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「恐竜絶滅の日」、新事実が次々と明らかに(Illustration by CLAUS LUNAU, Science Source)
毎年、世界中の研究者が、人類の知の蓄積に貢献している。
古生物学者や考古学者は過去の痕跡から、はるか昔に失われた生命や文明を明らかにする。生物学者や地球科学者は地球とこの星に暮らす生命の仕組みを解明し、天文学者は地球の外に広がる謎を追求する。そして医学者は、人体の複雑さとそれを脅かす病気を研究し、人類という種を守るための新たな手段を開発する。
人類の絶え間ない探求と実験からもたらされる発見は、予想もしなかったようなものであることも少なくない。今年、特に大きな驚きとなった発見を以下にまとめた。
太古の熱帯雨林の化石群をオーストラリアで発見
2022年1月、オーストラリア南東部で見つかった太古の熱帯雨林の痕跡について研究成果が発表された。論文によると、ここマグラス・フラットにある1600万年前〜1100万年前の化石は、中新世の熱帯雨林の生態系が確認できる、世界でも非常に珍しいものだという。
脚の毛まで化石化しているクモや、虫を食べてお腹を膨らませた魚など、小さくてやわらかい生物の体が細かい部分まできれいに保存されている。木の葉の化石では、二酸化炭素を吸収していた気孔まで確認できるほどだ。
「保存状態が非常に良いため、熱帯雨林の生態系をかつてないほど詳細に観察することができます」と、オーストラリア博物館研究所の古生物学者で、論文の執筆者の一人であるマシュー・マカリー氏は述べている。(参考記事:「太古のオーストラリアにアマゾンのような熱帯雨林、化石が続々」)
火星の岩に謎の紫色のコーティング、生命の痕跡か
2021年に火星に着陸したNASAの探査車「パーシビアランス」は、2022年も引き続き、古代の生物の痕跡を求めてジェゼロ・クレーター内を探索した。ここはかつて水で満たされていた可能性が高い。(参考記事:「火星探査車パーシビアランス、着陸から1年でわかったこと 写真と動画11点」)
パーシビアランスによる驚きの発見のひとつが、紫色の薄いコーティング(被覆)に覆われた岩だ。このコーティングは、地球上で微生物によって形成される岩の被覆とよく似ている。パーシビアランスによる岩石の採取も順調に進んでおり、これまでに集めた14個のサンプルは、火星表面に貯蔵され、今後のミッションでの回収を待っている。(参考記事:「火星の岩に謎の紫色のコーティング、生命の痕跡か、最新報告」)
9月には、以前より実施が期待されていた、クレーターの縁に位置する古代の川によって作られた三角州の探査が行われた。 NASAと欧州宇宙機関は引き続きサンプル回収計画の策定を進めており、これには2機のヘリコプターを含む複数の探査機が使われる予定だ。(参考記事:「史上初、火星ヘリコプターが離陸に成功、そのすごさを解説」)
伝説のスペインの難破船、米国の海岸で発見
17世紀に難破したスペインのガレオン船の残骸が、米国オレゴン州の海岸で見つかった。1693年にフィリピンからメキシコへ向かい、途中で航路をはずれて消息を絶ったサント・クリスト・デ・ブルゴス号のものと思われる。
積み荷だった蜜蝋の塊が今も時折海岸に打ち上げられることから、このガレオン船は「ビーワックス・レック(蜜蝋難破船)」と呼ばれ、何世紀にもわたって地元の人々の語り草となってきた。それでも船体の残骸が実際に確認されたことはなかったが、近年になってアストリア付近にある海辺の洞窟から木材が見つかり、研究者がこれを分析したところ、17世紀のアジアで造船に使われていた種類の硬材であることが判明した。この条件は、行方知れずだったサント・クリスト・デ・ブルゴス号のそれと完璧に合致した。
死にゆく臓器を蘇らせる新技術「OrganEx」を開発
米エール大学の科学者たちが、死後1時間放置されたブタの複数の臓器(脳、心臓、肝臓、腎臓など)を救い、機能させられる可能性を示した。
この研究は、移植に使いたい人間の臓器をより長く保存するのに役立つ。通常、移植用の臓器は、心臓が血液を送り出すのを止めた後、すみやかに摘出しなければ使いものにならない。移植のために提供される臓器は、すぐに保存が行われなかったせいで毎年大量に廃棄されている。
しかし、神経科学者のネナド・セスタン氏のチームは、「OrganEx」と呼ばれる鮮やかな青色をした溶液を開発し、死にゆく臓器の機能を回復させることを可能にした。
研究者らは、ブタに心不全を誘発させて、死体を室温で1時間放置してから、血液にOrganExを注入した。この溶液には、アミノ酸、ビタミン、代謝産物のほか、13種類の化合物が含まれている。ある装置の力を借りてこの溶液を6時間にわたって循環させたところ、臓器に復活の兆候が確認された。心臓の細胞は鼓動を始め、肝臓の細胞は血液からブドウ糖を吸収する仕事を再開し、DNAの修復も再開されたのだ。
セスタン氏はしかし、こう警告している。「心臓が鼓動しているとは言えるかもしれませんが、どこまで健康な心臓と同じように鼓動しているかはわかりません。さらなる研究が必要です」。次の段階では、OrganExによって処理された臓器を生きているブタに移植し、どれだけ機能するかを見る実験などが予定されている。(参考記事:「【解説】死んだブタの臓器を回復させる衝撃の新技術「OrganEx」」)
トンガの火山、桁外れに奇妙な噴火
1月、南太平洋の国トンガの海底火山フンガトンガ・フンガハアパイが、大規模な噴火を起こした。(参考記事:「トンガ噴火は「桁外れに奇妙」、異常な巨大津波、少ない火山灰」)
この噴火に伴って大気中を伝わる特殊な音波は地球を何周もしたほか、大きな津波が近隣および遠方の海辺に押し寄せた。科学者たちは大急ぎでこの噴火の奇妙な点についてのデータを収集し、背景にあるメカニズムと影響の理解に取り組んだ。「今回の噴火は、すべてが桁外れに奇妙です」。当時、米スミソニアン協会の全地球火山活動プログラムにいた火山学者のジャニーン・クリップナー氏はそう述べている。
この噴火では、約10立方キロメートル分の岩石が海底から掘り起こされた。この量は過去100年で最大規模となった。また噴火によって発生した火砕流は、少なくとも80キロメートル離れた海底まで到達した。(参考記事:「過去100年で最大規模、トンガ噴火の驚くべき実態を解明」)
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