Sense18
「おにいちゃん、東門で待ってるから」
食後はその一言で部屋に篭る妹。いや、せめて食器洗いとか終わってから言ってくれよ。と思う。まあ、どうせ大した労力じゃないし良いんだけど。
食後にログインして東門に向う。もちろん、安定の速度エンチャント。いや、速度上昇のセンスと相まって早歩きだけど結構早い。
門のところでは、黒山の人だかりが出来上がっていた。そしてその中心は、我が妹だ。
「俺たちと狩り行こうよ。そろそろ、ボスMOBも突破したいし」
「なあ、俺達と」
「私たちといきませんか?」
まあ男女問わず声を掛けられているわけですよ。妹贔屓かもしれないが、美少女だからな。声位掛けられるだろう。と思う。
「待たせた。悪い」
「遅い! 行くよ!」
鎧姿のミュウ。おいおい、タクと同じように鎧や剣が変わってるじゃん。それも結構重厚感があって配色が白っぽい。ミュウのキャラクターイメージ通り、パラディンに近い感じだ。
「お、おい」
「良いから」
人垣から早く逃げたいのか、俺の手を引くミュウ。背後の人だかりからは、まだ呼びとめる声が聞こえるが、俺も無視した方が良さそうなのでそのままミュウに付き従う。
大分離れたところで、どうしてこうなったか尋ねたのだが――
「一応、そこそこ名の知れたプレイヤーなんだけど、一人でいるとナンパ紛いとか、結構あるの」
「へぇー」
「それに、この装備だって防具だってβ版の知り合いに頼んだオーダーメイド品なんだけど、口利きしてくれ、とか。譲ってくれってのもあってもううんざりしちゃう」
そりゃ、ご愁傷様。俺はまったりソロプレイだ。
「お姉ちゃん聞いてる?」
「なあ、ゲームでは女キャラだけど、兄と呼んでくれないか?」
「無理です。もう、それにお姉ちゃんが来るのが遅いからこうなったんだよ!」
「家事を放棄しろと? お前も手伝ってくれれば良いだろ? 食器拭きとか」
無理、だの、ゲームが私を呼んでいる。ってそりゃ感情論で物言うなよ。はぁ、と溜息を吐きながら、もうその話題を遮る。
「それで、俺達が受けるクエストって何だ?」
「女性限定! しかも二人一組限定のクエスト【クリス洞窟の内部調査】だよ」
「いや、知らんって」
「簡単に説明すると。森の中にある洞窟調査なんだ。これと対をなすクエストで男性限定の【ヒュムネ池の環境調査】とかあるの」
「へー。クエストっていわゆるNPC依頼だよな」
「そうそう、でね。そこの狩り場が今の私にはちょうど良いんだよね。β版でもあって結構お世話になったんだ。今、ポーション高騰でボスMOBに挑めない状態だからここでレベル上げ。だけど、一緒に来たがらないんだよね。みんな。所詮ゲームのMOBなんてリアルじゃないのに」
「えっと、なんか会話に不穏な雰囲気があるんだけど」
「大丈夫。お姉ちゃんは後ろでどっしり構えてて、ムカデは私が全部狩るから」
うへっ、もう帰りたい。そりゃ虫系って女性じゃなくても嫌だろ。
「俺帰る! そんなムカデの居る場所には行きたくない」
「昨日約束したよね! 約束破るの!」
「それ以前に、ちゃんと話をしない方が悪いだろ!」
「うー、お姉ちゃんとやっとまともな冒険できると思ったのに」
何だよ。そんな涙目でああっ、もう分かったよ。やればいいんだろ。
「はぁ、分かった。ただし、俺は後方でずっとエンチャントしてるからな」
「うん。私の雄姿を見て!」
涙目だったのに、もう笑顔。VRゲームって表情豊かだな、とお門違いな思いが頭をよぎる。
「ただし、道中。採取させてくれよ。この辺の石って銅鉱石やすずだから、細工センスを上げるのにちょうどいいんだ」
「了解、了解。ついでにザコMOBも狩ろうよ。こっちには来たことないでしょ?」
一応来たことあるが、道中戦わせて貰えなかった。こっちは平原の草食獣とは違い、モンスターっぽいモンスターだ。ゴブリンとか、スライム? 緑色の小人とかぶよぶよ濁ったゼリーみたいなゲームの定番。ミュウは、片手剣振り回して、一撃で倒していくし、俺は、弓で遠距離からちまちまゴブリンを狙い撃つ。
だって、俺の弓。スライムに当たってもダメージ殆ど分からないんだぜ。だからスライムは美羽に任せてゴブリン一択。エンチャント込みで鉄の矢で六本で終わる。
さすがに遠距離射撃でも六本打つ間に大分近づかれてひやひやする場面があった。ビッグボアとの戦いでは、自分の役割は攻撃よりもサポートと引き付け役だったため分からなかったが、遠くの狩り場に行くんだったらもっと装備を充実させた方が良い事を実感した。
俺が一匹倒すのに対して、美羽は一振りで一匹。やっぱり俺はお荷物だ。
戦闘終わったら何か言われるんだろうな。と思いながらも矢を番える。
「やっと終わった」
「いやー、良い準備運動になったね。お姉ちゃん」
「あれが準備運動か? 俺はガチでやばいと思ったんだが」
「あれくらい余裕余裕。でも驚いたよ。お姉ちゃん、弓の扱い上手になってるんだもん」
「そう言って貰えるとありがたいな」
「そういえば、今のセンスってどんな感じ?」
「あー、こんな感じだな」
所持SP8
【弓Lv16】【鷹の目Lv20】【速度上昇Lv4】【魔法才能Lv19】【魔力Lv20】【錬金Lv7】【付加Lv19】【合成Lv13】【細工Lv10】【生産の心得Lv9】
控え
【調教Lv1】【調合Lv13】
あー、さっきの戦闘でセンスも上がったし、石の採取の時、細工センス持ってないと石の鑑定出来ないんだよな。
「へぇー。速度上昇取ったんだ。それに何気に鷹の目や付加、魔力も高いし。どうやったらそこだけ高くなるの?」
「いや、移動するのにエンチャントとか、何もしてないけどエンチャント掛けてる」
「あー、戦闘職っていざという時に掛ける感じだから成長し辛いんだね。でも、移動中って」
「これ、使ってみると便利なんだぞ。攻撃力上昇のセンスの代用になるし。お前のはどんな感じなんだよ」
「うーん。私のセンスはこんな感じ」
所持SP13
【片手剣Lv7】【鎧Lv28】【攻撃力上昇Lv31】【防御力上昇Lv27】【気合いLv17】【魔法才能Lv24】【魔力Lv24】【魔力回復Lv14】【光属性Lv22】【回復魔法Lv15】
「レベル高っ!」
「普通だよ。それに、β版の私の最終的な平均センスレベル一次レベルで45換算だったんだよ」
「へぇー。俺全部一次センスだし」
「まあ、センスは、二十越えてからは上昇しづらいし。良いんじゃない?」
そう考えると、鍛冶レベル30にして上位センス獲得したマギさんや、片手剣にしたミュウって凄すぎるだろ。
「実際、β版の頃より上りが良いんだよね。やっぱり装備とお金の差だよね」
鼻歌交じりで前を行く。ああ、俺も早くお金貯めてやる。それにいつかミュウのビックリするようなアクセサリーを作ってやるぜ。
そう心に誓う。
「ユンお姉ちゃん、ついたよ。ここがクリスの洞窟。さあ、準備は良い?」
くるりと振り返るミュウ。白髪を振りまき、満面の笑みを浮かべる。白銀の鎧姿がパラディン。いや戦乙女と言った雰囲気を醸し出す少女。
その背後には、魔窟が真っ暗な口を開いている。
ああ、俺その前に。生きて帰れるかな?
改稿・完了