09 家族団らんの話
なんやかんやで夕飯はビーフシチューになってしまった。牛がなかったので肉は豚で代用した。
翠に指摘されたので急遽ポテトサラダも作った。
何時もの如く母親には好評である。
子供たちの料理に文句を言う姿は見たことがないけれど。
しかし俺の料理は煮込むばかりで、早急に改善が必要なのではないかと思う。でも端末で『貴方に合う料理レシピ』を検索すると、煮込み系しか出て来ないのは何でだ?
「じゃあ今度は一緒に料理しようか? 大気」
ニコニコとご機嫌なのはプチ姉こと山野ノフ。
北欧だかの出身で、膝まである長い薄いブロンドに蒼い瞳と母親並みの低い身長が特徴である。
あと唐突に人の考えを読まないで頂きたい。
キッチンに立つには踏み台必須なのに、手早く旨い料理作るんだよなあ。
「フルコースとか作れる気がしないからパスで」
「つれないなあ」
断ったのに何故楽しそうなんですかねえ。
プチ姉は料理漫画の主人公のような腕前なんだが、予算度外視したフランス料理のフルコースを平気で作る。
そのくせ本業はリクルート雑誌の編集長だというんだから、世間は分からねえ。
「結局兄さんが取ったユニークスキルって何なんですか?」
「ぶっ!? あれ大気もとったんかい。あんなハイリスクローリターンなもの取る奴はいないと思ったんだがなあ」
質問したのは翠だが、呆れたように呟いたのは牙兄貴だ。
2m近い身長に、モデルを務めてそうな無駄のない肉付きの体。有り体に言ってしまえば誰もが羨むイケメンである。
街を歩くと肉食系女性が群がってくるのも日常茶飯事だ。
見た目はそんなんだが、普段は母親の会社でSEをしている。
あるブイにも関わってるようで俺と翠の会話に顔をしかめたり、噴き出したりしていた。
「え、ワールドアナウンス流したの俺だけど。ああ、ログはチェックしてたのか母さん」
「ええっ! リアルでもユニークスキルに関しては質疑応答禁止っ!? 母さんそれ横暴! ひーどーい!」
母親にリアルでも禁則事項にされてしまった。
なんとなくこうなるような気はしてたんだよな。
「アレキサンダーの件、掲示板に書く気はしないなあ。貴広に代筆させるか」
「こういうのは本人が書いてこそ、ですよ兄さん」
「気が向いたらな」
「……にーさん」
ああいう類いのものは人を選ぶからなあ。俺は関わりたくないが。
翠よ、ジト目で見詰めてきても心はうごかんぞ。
「聞いてる限りは面白そうね。私もやろうかな」
「第1陣の募集は終了しているぞ。予想よりは本稼働で人集まったからな」
「あら、残念」
プチ姉が端末を操作しながら楽しそうに言う。しかし牙兄貴が首を振って一刀両断にしてしまった。
それをニコニコと受け止めるプチ姉っていったい……。
「プチ姉が来たら一大料理革命が起きそうな気がするな……」
「どうかなあ? それなりに中のご飯美味しいけど」
「そうなのか?」
それは初耳だ。
次は屋台か飯屋でも回ってみるのもいいな。
しかしだんだん行き先やら行動予定やらが増えていくなあ。
「段階を踏むが、そのうち空腹のシステムもバージョンアップもしていくぞ。ああこれは明日辺りから公式に載る情報だから安心しろ」
「牙兄貴、それペットも必要なのか?」
「必要に決まってるじゃないか。でも外部と隔離された状況でもない限り、ペットは自力で餌を獲るようになってるはずだ。ちゃんとステータスに空腹表示がでるはずだから、注意しておいた方がいいぞ」
地味に爆弾な情報だよなそれ。
アレキサンダーはタマラビとか倒していた途中で捕食してそうだったし。
こっちの言葉もある程度理解しているようだし聞いてみてもいいかもな。
あいつが倒したぶんのドロップ品はどこへ行ってるんだろう?
「は、なに母さん? 次はカレーがいい? 良いけどまた甘口の蜂蜜とリンゴマシマシでいいんだろ?」
「母上の好みで大気が作るのはいーんだが、たまには辛いカレーが食いたい」
母親が満面の笑みで頷く中、肩を落とす牙兄貴。
仕方ない、俺や翠が料理作るとすっ飛んで帰ってくんだよな。母親の求めに応じて料理を作るのにも慣れた。
「分かりましたわお兄さん。でしたら私めの作るカレーで我慢なさって」
「ノフのはカレーじゃなくて四川風肉丼って言うんだ! 火を吹くだけだろっ!」
「喜んでくださって嬉しいですわ」
「嫌がってるんだ、気付けっ!」
ああ、またプチ姉の牙兄貴イジリが……。
この前も牙兄貴の皿だけ赤い唐揚げだったなあ。
普段は2人ともにこやかに接してるのに、何故食い物だけ激辛応酬になっているのだろう。
翠と顔を見合せて苦笑する。
料理なあ。
ゲーム内で料理は何処かにキッチンはあるんかね。鶏肉がドロップしてるんだから焼き鳥くらいは出来そうだ。
作るには串と塩とタレ?
タレの作り方も調べて調理器具も揃える必要があるのかな。包丁やフライパンも必要だろう。鍋もあった方がよさそうだ。
ぶっちゃけた話、ナイフ1本で過酷な生活をするサバイバルは慣れてるが、キャンプ方面には疎いからなあ。
「翠」
「はい? なんですか兄さん」
「リンルフって喰えるのか?」
「えっ! 食べるんですか!? 確かに狼の肉はドロップしますけれど……。でも落ちるということは、食べられ、るんですよね?」
最後の方は確認のために牙兄貴に疑問を投げ掛けていた。
「そんなもん実際に食って確認しろよ」
「ですよねー」
牙兄貴はそこまで喋る気はないようだ。言い方がスゴい投げやりだしな。
「でも掴んだ感じ肉身はあったからタマラビも食えそうだよな。次は捕まえて火の中へ放り込んでみるか」
翠が「うわあ」っていう表情でドン引きしてる。
食料の確保は急務だろう。【解体】で兎の毛玉以外に肉も出ればいいな。
「大気、バイトどう? 順調?」
飯から晩酌にシフトしたプチ姉がお湯割り焼酎片手に聞いてくる。
仕事の片手間という名目で、俺たちのバイトは全部プチ姉の紹介が多い。
「時間は不規則だけど面白いよ。色々な話が共演の人たちから聞けるし」
「兄さん、今は何のバイトやってるんです?」
「特撮番組のスタントかなあ」
「勇者武装ガガーンってやつよ。最近のヒーローは荒事するスタッフが足りないらしいわ」
「!!」
翠が食い付いて来たので話を濁したかったんだが、プチ姉が番組のタイトルをバラしてしまう。
しかし翠は興味ないのか「へー」と感心するだけだった。
むしろ興味津々で目を輝かせたのは母親の方である。キラキラオーラが眩しいんで抑えてもらいたい。
「え、サイン? 母さんが特撮ヒーローのを!? あ、違う? ええっ! 暗黒武将アルミナさまぁっ!? ……「「マジか」」」
衝撃の事実……。
ついつい牙兄貴と翠と異口同音に被ってしまった。
驚愕の表情で固まる俺たちをよそに、ニコニコしているプチ姉はびっくりすることはあるんだろうか。
投稿しようとしたら謎の通信障害により2日間ネット遮断……。