3月にコヨーテが米国サンフランシスコにある長いゴールデンゲートブリッジを渡ったというニュースを見た時、ノックスビルにあるテネシー大学の行動生態学者リズ・デリーベリー氏は、すぐに自分が研究するミヤマシトド(Zonotrichia leucophrys)のことを思い浮かべた。ミヤマシトドは主に北米に生息するスズメ目ホオジロ科の鳥で、都市の騒音がこの鳥の音声コミュニケーション能力をどのように乱し、低下させているかを10年以上前から氏は調べている。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によりサンフランシスコに外出禁止令が発令されると、デリーベリー氏は、騒音が消えたときにこの賑やかな小鳥の反応を調べる絶好の機会を逃すまいと決意した。
「この研究を今すぐやらなければならないと思ったのです」と彼女は言う。
それから数カ月間、人気のなくなったベイエリアの通りでミヤマシトドのさえずりを録音したデリーベリー氏らは、外出禁止令がもたらした静けさが、鳥たちのさえずりの質と情報量の両方を、劇的に向上させたことを明らかにした。歌によって縄張りを守り、パートナーを見つけるオスにとっては、非常に重要な変化だ。論文は9月24日付けで学術誌「サイエンス」に発表された。
「ミヤマシトドの歌は私たちの予想よりはるかに大きく変化していたのです。騒音公害の影響の大きさを浮き彫りにする結果でした」
この研究は、パンデミックが都市部の野生生物に与える影響を科学的に評価した、最初の研究の1つだ。近年、クジラの鳴き声をかき消す船の騒音から、コウモリのソナーを妨害する自動車の騒音まで、人間が作り出す音の洪水による自然破壊に関する研究がさかんになっている。今回の研究もその一環だ。
「パンデミックというめったにない状況下で、すばらしい情報を収集できた研究者がいたことを非常に嬉しく思います。この研究により、動物たちがいかに早く元に戻れるかが示されました」と、英マンチェスター・メトロポリタン大学の行動生理学者で、騒音公害が都市部の鳥に与える影響について研究するスー・アン・ゾリンジャー氏は称賛する。
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