膨大な数の難民が暮らす中東イラク北部からシリア東部にかけての地域に冬が訪れると、テントや簡易な建物に暮らす避難民の生活は一気に厳しさを増した。大雨や吹雪に見舞われたキャンプもある。
シリア北東部にあるネウロズ難民キャンプは、雨が降り続き、足首まで泥に埋もれる。たわんだテントの中で、ムフシン・エドは力なくうずくまる。毛布で作った上着は、泥にまみれている。暖房に使う灯油はなく、かまどにくべる乾いた薪も底を尽きかけている。快適さとはほど遠い場所だ。
2014年、中東の難民を取り巻く危機は劇的に拡大した。シリアの内戦によって新たに100万人の難民が国境を越え、国連の統計によると、その数は11月末の時点で310万人に達した。政府軍、反乱軍、イスラム過激派がぶつかり合う戦闘地域が広がるにつれ、自宅を追われたシリア人およびイラク人は1300万人に上るとも言われる。
冬という試練
冬を迎えて、難民キャンプの生活はさらに苛酷になる。ネウロズほか各地の難民キャンプに暮らす人々は、ごく基本的な生活必需品さえ外部からの支援に頼っている。各支援団体は、大勢の難民たちに住む場所、衣服、食糧を供給しようと、必死に活動を続けている。
内戦開始から3年が過ぎ、この紛争の犠牲者に対する世間の関心は徐々に薄れてきた。寄付金が減ったことで、特に厳しい状況にある難民に対してさえ支援を縮小する団体も出てきている。もしこの先昨年並みに気温が下がれば、事態はさらに悪化するだろうと、各支援団体は懸念している。
燃料は確保困難、電気も不足
シリア北東部では、暖房用の燃料の入手がますます難しくなってきた。ネウロズ難民キャンプから西へ60キロほどの位置にあるカーミシュリーでは、周辺の地域の大半を過激派「イスラム国」が占拠している。すぐ北に位置するトルコは、クルド人勢力が勢いづくのを恐れて、国境を封鎖している。そうした影響で、この地域の燃料価格は以前の5倍に跳ね上がった。
たとえ高価な燃料を買う余裕があったとしても、その先にはさらなる問題が待っている。地元の油田と遠方の海岸沿いにある製油所とを結ぶパイプラインが切断されているため、シリア北東部に出回っている灯油の大半は、手作業によっていい加減に精製されたものなのだ。一帯では、こうした質の悪い灯油が爆発する事故が相次いでいる。
シリアとイラクにおいては停電もすでに日常茶飯事となっている。日照時間の短い冬の間は、そのダメージも倍増する。「クルド人半自治区の人口は150万人増加しましたが、発電量は以前と変わりません」とクルド地域政府のサフィーン・ディザイー主任報道官は言う。同地区内における平均発電量は、1日22時間分から15時間分にまで低下した。
投資も難民より軍へ
紛争地帯においては通常、雪の季節には戦闘は沈静化する。しかし「イスラム国」の場合は違うと、イラクのクルド人部隊を統括するハルガード・ヒクマットは言う。「彼らは冬でもむちゃくちゃなんです」
シリアのクルド当局は、難民支援に力を尽くしてはいるものの、絶えず領内への侵入を繰り返す過激派に対抗するため、限られた資源の大半を軍に振り分けている。そのため1基150万ドルの大型発電機を4台購入することが、当局による越冬計画の限界だったようだ。
難民キャンプで暮らすムフシン・エドは、膝の上で飛び跳ねる末娘を抱きかかえながら、真面目な表情をしてこう言った。「わたしの人生はもうおしまいですが、子供たちにはなんとか未来を残してあげたい。ここにいたのでは、子供たちに未来はありません。世界の人たちに、われわれの思いを伝えてください。国際社会からの助けが必要なのです」