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10 道具屋の話


 さて、次の日は学業とバイトで終わってしまったので、その翌日。ログイン2回目である。


 降り立ったのは初心者ご用達宿屋。

 あと1泊出来るはず。話によると必要無くなったら消えちまうらしいぞ、この宿屋。


 目を開けたら、枕元にアレキサンダーがぷるぷるしてたんで一瞬ビビったけど。


「おはようアレキサンダー。今日もよろしくな」


 こくこくと頷くアレキサンダーを頭に乗せ宿を出た。

 道行く人は荒事とは無関係の住民の方ばかりだ。


 頭上のアレキサンダーを時折凝視する人はいる。でも、避けられたり怯えたりはされないので一安心だ。

 向かう先は地元の人に教えて貰った、お得な道具屋さんである。


 お店の場所は住宅街と商業区の境にあった。


 話には聞いていたが、看板も何もないので入るのを躊躇(ちゅうちょ)してしまう。

 キョロキョロしてると不審者扱いされかねないので、意を決して中に踏み込んだ。


 店内はひんやりとした空気が漂う落ち着いた内装だった。


 左右に何段かの棚があり、取り出しやすいように傾斜がついている。

 並べられているものは裁縫道具や手作りのアクセサリー、スプーンやフォークなどの木製の食器。毛糸で編まれたマフラーや帽子なんてのもある。


 商品を眺めていると、正面にあったカウンターの向こうにおばあさんが現れた。


「おやおや、異方人の子がここに来るなんて初めてだねえ。どなたにここのことを聞きなさった?」

「道を尋ねた奥様方に、ですね」


 住民にはプレイヤーは異方人と呼ばれているもよう。おばあさんは俺の返答に「仕方ないねえ」と呟く。


 あれー? プレイヤーは歓迎されないのかな。

 それとも何か秘匿された店か何かだったのかな? 


「ここには異方人の子が必要とするものはないと思うんだけどね」


 確かに、ざっと見た感じ木工食器ぐらいだろうなあ。今回来た目的は全然違うんだけど。


「すみません。こちら買い取りはやっていますか?」


 とインベントリから取り出すのは兎の毛玉と鶏の尾羽だ。

 狼の毛皮もあるけど、対応を見てからかな。


 おばあさんは俺の取り出したアイテムを眺め、「ふむ」と頷きながら買い取り表を俺の前に広げた。


「ご覧の通り、ギルドほど高額買い取りは出来ないけど、構わないかい?」

「ええ、問題ありませんよ。ありがとうございます」


 ギルドの買い取り価格もわからん俺にとって、ここの金額が一番だと思えるのだがね。


 表には狼の毛皮もあったので、そちらもカウンターの上に並べて置く。

 するとアレキサンダーが頭の上からカウンターに下り立った。俺とおばあさんが何事かと目を向けると、アレキサンダーは口(?)を開いて毛玉や尾羽を吐き出していく。


 その図体の何処にこんな量が? と首を傾げる俺をよそにアイテムを粗方吐き出したアレキサンダーはまたぽよんぽよんと頭上へ戻っていった。


 おばあさんはというと、当初の倍ほどになったアイテムをサクサクとチェックしていき「これくらいだね」と硬貨を幾つか渡してくれた。


 プレイヤー同士であれば売買用のウィンドウを介して行うらしいが、住民とでもない限り硬貨を実際に見ることはないのかな。


 貰ったのは銀貨3枚と銅貨20枚だった。

 そのままインベントリに放り込んだところ、3200Gも増えた。


 おおー! 中々高値になったじゃないか。毛玉だけでもそこそこの金額が稼げるんじゃなかろうか。


 後日、翠にこの事を話したところ、可哀想な目で見られてしまいプレイヤーの店で売ることを強く勧められた。世間知らずな上に情報調べない人間で悪うござんしたね!




 おばあさんにお礼を言って店を出ようとした時である。


「ありがとうね」


 と、今の売買とは関係ないしみじみとした口調で礼を言われてしまった。

 さすがに気になったので振り返る。


 だいたい俺はこの世界の住民と接触したのって10人弱じゃないかな。その中でおばあさんに礼を言われるような関わり方をした人はいない筈?


 疑問が顔に出ていたんだろう。おばあさんの方から理由を言ってきた。


「その頭の上の魔物のことさね」

「その言い方だと大人連中は知ってたんだな。子供たちがこいつを飼ってたことを」


 それを咎めずに放置してた事がよくわからんのだが。

 アレキサンダーは言葉が分かるから、ぷるぷるせずにじっとしたままだ。


「儂らが何も言わなかったのはそれが魔物じゃからの」

「? 魔物だけども子供たちになついてたぞ」


「お主らみたいに戦えるものには分からんじゃろう。儂ら大人たちは魔物が怖いんじゃよ。おとなしかろうがなついてようが、それが魔物であると言うだけで怖いものなんじゃ」


 ああ、なんとなく分かるわな。

 犬嫌いの人に犬の素晴らしさを説いても無駄だからな。それと同じ理由だな。成る程成る程。


「だから注意もしなかったと?」

「そうじゃ。折を見て冒険者に討伐してもらうつもりであったとも」


 こんなに頼りになるアレキサンダーを知った俺にはムカつく理由だが、爆発したところで何の解決にもならんな。


「子供たちにはそれぞれの親がしっかり言い聞かせておくでの。お主はその魔物を子供たちには会わせんでくれればよい」


「こっ!? おいいっ!」


 頭上のアレキサンダーが1度だけ頷くのを感じた。

 お前が了承しちゃうのかよ! 断ろうとした俺が馬鹿みたいじゃねえかっ!


 おばあさんは驚いた顔で俺の頭上を見詰めてる。そりゃあ魔物に反応されりゃあ唖然とするだろーよ。


「……驚いたわい。その魔物、言葉が分かる、のかい?」

「アレキサンダーは優秀だからな。俺が主人になってるが俺より強いぞ」


 言ってて悲しくなってきたが事実である。


 アレキサンダーが子供たちと離れることを認めちゃったんだ、仕方がない。


 とても他の店で買い物をする気分じゃなくなった。おばあさんに頭だけ下げてとっとと店を出た。



 例の廃墟へ通じる裏通りまで行ってアレキサンダーを頭から降ろす。つぶらな瞳を見ながら「どうする?」と聞いてみた。


 アレキサンダーは少しの間ふるふると震えていたが、くるりと向きを変えて冒険者ギルド方面へとぽよんぽよんと進み始めた。


 失敗のようだ。

 よし、次回は子供たちを探しだして情に訴えてみようと思うがどうだろうなあ。


 ちょっと苦手なジャンル。

 難航しました。


 ※異方人=異なる彼方の人という意味。NPCから見たプレイヤーのこと。

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