※この記事は『Mac Fan 2020年7月号』に掲載されたものです。
Macのメニューバーからプルダウンメニューを開くと、項目の横にキーボードショートカットの記号が表示される。しかし、どの記号がどの修飾キーかわからない人も多いだろう。
これらを組み合わせる複雑なショートカットキーは、どのように覚えたらいいのか。これが今回の疑問だ。
コピペ、検索、クローズなど、誰もが使うショートカットは“覚えやすい”
皆さんは、どのくらいキーボードショートカットを使うだろうか。おそらくはコピー&ペースト、検索、保存、プリント、クローズといった基本ショートカットだけ使うという人が多いはずだ。いわゆる[command]キー+1文字のものだ。
もうひとつ、macOSには[option]+マウス操作という伝統的なショートカットがある。有名なのは[option]+ドラッグで、書類を移動するのではなく、別の場所にコピーできる。
このようなショートカットは覚えやすい。たとえば[command]+[F]はFindであり、+[S]はSave、+[P]はPrint、+[A]はAll、+[W]はWindows (close)だ。ペーストの+[V]が単語からの連想がしづらいものの、コピーの+[C]の隣が[V]なので、操作のしやすさに配慮したものだとがわかる。
command、shift、option、control…。修飾キーが複数組み合わさると、もはや覚えるのは“力づく”
しかし、修飾キーを複数組み合わせるショートカットになると、途端に理解が難しくなる。
[command]+[F]は「検索」だが、[Shift]+[command]+[F]は「最近使った項目ウインドウを開く」だ。[command]+[S]は「保存」だが、[option]+[command]+[S]は「サイトバーの表示非表示の切り替え」になる。
[command]+1文字のものはそれなりのロジックがあるため覚えやすいが、修飾キーを複数使うものは、あたかも異国の歴史年号を暗記するかのように力づくで覚えるしかない。
さらに、[command]以外の修飾キーである[option]と[control]は性格の違いがはっきりしないため、ますます力技の暗記を強いられる。
キーボードに修飾キーの刻印がなかった時代も。原因はBoot Camp
MacではFinderなどでプルダウンメニューを開いたときに、メニュー項目の横にショートカットの記号が表示される。何度も同じメニュー項目を使っているうちに、ショートカットキーを覚えてしまうことを期待しているのだろう。
しかし、記号で表示されても、それがどの修飾キーかわからず、覚えるのも難しい。最近のApple純正キーボードやMagic Keyboardなどには、修飾キーの記号と名称が併記されるようになっているが、以前は名称のみで記号が刻印されていなかった。
そもそも名前が刻印されている理由は、「Boot Camp」の搭載だ。MacでWindowsを動かすとき、Windowsの修飾キーがMacのキーボードのどれに相当するかがわかりづらい。そこで名前を刻印するようになった。そしてあろうことか、Boot CampがMacに搭載された2007年前後を境に、Macのキーボードから記号が消えていった。
Macの[command]はWindowsの[control]。ユーザの混乱を招いたややこしさ
Mac以前のApple IIシリーズでは、修飾キーには白抜きの記号が使われ、「Appleキー」と呼ばれていた。Macintoshではこれに相当する修飾キーが[command]キーと呼ばれ、北欧の地図で使われる歴史的名所を表す記号「⌘」が採用された。
一説によると、塔を4つ持つお城を図案化したものだとも言われている。AppleはApple IIユーザとMacユーザの両方に配慮し、[command]キーにはAppleキーと「⌘」の2つの記号を並べて刻印していた。
MacでBoot Campを用いてWindowsを使うときは「Windowsの[control]キーはMacの[command]キーに相当する」が、これが多くのユーザの混乱を招いた。Windowsユーザにとっては、どれが[control]キーかわからないのだ。
しかも、まずいことにMacはMacで独自の[control]キーがある。そこで、2つの記号を刻印することをやめて「⌘ command」と文字表記することになった。
修飾キーの記号にはそれぞれ由来がある。「⇧」「⌥」「^」はどういう意味?
文字を刻印するというのは、ベタだが悪くない方法だ。たとえば[alt/option]、[enter/return]と呼び名が揺らいでいるキーについては、両方併記することで解決できるからだ。しかし、プルダウンメニューの項目にショートカットを表記するときは、名前ではあまりに長する。そこで、ユニコードに定められている各修飾キーの記号が使われている。
[shit]キーの「⇧」
[Shift]キーが上矢印になっているのは、機械式タイプライターを使ったことがある人であれば納得しやすい。機械式タイプライターはキーを押すと、文字が刻印された金属ハンマーがてこの原理で紙に当たって印字する。
ハンマーヘッドの部分には、上に小文字、下に大文字が縦に並んで刻印されており、大文字を打ちたいときには[Shift]キーを押し、てこの原理でヘッド全体を上に持ち上げて文字キーを打つことで、大文字を印字させる。そのためタイプライターの使い方を学ぶときは、[Shift]キーを打つ小指の力を鍛える必要があった。そして、大文字を連続して入力するときは力のない小指で[Shift]キーを押したままにするのは大変なので、[caps lock]キーが誕生している。タイプライター時代の[caps lock]は、メカニカル機構で持ち上げたヘッド部分を固定しまうキーだ。
[option]キーの「⌥」
一方、[option]キーの不思議な記号は、回路図の切り替えのイメージが元になっているという。「別のオプションを選ぶ」「もうひとつの選択を選ぶ」というイメージだ。
[control]キーの「^」
[control]キーは、文字入力しかできないテレタイプ時代、制御コードを入力するのに[control]キーを押してから文字を入力していた。この頃から、「^」で表すことが慣例になっている。
このように、記号の由来が頭に入っていれば、どの記号がどの修飾キーであるか覚えやすくなるのではないだろうか。
修飾キーがどうしても覚えられないなら、macOS上でコンビネーションを変更するのもおすすめ
Macで修飾キーの記号を表示をするには、macOSの日本語メニューから[絵文字と記号を表示]を選び、文字ビューアを表示。さらに設定メニューから[リストをカスタマイズ]を選び、コード表の[Unicode]を追加しよう。ただし、はユニコードに採用されていない。プライベート領域に収録されているので、Appleデバイス以外の環境では文字化けしてしまう可能性が高い。
修飾キーは2つぐらいにしてしまえば覚えやすくなると思うが、コンピュータ黎明期のテレタイプ(文字入力しかできない端末)時代からの流れがあり、互換性を保つために廃止することができないままに来た。
そのため、キーボードショートカットには複雑な組み合わせが生まれている。macOSの「システム設定」の[キーボード]パネル→[ショートカット]では、さまざまなキーボードショートカットをオン/オフしたり、コンビネーションを変更したりすることができる。キーボードショートカットが複雑すぎると感じている方は、この設定を使って、わかりやすいショートカットに修正していくのもひとつの方法だ。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。