ドイツの研究チームがこのほど、脊椎動物では初の例となる交尾中のつがいのカメの化石を発見したと発表した。化石における史上初の発見の興奮と共に、もう1つの謎についても解明が進みそうだ。4700万年前のカメの化石は、先史時代の湖が世界有数の化石の宝庫になった経緯についても、手がかりを与えてくれている。「つがいの化石だけでも、世界に類を見ない発見だ」と、研究を率いたウォルター・ジョイス(Walter Joyce)氏は語っている。「このような姿で発掘された脊椎動物の化石は他に例がない」。
このカメのつがいの化石が見つかったのは、ドイツのメッセル・ピットと呼ばれる場所だ。ここはかつて熱帯の湖だったが、現在は“ラーゲルシュテッテン”(非常に保存状態の良い化石が出土する場所を意味する古生物学の専門用語)となっていると、コロンビア大学のマーク・ノレル(Mark Norell)氏は説明している。
この先史時代の湖では、多数の動物が何らかの理由で死に至り、その死骸が火山性の堆積物の中に保存された。この堆積物はその後、はるか昔にオイルシェール(湯母頁岩)となったが、この場所から発掘されたカメの一種(学名:Allaeochelys crassesculpta)について、交尾中と疑われる化石が過去30年間に9組見つかっていた。
今回の研究では、こうしたつがいの化石を初めて本格的に分析し、これらの化石はすべて、確かにオスとメスの組み合わせであるとの最終結論に至った。オスが約20%ほどメスよりも小さく、尾が長いという特徴も、分析の根拠となった。さらに有力な手がかりとして、2組のつがいでは2匹の尾が交尾の際にとられる位置になっていることも研究チームは突き止めた。
◆化石の宝庫となった理由
今回の発見は、絶滅したこのカメについて、何か新しい知見を与えてくれるのだろうか?
ノレル氏によると、「それはまずないだろう」という。同氏は今回の研究には関わっていない。「カメははるか昔から生息しており、(交尾の方法は)昔も今もほとんど変わっていない」。
しかし今回の研究は、メッセル採掘場でこれほど多くの太古の動物が死に至った理由について、新たな手がかりを提供している。
古生物学者は長年、2つの仮説について熱い議論を繰り広げてきた。片方の説は前触れなく、間欠的に湧出する有毒の一酸化炭素が池の水を汚染したというもので、もう一方の説は湖面近くに発生した毒性のバクテリアが原因だとするものだ。
湖面のバクテリアが原因だとする仮説の証拠としては、陸生動物の化石が、かつて池だった場所の近くで発見されている点が挙げられる。
だが、今回の研究を主導したドイツのテュービンゲン大学所属のジョイス氏は、これらの陸生動物の死は、単に自然の原因によるものだとみている。「死ぬ動物は常に存在する。この地域の個別の事例について、その死の理由を説明する理論を一から打ち立てる必要はないように思う」。
さらにジョイス氏は、今回の研究で交尾中であることが判明したカメの化石は、一酸化炭素説にとってこれまでで最も有力な証拠になるはずだとの見解を述べた。
これらのカメは「特に問題がなく、毒を含んでいない」湖水の中で交尾を始めたはずだと、ジョイス氏は解説する。その後、交尾中に水の中に潜ったと考えられるという。交尾中は多くのカメがこうした行動をとる。そして水深10メートル付近まで潜ったところで、皮膚呼吸が可能なカメは体内に一酸化炭素を吸収し、2匹は死んでしまったというわけだ。
では、これが最終結論と言っていいのだろうか?
「これは科学の世界の話だ」とジョイス氏は笑いながら答えた。「厳密に何かを証明できることはほとんどない。ただしこれは非常に理にかなった推測ではある」。
カメの化石に関する新たな研究は6月20日付で学術誌『Biology Letters』のオンライン版に掲載された。
Photograph courtesy Stephan Schaal, Senckenberg Society
このカメのつがいの化石が見つかったのは、ドイツのメッセル・ピットと呼ばれる場所だ。ここはかつて熱帯の湖だったが、現在は“ラーゲルシュテッテン”(非常に保存状態の良い化石が出土する場所を意味する古生物学の専門用語)となっていると、コロンビア大学のマーク・ノレル(Mark Norell)氏は説明している。
この先史時代の湖では、多数の動物が何らかの理由で死に至り、その死骸が火山性の堆積物の中に保存された。この堆積物はその後、はるか昔にオイルシェール(湯母頁岩)となったが、この場所から発掘されたカメの一種(学名:Allaeochelys crassesculpta)について、交尾中と疑われる化石が過去30年間に9組見つかっていた。
今回の研究では、こうしたつがいの化石を初めて本格的に分析し、これらの化石はすべて、確かにオスとメスの組み合わせであるとの最終結論に至った。オスが約20%ほどメスよりも小さく、尾が長いという特徴も、分析の根拠となった。さらに有力な手がかりとして、2組のつがいでは2匹の尾が交尾の際にとられる位置になっていることも研究チームは突き止めた。
◆化石の宝庫となった理由
今回の発見は、絶滅したこのカメについて、何か新しい知見を与えてくれるのだろうか?
ノレル氏によると、「それはまずないだろう」という。同氏は今回の研究には関わっていない。「カメははるか昔から生息しており、(交尾の方法は)昔も今もほとんど変わっていない」。
しかし今回の研究は、メッセル採掘場でこれほど多くの太古の動物が死に至った理由について、新たな手がかりを提供している。
古生物学者は長年、2つの仮説について熱い議論を繰り広げてきた。片方の説は前触れなく、間欠的に湧出する有毒の一酸化炭素が池の水を汚染したというもので、もう一方の説は湖面近くに発生した毒性のバクテリアが原因だとするものだ。
湖面のバクテリアが原因だとする仮説の証拠としては、陸生動物の化石が、かつて池だった場所の近くで発見されている点が挙げられる。
だが、今回の研究を主導したドイツのテュービンゲン大学所属のジョイス氏は、これらの陸生動物の死は、単に自然の原因によるものだとみている。「死ぬ動物は常に存在する。この地域の個別の事例について、その死の理由を説明する理論を一から打ち立てる必要はないように思う」。
さらにジョイス氏は、今回の研究で交尾中であることが判明したカメの化石は、一酸化炭素説にとってこれまでで最も有力な証拠になるはずだとの見解を述べた。
これらのカメは「特に問題がなく、毒を含んでいない」湖水の中で交尾を始めたはずだと、ジョイス氏は解説する。その後、交尾中に水の中に潜ったと考えられるという。交尾中は多くのカメがこうした行動をとる。そして水深10メートル付近まで潜ったところで、皮膚呼吸が可能なカメは体内に一酸化炭素を吸収し、2匹は死んでしまったというわけだ。
では、これが最終結論と言っていいのだろうか?
「これは科学の世界の話だ」とジョイス氏は笑いながら答えた。「厳密に何かを証明できることはほとんどない。ただしこれは非常に理にかなった推測ではある」。
カメの化石に関する新たな研究は6月20日付で学術誌『Biology Letters』のオンライン版に掲載された。
Photograph courtesy Stephan Schaal, Senckenberg Society