24.アズールとメルト
ずいっとアズールが私に詰め寄る。
怒っては……いない。
でもさっきのような、からかうっていう雰囲気でもなかった。
「あいつが知らない人間と会うなんて、めったにない。何かされた?」
「……されたというより、させられたと言いますか」
これはちょっと語弊がある?
言葉を間違えたかな……いや、でも最初は『お願い』だった。
アズールが眉をぴくっと動かす。
「何をさせられたの?」
「えーと、未完成のポーションを持ってこられてですね。私なら完成品にできるだろうって……まぁ、私も肩慣らしにちょちょいと」
だいぶ省略しながらもメルトとのやり取りを伝える。
「……あいつ、そんなことを」
「はい?」
「何でもない。従弟が迷惑をかけたね」
アズールがすっと距離を取ってくれた。
やっと圧が下がり、ほっとする。
「あれは最重要の国家機密だ。メルトとのことは他言無用に願えるかな」
「全然構いませんけれど」
というか、自分は機密が床や机の上にあると言いつつ……!
アズールが最重要と念押す国家機密を私にバラしてたのか。
やっぱり自由人だ……。
「その場に他の人は同席してた?」
「キャサリンだけですね。他にはいません」
「ああ――彼女なら構わない。……ふぅ、多人数への口止めは不要そうだね」
そんな大事だったかと思いつつ。
でも高純度ポーションの価値を私自身が認識していなかったかも。
考えてみれば当然なのだ。
ランデーリ王国の王子が直々に監督し、他国への輸出を統制していた。
その件でアデールもランデーリへ赴かないといけないくらい。
私の作っていたモノはそれほど国家に影響する。
(原作では結構ノー天気に作ってた気もするけれど……)
しかし私のいるこの世界は、あの原作とはもうズレている。
肝に銘じないといけない。
下手をすると歩く機密お喋り少女になってしまう。
と、そこでアズールが肩の力を抜いた。
「君が気に病む必要はないよ。ほいほい見せてきたアイツが悪い」
「それはそうですが……あの地下工房で見たことは全部、誰にも言わないほうがいいですよね」
「何だって?」
「えっ……メルト殿下の地下工房です。ポーションのアレコレをしたのはそこで……」
「……お前をそこまで入れたのか」
それは様々な感情が入り乱れた声だった。
呆れ、驚き、苛立ち、興味――とても一言では言い表せない。
「余計なことを」
アズールが目を閉じ、私を見た。
「わかった。魔術省のことは人に聞かれても上手くごまかしておいてくれ」
「は、はい……」
答えた瞬間、執務室の扉が激しくノックされた。
突然の音に心臓が飛び上がる。
「陛下! 急ぎのご報告がありますにゃ!」
「キャサリンか。すぐ行く」
よほどのことが起きたのか、扉越しのキャサリンは慌てふためいていた。
アズールが私に視線を送って扉へと向かう。
「悪いね、仕事だ」
「いえ――」
「この離宮は好きにしてくれていい。用があればキャサリンへ」
「わかりました」
短いやり取りを交わすと、アズールが目を伏せる。
「じゃあね」
こうしてアズールは風の速さで執務室を出ていった。
扉の外でキャサリンとアズールのやり取りが聞こえてくる。
邪魔しないほうがいいだろうな。
話し合いが終わってから、私は外に出よう。
「…………」
私は今のやり取りを黒革の椅子に座りながら思い返していた。
(気のせいかもしれない、けど)
あのアズールの性格からすると、メルトに寄せる感情は異様な気がする。
もしかすると私と同じか、それ以上の関心があるような……。
(……アズールはメルトを殺す)
それは原作の、もうここではない世界の話だ。
でも……メルトとアズールの間には、何かが起こった。
ここでも起こるとは限らない。けれど、それだけは確かなのだ。
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