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- by ライブドアニュース編集部
「バナナの皮を顔に塗りたくることで、肌の角質を取り除き、しわを減らすことができる」
「バナナの皮があればボトックスの代わりになる」
このような美容法が海外のTikTokを中心に拡散、日本語で紹介する動画もあり、SNSを中心に盛り上がりを見せた。
ボトックスとは、ボツリヌス菌を利用した医療用医薬品で、美容医療の世界ではシワ改善の注射などに使用されるもの。注射する部位や目的などによって値段は変動するが、国内の美容クリニックで施術を受ける場合、1回で数千円から数万円程度かかるのが通常だ。
お金のかかる美容法が、数十円から数百円程度で購入できるバナナの、しかもゴミとなり捨てられる皮で代用できるとなれば夢のような話だが、現実はそんなに甘くないようだ。
「アレルギー引き起こす可能性」大衆紙である英デイリーメールや米ニューヨークポストでは、バナナの皮を使った美容法の効果を疑問視する、複数の専門家の声を紹介。
専門家らはバナナの皮に抗菌成分が含まれていることは認めつつ、「肌に与える影響は局所的」「しわ、くま、炎症に役立つことを示唆する科学的証拠はない」「(市販の)スキンケア製品を顔に塗る方がはるかに良い」と述べたという。
日本でもメディア出演やSNSなどで情報発信をしているはなふさ皮膚科の花房火月(ひづき)医師も自身のSNSやYouTubeに投稿した動画で、次のように解説している。
「これは大変いけない行為。バナナは体に良いとは思いますが、皮を肌に塗りたくるのは非常に良くない。経皮感作と言い、バナナに関するアレルギーを持つ可能性がある」(花房医師)
動画ではバナナアレルギーを発症することで、ゴムやラテックスのアレルギーも引き起こすことが多いと指摘。
ゴム製品が使えなくなったり、手術の際に医師の手術用ゴム手袋でアナフィラキシーショックを起こしたりする恐れがあると警鐘を鳴らしている。
また花房医師は、弁護士JPニュース編集部の取材に対し、「バナナの皮に含まれる糖分は、浸透圧の関係で水分を皮膚から奪うため、乾燥肌が悪化してしまう可能性もある」と説明した。
法的責任が生じ得るケースも健康に悪影響を及ぼす恐れがある“美容法”を、SNS上で投稿・拡散した場合、投稿者や拡散した人に何らかの法的な責任は生じないのだろうか。
IT法務に詳しい遠山怜央弁護士は「インターネット上で“怪しい美容法”を発信・拡散した場合、シチュエーションによって異なりますが、法的問題が生じる場合があります」として、次のように解説した。
「たとえば、バナナの皮を肌に塗る美容法が話題になっていることに便乗して、企業などがその危険性を十分に説明せず、医学的に効果のない商品を広告した場合、『優良誤認』『誇大広告』として景品表示法違反や薬機法違反、特定商取引法違反などに該当する可能性があるでしょう」
さらに、その商品を購入した人に健康被害が生じた場合などは、民法上の債務不履行責任や、不法行為責任を追及されることも考えられるという。
「たとえば『○○さんも効果があると言っていた!』『あの有名な○○もおすすめしていた!』など、確実な資料等もなく第三者や特定の団体などを挙げて宣伝した場合、勝手に名前を挙げられた当事者は、美容法を試して健康被害を受けた人たちからの、あらぬ風評被害によって、信用が失墜する可能性があります。
その場合、悪意を持って宣伝をした拡散者が本人から、名誉毀損罪、信用毀損罪、偽計業務妨害罪などの責任追及を受けることがあり得ます」(遠山弁護士)
「最終的には自己責任」ただ、現実問題としては、SNSで紹介されている美容法を試した結果、身体に悪影響が残ったとしても、その美容法の投稿者や拡散した人を訴えることは難しいそうだ。
「いわゆる『バズ』を狙った怪しい美容法の投稿では、その情報を信じて実践した視聴者に健康被害が生じたとしても、視聴者が拡散者に対し法的責任を追及することは現実的ではないと言えるでしょう。
なぜならば、民法上の不法行為責任を追及するには、前提としてその行為が違法性を有していることや、その美容法を試した人に健康被害という損害が生じることについての故意・過失が必要だからです。
つまり、単に情報を拡散しただけでは、違法性が認められにくく、また、専門的知識を持たず、ただ情報を拡散しただけの人に『医学的根拠に基づかない美容法で、試した人に健康被害を与える』という故意・過失があったとは判断されにくいのではないでしょうか。
さらに、もし悪意を持って情報を拡散した場合であっても、それを立証するのは極めて困難ですし、視聴者が実際に試してみるかどうかは最終的には自己責任の世界ということになります」(遠山弁護士)
「発信元が専門家かどうかよく確認を」では、インターネット上にあふれる誤った美容法による健康被害を未然に防ぐためにはどうすれば良いのだろうか。
前出の花房医師は「SNSで出回っている美容法には、フェイク動画や、バスを狙った冗談半分の美容法も多いので、発信元が専門家かどうかよく確認してください」と注意を促す。
遠山弁護士も「自衛のスタンスが重要だ」として、次のように続ける。
「見かけた情報をすぐにうのみにせず、可能な範囲で、その美容法に関するいろいろな人の意見・データを確認してみたり、隠れた大きなリスクがないかを調べたりしてから、試すべきでしょう。
ただでさえ、誰もが気軽に情報を発信することができる現代ですから、そこに流れる情報には、美容法に限らず怪しいものもたくさんあります。
そういった情報の中から、自分にとって本当に有益なものを取捨選択する判断能力が求められる時代が来ているのではないでしょうか」(遠山弁護士)