映画が始まってから監督がアリ・アッバシと知る。「ボーダー 二つの世界」(2018)、「聖地には蜘蛛が巣を張る」(2022)の人、こりゃクセ強いぞと期待高まる。因みに彼はイラン人である。
1974年のニクソン大統領辞任の映像がオープニング。ドナルド・トランプ(セバスチャン・スタン、ルーマニア移民とのこと)は'46年生まれとのことなのでこの年には18歳前後、彼がNYの会員制クラブに入会する所から物語=人生が始まる。ここで出会う弁護士
ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)の強烈な人生訓と政治信条(というか右派レイシスト)に惹かれてしまったドナルド君は自身の親の不動産会社が被告になっている裁判の弁護士になってもらうことを懇願する。
↓ジェレミー・ストロング、よく特徴を掴んでいる
酒が飲めず自信なさげに会員制クラブでもパーティでもキョドっているドナルド君がコーンの影響をもろに受けて、変わって行く。
ドナルドが克服しなければならないのは家族の呪縛だった。これは何も彼に限らない普遍的な人間像がそこにあり、不肖の兄との関係は不憫でもあった。
最初の結婚相手イヴァナ(マリア・ヴァカローヴァ)へは猛アタック。と言っても振り翳すのは金品ばかり。欧州のスキー場まで追いかけるシーンがあるが、
↑どちらが真実かは分からないが映画とはちょっと違う
時を経て大統領はレーガンに。
1981年25歳前後のトランプは資産家としては絶頂だったようで、かのトランプタワーのオープニングパーティで日本人に「アキオサン!」と声をかけるシーンがあるが、あれはSONYの盛田昭夫氏なのかな。
が、この後アトランティック・シティのカジノ付きリゾートホテルの建設現場に佇むドナルドにアキオ氏は投資金の不払いを追及する。この結果は描かれてはいない。また、このカジノへの投資が成功したのか否かも分からない。
ことほど左様にアッバシ監督は彼の行動が招く結果を描くというより、繊細で小心だった男が、空疎なホラ吹きへと変貌した「流れ」だけを追う。なので観客は誰にも感情移入する事はないし、それが出来ないほど品のない人々しか出て来ない。とにかくスジの悪い人脈である。
アッバシ監督の映画はこれまでもそうだがカタルシスや溜飲を下げるような感動を拒む。
ラストのトランプ御用自伝ライターが言う「あんまりドラマティックではないですね」という台詞は強烈な皮肉である。そこを突かれた彼が滔々と述べるのはかつてのコーン弁護士の「信条」だという空疎ぶり。
'70年代を16㎜フィルム、'80年代をビデオ映像で撮ることで時代を醸す、特に'80年代のビデオ映像は深みがなく平板で美しさのかけらも無い。ドナルド・トランプそのものであり、そんな時代であったことを巧く見せているな‥‥と思いきや、IMDbのテクニカル・スペックによるとデジタル撮影に古いレンズをつけて撮っていたようだ。ホンマか。全然分からなかった。天晴れ。
因みに"The Apprentice"とは「見習い」の意。
かつて2004年にトランプがホストを務めていた同名のテレビ番組がある。
今日、今こそ全世界必見かも知れない。当のアメリカ人は観ているのだろうか。