Sense36
店舗の見積もりを得るために第二の町―ジュピーニ―のNPC・棟梁に会わなくてはいけないが、道中のボスMOB・ブレードリザードと一戦交えなければいけない。
正直、めんどくさい。だが、攻略に協力してくれそうな人には心当たりがある。
「美羽。実は、第二の町に行きたいんだけど、攻略を手伝ってくれないか?」
夕飯の席で俺は、そう切り出した。今日の夕飯は、ご機嫌取りを兼ねて美羽の好物のミートスパゲティーだ。まあ、麺類って作るの楽なのもある。という理由は内緒な方向で。
「お兄ちゃん! やっと攻略する気になったんだね! もちろん良いよ! レッツ、一夏のアバンチュール!」
「いやいや、そう言うんじゃないって。というよりお前、アバンチュールの意味分かって使っているのか?」
アバンチュールとは、フランス語で冒険。あながち間違っていないが、厳密には、恋の冒険や火遊びなんて意味もある。
「俺は、クエストでどうしても第二の町に行かなくちゃいけないんだよ」
「お兄ちゃんがクエスト受けるのなんて珍しいね。あのあたりだと【フェアリーグロウの採取】とか【ミルダンディ街道の調査】あとは、ギルド設立関連クエストの【マスティル・デインの討伐依頼】とかかな?」
「いや、【店舗の見積もり】でNPCが棟梁だって」
「聞いたことが無いクエストだね。何やったら出てきたの?」
「あー、その、だな」
言って良いものか。正直、商売の種だし、これからも密かに畑を買い占めたいから秘密にしたいんだけどな。
よし、ぼやかして言おう。そうだ、ぼやかして言えば問題ないはずだ。
「……地主になったんだ」
「どうやったら、地主になれるの?」
はい、駄目でした。可愛らしく小首をこてんと傾げる我が妹。天然系の美少女がこんなことやればみんな一瞬で落としてしまいそうだ。だが、この子廃人ゲーマーでしたね、頭の中は今きっと地主になる可能性のある事を考えているんだろうね。
地主になるためのフラグを色々と調べている人ですもんね。
「その……土地を買いました」
「土地ってどこの? 聞いた事無いんだけど」
「いや、知ってると思うぞ。お前からの話だから」
私から……と手に持つフォークを一度置き、顎に手を当てて考える。その間を俺は黙って見守る。
「まさか……ああああっ!!」
「気が付いたか」
「南地区の畑! 種無いのに買ったの!? 私だってまだ見つけてないんだよ」
「いや、種子あるから買ったんだよ」
「えっ……お兄ちゃん種子あるんだ。どこで手に入れたの?」
「普通に、こうやって、えいっ……て」
そう、こうやって、ぴかっと光るんですよ。スキル使うと、ね。
まあ、これで分かったら凄いよね。
「……種子を作るセンスを見つけたの?」
分かるようだよね。何だろう、兄妹間の以心伝心みたいな?
「人に言いふらしたり、掲示板に情報乗せるなよ」
「言わない言わない!」
「じゃあ、教える」
「ありがとね。お兄ちゃん」
何とも現金な妹だな。全く。
「錬金センスのスキルで作るんだ」
「えっ……錬金センスってレベルを上げるとそんなスキルを覚えるの?」
「いや、下位の物質変換。植物系のアイテムには、最下層に種子。その上にそれの植物が連なる」
「つまり……薬草から作ったんだ。ってことは……」
「ハイポとMPポーションの原料買って、栽培。錬金センスで種子増やして、畑一杯に栽培。出来たアイテムを調合センスでポーションにして売る」
「おおおおお、お兄ちゃん! ハイポとMPポーションとか作れるの!?」
「なんだよ。そんなに驚いて」
「驚かないわけないじゃない! プレイヤーの作ったアイテムの方が効果高いのは当たり前だよ。NPCのポーションよりも高いんだよ。狩り効率とか考えると、効率の高いポーションは必要だよ!」
俺ソロだし、ダメージ喰らう前に倒すか、接近されて死ぬんだよね俺。その一般的な狩りってタクたち以外は味わってないし。
「今、ハイポとMPポーションの原料を栽培中。その繋ぎとして、ブルポを売って稼いでる」
「ブルポ作れるって事は、調合センス結構高くなったんだね。最近、高級ブルポって出回ってるんだけど、それってHPの少ない後衛職にはちょうど良いんだよ」
高級ブルポ? 謎のブルポ売りの次は、高級と来たか。
「高級ブルポ、かは知らないけど、原料安いから仕入れて委託で売ってたけど、畑もできたしハイポに切り替える予定」
「お兄ちゃん! 最高のメンバーをセッティングするよ! 明日、みんなに話をつけるから明後日ね! 明後日一緒に、ブレードリザードを狩りに行こう!」
「お、おう。俺も装備とか、色々整えるから。そうしてくれると助かる」
なんか、引き受けてもらえた。良かったけど、なんか美羽が無性にやる気になっている所が不安だ。
「明日は、俺も準備とかして、明後日な。俺は何時でも良いからそっちの都合の良い時間で頼む」
「任せて! 安全、安心の旅を私たちが提供するよ!」
いや、俺も弓のレベル上げとかしたいから手伝わせてくれよ。
「うーん。分かった!」
凄く不安になってくる。パーティーの人にも物凄い迷惑かけてそうだな。パーティーのメンバーに差し入れと言うか、詫びのアイテム渡しておいた方が良いかな? 今回のボスMOB攻略と護衛の報酬とお店の宣伝も兼ねて渡すか。