円安再燃でも再開が鈍い円キャリー取引

CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のポジションは、短期売買を行う投機筋の代表格であるヘッジファンドの取引を反映していると見られている。ヘッジファンドは、2024年7月にかけて161円まで米ドル/円が上昇した局面で、いわゆる円キャリー取引を急拡大し、円売りの主導役になったと見られた。

この円キャリー取引の目安の1つが、CFTC統計の投機筋の円売り越しだが、それは2022年以降、150円以上に米ドル/円が上昇する局面では10万枚以上に拡大するのが基本だった。そして2024年に160円以上に一段と米ドル/円が上昇した局面では、同売り越しは過去最高規模の18万枚前後まで拡大した。まさにヘッジファンドの円売り、円キャリー取引が歴史的円安の主導役になっていたことを示すものだろう。

しかし、円キャリー取引が、最近にかけての米ドル高・円安再燃に対する反応はこれまでのところ極めて鈍いようだ。CFTC統計の投機筋の円売り越しは、2024年11月にトランプ氏の米大統領選挙勝利を受けて米ドル/円が156円まで上昇した局面でも6万枚までの拡大にとどまり、2025年1月に158円まで米ドル/円が上昇した中でも、円売り越しは3万枚弱までの拡大にとどまった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と投機筋の円ポジション(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2024年夏にかけて、大きな損失を被った円キャリー取引

このように円安再燃の割に、円キャリー取引の動きが極めて鈍いのは、2024年夏にかけての急激な円高局面で円キャリー取引が大きな損失を被った影響が大きいのではないか。

円キャリー取引とは、低利の円を調達し、それを売ってより高い利回りの先で運用する、いわば「円売り運用」。それが、2024年7月の161円からほんの1ヶ月で、140円程度まで約20円もの急激な米ドル安・円高となったことにより、相当のダメージを受けたと見られた。ヘッジファンドの中には閉鎖や破綻に追い込まれたケースもあったようだ。こうした中で、円安再燃の割に、円キャリー取引再開が鈍くなっている可能性は考えられる。

ヘッジファンドの円キャリー取引が主導役となった2024年7月にかけて161円まで米ドル/円が上昇した局面では、日米金利差米ドル優位・円劣位は大きく縮小に向かっていた(図表2参照)。それにもかかわらず、ヘッジファンドが円キャリー取引で円売りを続けたのは、絶対的に大幅な金利差円劣位や米国の反対で日本政府が米ドル売り介入に動けなくなった可能性が手掛かりになったと見られたが、強引な感も否めなかった。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドル/円は日米金利差に沿った展開が続く

2024年9月から再開した米ドル高・円安は、基本的には日米金利差変化に沿った形で展開してきた(図表3参照)。その中では、ヘッジファンドの円キャリー取引の影響はかなり縮小したと見られる。米ドル/円は、金利差米ドル優位・円劣位が拡大すると上昇するものの、逆にそれが縮小に向かった場合は下落するという、2024年7月にかけての局面とは異なり、すこぶる金利差次第の展開が続くことになるのではないか。

【図表3】米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年9月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成