3000年前に建造された壮麗な神殿、シリアのアインダラ神殿が、トルコによる空爆で破壊された。謎めいた巨大な足跡があるほか、旧約聖書に記されたソロモンの神殿の姿を解明する手がかりとなる建造物を残していた神殿だ。
その大きさにおいても、発掘された範囲の広大さという点においても、シリア屈指の遺跡だった。なかでもよく知られていたのは、ライオンとスフィンクスを表した石の彫刻と、古代エルサレムにあったユダヤ教最初の神殿「ソロモンの神殿」に似ている点だ。
シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)とシリア文化省によると、1月26日、クルド人勢力が支配する都市アフリンの南部をトルコが攻撃。空爆により、神殿の大半が破壊されたという。シリア人権監視団と、クルド系メディア「ハワルニュース」の写真と映像から、神殿が半分以上失われ、遺跡を取り囲んでいた彫刻の多くも壊されたことが確認された。(参考記事:「イラクのクルド人 踏みにじられる未来」)
アメリカ東洋研究所(ASOR)、文化遺産戦略のシリア分析員であるマリーナ・ガブリエル氏は、「シリア人の精神にとっても、見守っていた各国の監視団にとって、大きな打撃です」と話す。
神殿に残る「足跡」のミステリー
アインダラ神殿は3000年以上前、紀元前1300年ごろに建てられた。地中海の東側にあった青銅器時代の諸王国が崩壊し始める少し前のことだ。
この神殿は、現在のトルコに現れた強力な国家、ヒッタイト王国の終焉を記録する宗教建築の1つとして重視されている。古代史上指折りの大戦であるカデシュの戦いで、エジプトのラムセス2世(在位:紀元前1279~1213年)はヒッタイトと戦い、世界で初めて平和条約を締結して争いを終わらせた。(参考記事:「【動画】80トンのファラオ像、4度目の引越し」)
アインダラ神殿を建てた人々は、建物の内側にも外側にも精巧な飾りを施した。ひときわ目を引くのは、神殿の中に通じる石畳に、いくつも連続して彫られている大きな足跡だ。
大きさが人の足の3倍もある足跡について、考古学者たちは、男神または女神の通り道を表しているのかもしれないと推測している。ASORのイラク・シリア分析員、ダレン・アシュビー氏は、「この地域の宗教建築の中でも、独特のもの」だと話す。