地獄と拷問
熱だした 人のかわりに 働いて 自分も発熱 休んじゃダメって
夏風邪ひいた人たちの穴埋めの地獄シフトのあと、私も熱だした。
ちょっとぐらいならムリできるけど、土曜の夕勤途中→夜勤→早朝勤はぜったいムリって思ったから店長に電話した。
「倒れた人ばっかで代わりいないから休むのムリだよ」
って一瞬で言われた。
「でも悪寒するし、ずっと立ってるのムリです」
って悲しい声でもう一回頼んでみたけど、
「とにかく代わりいないから、具合悪いなら店にいるだけでいいから来て」
で切られた。
夕勤の途中から入ったら、カトリーヌさんが補充シフトでいた。
カトリーヌさんは稼ぎたいって言ってたから、夜勤を代わってもらおうと思った。
でも最初、夜勤のもうひとりはアシモス君だったはずなのに、アシモス君が熱だしたからリセット君になってた。
「カトリーヌさんとリセットのふたりを組ませたら仕事終わんないから」
って、店長からダメって言われた。
なんで私は誰とも代わってもらえないの?(ToT)
私がふらふらしてレジに入って、時間帯交替の時にやるレジ点してたら、
「具合悪そうだね。私が入ってあげてもいーけど」
ってカトリーヌさんが言ってきた。
「店長から今日はぜったい入らないとダメって言われたんです」
って言った。
カトリーヌさんじゃダメ、って言われたのは言わなかった。
そしたら、
「ミカサってぜったいシフト譲らないよね。親に食べさせてもらってるコドモと、生活かかってるオトナと仕事のホンキ度違うのに」
ってすごい怒ってきた。
「じゃあカトリーヌさんから店長に言ってください。私も帰りたいから」
って言ったら、カトリーヌさんが、もう帰ってた店長に電話しにいった。
でも店長が私に電話かわれって言ったみたいで、私が出たら、
「代わるのダメって言っただろ。オレも疲れてるからここでミカサまで我儘言わないでくれよ。みんなシフトが最近いい加減なんだから」
ってすごい怒られて切られた。
なんで私が怒られるの?(ToT)
カトリーヌさんは店長になんて言われたかわからないけど、私にすごい怒って帰ってった。
今月の25日の給料日でお金返してくれるはずだったけど、それ返してくれないで帰ってった。
シフトは規定の時間の20分~15分前に入らなくちゃいけないことになってる。
でもリセット君はいつもギリギリ1分前に来る。
リセット君は夜勤に入るのひさしぶりだったから、やっぱりまた、
「今日はなにするんですか」
って聞いてきた。
「ちゃんと覚えなよ」
って言っても、リセット君はぜったい覚えない。
わざとっていうより、覚えるのができないみたいだから、しょうがないからリセット君のために作った夜勤用のタイムスケジュールの表をまた一枚あげた。
リセット君はその通り仕事始めたけど、日付廃棄でヘンなことしてた。
日付廃棄する食品って決まってるけど、前にリセット君が入った時と棚の配置がすごく変わった。
それなのに、廃棄しなくちゃいけない食品を覚えてるんじゃなくて、棚の位置で覚えてたから、廃棄するものがぜんぜんない棚の食品の賞味期限をぜんぶ見てた。
「それ、日付廃棄する食品じゃないでしょ。棚変わったから、違う棚で廃棄するの探して」
って言ったら、店中の棚を見だした。
本や雑貨のとこから。
「本とか雑貨に賞味期限ないでしょ」
って言ったら、
「ミカサさんがほかの棚見ろって」
って言い返してきた。
リセット君は具体的に指示しないとダメ。
これでどうしてあんないい大学に入れたのか、世界の七不思議のひとつだと思う。
しょうがないから、日付廃棄する棚に目印つけて教えた。
廃棄する食品って新商品とか棚の入れ替えでしょっちゅう変わるから、そのリスト作るのはムリ。
いちいちここまで言うぐらいなら、自分でやったほうが早いしラク。
でもリセット君の仕事をやってあげちゃうと、リセット君はほかの人と組んだ時もそれやらなくなるから、ほかの人から苦情が私に来る。
店長は、熱がつらいならただ店にいればいいからって言ったけど、リセット君と組んだらそんなことムリだから、拷問だと思った。
土曜はリセット君がドリンクのウォークインやることになってたけど、今、首かけのドリンクがたくさんある。
首かけって、ペットボトルについてるオマケのやつ。
あれは最初からついてくるのもあるけど、オマケだけ別に来て、つけるドリンクリスト見ながら店員がつけるのも多い。
つけるドリンクの種類が多いと、リセット君はぜんぶにつけれない。
つけないで売り場にだすとドリンクの担当者の責任になる。
その担当者に悪いから、いい加減な仕事できない。
リセット君に一応リストわたしたけど、最初の1種類しかつけれなくて、あとはぜんぜん違うのにつけてた。
リストがやっぱり理解できてなかった。
それに気づいて、しょうがないから、それは私がやることにした。
悪寒がするのにウォークイン(冷蔵庫)に入った。
中で作業する時は冷蔵をストップできるけど、夏はお客が表のドアあけるだけで熱気が入ってきて、すぐ中の温度があがって警報が鳴る。
だから、だいたいは冷蔵をとめないでやるしかない。
こういう首かけができないのはリセット君とカトリーヌさん。
カトリーヌさんはつけるのがわからないんじゃなくて、めんどくさいからやらないで帰る人。
だから店長は、このふたりを一緒にいれないんだと思った。
そしたら、リセット君がレジから私をボタンで呼んだ。
ウォークインから店内を見たら、ヘンなお面をかぶった集団が入ってきてた。
殺せんせーみたいな、目と笑ってる口だけくりぬかれた紙のお面つけた集団。
すごいブキミだったから、リセット君も焦ったんだと思う。
私もちょっとこわくなって、警備会社に直通の通報ボタン押そうと思った。
ヘンな人が入ってきたら、それ押していいことになってるから。
でも、その殺せんせーの集団のひとりが、常連だと気づいた。
集団がぞろぞろレジに来て、レジの前でずらっと並んだ。
すごいブキミ。
リセット君がすごい怖がってるのわかったから、私がレジに立った。
それで、殺せんせーみたいなお面の常連に、いつものタバコ出した。
「今日はおひとつですか?」
って聞いたら、その常連が、
「えー、なんでオレってわかるの?」
ってびっくりしてた。
「わかりますよ」
って言ったら、
「ウソ。このお面かぶってんのに。折角脅そうと思ったのに」
って言ってきた。
「脅すのやめてください。ほんとに警察に通報しますよ」
って言ったら、
「怖かった?怖かった?これでちょっとレジ脅そうって、みんなシャレでやったんだけど」
って言ってきた。
「ほかのお店でやったらほんとにすぐ警察呼ばれますよ。うちでもやめてください」
って言った。
その常連、フツーの時はいろいろ買ってくれるいい常連だけど、すごい酔った時、商品の棚をぜんぶなぎ倒した前科がある。
私より年下の地元のヤンキーで、家も知ってるから、カトリーヌさんが警察呼ぼうとしたけど、私は駐車場に逃げたその人追いかけて、
「ああいうの困ります!」
って文句言った。
そしたら、その時も、
「ごめんねー、ごめんねー」
って謝って、直しに戻ってきた。
根は悪い人じゃなくて、ただのDQN。
だから、殺せんせーのお面で脅してきても、すぐ誰かってバレる。
それで、タバコ売りつけて帰ってもらった。
「ミカサさんって、あの人たちの仲間?」
ってリセット君が聞いてきた。
「あんなのと仲間なわけないじゃん!」
って言ったら、
「警察呼ばなくていーんですか」
って聞かれた。
「あんなの呼ばなくていーよ」
って言おうと思ったけど、そしたらリセット君はほんとの強盗来てもタバコ売りつけると思った。
「ああいうヘンなの来たら、私がいない時はぜったい警備会社と警察に通報しなよ」
って教えた。
リセット君にはぜんぶちゃんと具体的に教えとかないと伝わらないから。
レジの研修の時、お弁当買ったお客に箸つけるか聞くのを教わったら、リセット君はお弁当じゃないのを買うお客にもぜんぶ、箸をつけるか聞いてる。
「リセット君って、強盗が金だせって言ったら、ぜったい、お箸つけますか、って聞くね」
ってうちの男たちも言ってる。
「通報ってどうやるんですか?」
って聞いてきたから、警察の通報ボタンと、警備会社の通報ボタンの使い方教えた。
うちの店、何年か前に強盗入られてるのに、研修でそういうことぜんぜん教えないから。
警察の直通の通報ボタンも、つい最近まで店長も忘れてた。
私がすごい汚い机を片づけてたら、ヘンなボタンが壁についてたから、
「これなんですか?」
って店長代理に聞いて、それでお店の全員が警察の通報ボタンがそこにあるのを知った。
リセット君に教えたら、すぐ警備会社の首かけの通報ボタン押した。
それで数秒後に警備会社から電話がかかってきて、警備員が店にかけてつけて、
「警報は誤作動でした」
って報告書を私が書かされた。
「ヘンな時に押すとこんな騒ぎになるんだからね!」
って私はぷりぷり八つ当たりしながら、リセット君に教えた。
「はい、もう押しません」
ってリセット君はわかったみたいだった。
でも、リセット君の考える「ヘンな時」に、「強盗がほんとうに来た時」も入ってないか、すごい心配になった。
リセット君の親って、いろいろ心配で胃に穴があかないのか、リセット君の親のことまで心配になった。