあ僕も今日から」

「少々お待ちください」


 ケイについて行こうとした例を、水嶋が引き止める。


「レイさん、モス君、君たちには見ていただきたいものがあるんです」


  *


 水嶋に連れられて行ったのは、1階から鍵のついた扉を開き、階段を下りていって先の地下室。

 長い廊下の先には、さらに真っ黒なガラスの扉が待ち構える。


「少々あちらを向いておいてもらえますか」


 レイがよそ見をしている間に、水嶋がそばにあった気秋に暗証番号を打ち込む。すると扉のロックが解除され、ガラス扉が開いた。


「これは……」


 地下に突如と現れた巨大な研究室。珍妙な機械を触り作業する研究員たち。

 そしてなによりレイたちの目をくぎ付けにしたのは、奥に飾られた巨大な蝶の標本だった。


「これは……蝶族の死体か?」

「……綺麗だなぁ」


 横幅6メートルはあろうかという巨大な蝶の標本。見る場所を変えるたびに羽に光が反射し、様々な美しい模様を描き出す。


「これは地球で初めて、この日本で発見されたエイリアンです。初めは日本に生息する蝶の巨大化した個体だと思われましたが、突如日本語を喋り出し自分はエイリアンだと語りました」

「これが発見されたのはいつなんですか?」


 レイがそう尋ねると、水嶋は空を見つめながら指を数える。


「15年ほど前でしょうか。しかしこのエイリアンは発見当時からかなり弱った状態で、研究員たちの目の雨でとある予言を残したまま息絶えました」

「予言?」

「この星が標的になった。やがて激しい戦火に覆われる……それだけです」

「それはつまり、エイリアンたちが王になるために一斉にこの星に来るって予言だな」


 レイの肩の上から、モスがそう解説した。


「その予言を真に受けて我々は極秘にACDを設立。今まで多くのエイリアンを駆除してきました。しかしどれも人間に対して敵対的で、証言を聞き出す前に殺さざるを得ない状況が続いていました」


 水嶋は突然、レイとモスの方に指を向ける。


「そんな中、ようやく表れたのがあなたたち。地球がエイリアンの戦場になるのを阻止すべく、どうしても力を貸していただきたいのです」

「なるほど……モスは予言についてどう思う?」


 モスは腕を組んで少し悩んだ跡、ぽつりぽつりと答え始めた。


「蝶族は長い旅をする種族だ。この星に一番に乗り込んだのはこいつだとみて間違いはない。それにこの星が戦場になるというのも……悪いが事実だろう。オレたちは今まで様々な星を戦場に変えてきた」

「でも今の所一般人にもバレない程度に抑え込めてる。ACDがいれば戦場になることなんて——」

「それはまだ、奴らがここに来ていないからだ……」

「奴ら?」


 急いでメモ帳を取り出す水嶋。だがモスはそれ以上話そうとはしなかった。


「これ以上は教えられない。オレにも交渉材料が必要だからな。知りたいならオレたちを正当に扱ってくれることを証明してもらう必要がある」

「……なるほど。弁の立つ毛虫ですね」


 水嶋は残念そうに手帳を治し、レイの方に向き直った。


「如月隊員、明日からはACD隊員として訓練に取り掛かってもらいます。今日のようなお客様待遇ではいられないことを重々承知しておいてください」

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