イスラエル考古学庁(IAA)はこのほど、死海文書の新たな断片が約60年ぶりに発見されたほか、完全な状態としてはおそらく世界最古の籠も見つかったと発表した。IAAは、ユダヤ砂漠に点在する洞窟で、考古遺物の盗掘を阻止するための取り組みを数年前から進めてきた。
IAAの考古学者たちは、死海西岸の人口がまばらな乾燥地域で、切り立った崖を何十メートルも懸垂下降したり、鳥やコウモリのふんの山を掘ったりして遺物を調査している。
「私たちは長年、盗掘者の後を追いかけてきました。ですが結局、地中や洞窟から(遺物が)持ち去られてしまう前に救出することにしたのです」と、IAAの盗掘防止部門の責任者であるアミール・ガノール氏は、報道発表と同時に公開された動画で語っている。
2017年10月に始まり、現在も進行中のこのプロジェクトでは、約70kmにわたって広がる砂漠に点在する崖の洞窟を調べていて、すでに約600カ所の調査が終わっている。調査地域は、イスラエル領土と、ヨルダン川西岸地区のうちイスラエルが軍事・行政権を握るC地区にまたがっている。
国際法では通常、占領地での考古学的発掘は禁止されているが、イスラエル政府は、文化遺産が危険にさらされている場合、緊急の救出作業を行う権利があると主張している。
このプロジェクトの最終目標は、ユダヤ砂漠の断崖に点在するすべての洞窟の一覧表を作り、どの洞窟に考古学的遺物があるかを記録することにある。この地域を調べているすべての考古学者にとって有益であるだけでなく、盗掘にあいやすい場所にIAAが対策を集中する上でも役立つ。
IAAの盗掘防止部門のエイタン・クライン副部長は、これまでに調査した洞窟の半数以上には考古学的遺物がなかったと説明し、「私たちは(遺物が)見つかる可能性のある場所と、盗掘しようとしても何も見つからない場所を正確に把握しています。この知識は大いに役に立ちます」と胸を張る。(参考記事:「聖書博物館が所蔵する「死海文書」16点、すべて偽物だった」)
「恐怖の洞窟」
死海文書の断片は、2019年末から2020年初頭にかけて行われた発掘調査により、ナハル・ヘベルのワディ(涸れ谷、ワジともいう)にある第8洞窟で発見された。第8洞窟は、1960年代初頭の発掘調査で大人と子ども40人の遺体が発見されたことから「恐怖の洞窟」と呼ばれている。
これらの遺体は、バル・コクバの乱(132〜135年)の際にローマ軍から逃れてきたユダヤ人犠牲者のものと考えられている。洞窟の入り口は切り立った崖の頂上から約75mも下に位置しており、古代の人々は縄ばしごを使って出入りしていたようだ。(参考記事:「死海文書「第12の洞窟」を発見、50年ぶり」)