2024年9月に発売がスタートしたLunar LakeことIntelの最新モバイル向けSoC「Core Ultra 200Vシリーズ」。CPU、GPU、NPUとも前世代のMeteor Lakeこと初代Core Ultraよりも強化され、ゲームにもAIにも強いと汎用力を増しているのが大きな強みだ。その一方でMeteor Lake世代のノートPCは価格が下がってお買い得感が高まっている。ここでは、Lunar LakeとMeteor Lakeの性能、消費電力、発熱の差をチェックしていく。ノートPC選びの参考になるはずだ。

  • マウスコンピューターのビジネス向けノートPC「Mouse Pro」から同じボディでLunar LakeとMeteor Lakeを搭載するモデルをそれぞれ用意した

    マウスコンピューターのビジネス向けノートPC「Mouse Pro」から同じボディでLunar LakeとMeteor Lakeを搭載するモデルをそれぞれ用意した

Lunar LakeとMeteor Lakeの特徴をおさらい

まずは、Lunar LakeとMeteor Lakeの特徴についておさらいしておこう。Lunar LakeはCore Ultraシリーズ2やCore Ultra 200Vシリーズとも呼ばれ、性能重視のPコア(Lion Cove)×4と効率重視のEコア(Skymont)×4という構成のCPU(シリーズすべて共通)、Microsoft「Copilot+ PC」の要件を満たす最大48TOPSのNPU、最新のXe2アーキテクチャを採用するGPUを組み合わせたSoCだ。SoCにメインメモリも統合することでメモリの高速化も実現しているが、後から追加できないのはデメリットと言える。

今回取り上げる「Core Ultra 7 258V」は、LPDDR5X-8533の高速メモリを32GB搭載。GPUにはXe2コアを8基搭載するArc 140Vを採用している。TDP 17Wと低消費電力ながら、多くのゲームをプレイできる性能を持っているのは大きな強みだ。

  • Core Ultra 7 258V。8コア8スレッドでメモリはLPDDR5X-8533が32GBに固定される

  • GPUとしてXe2コアが8基のArc 140Vが内蔵されている

前世代のMeteor LakeはCore Ultraシリーズ1とも呼ばれ、Pコア(Redwood Cove)、Eコア(Crestmont)、さらに省電力のLP Eコアで構成されるCPU、最大11TOPSのNPU、XeアーキテクチャのGPUを組み合わせたSoC。ハイエンド向けのHシリーズ、省電力向けのUシリーズがあり、Lunar Lakeとは異なりメモリは統合されていない。

今回取り上げる「Core Ultra 7 155U」は、LPDDR5X-7467またはDDR5-5600に対応。Pコア2基、Eコア8基、LP Eコア2基で合計12コア14スレッドでコア数だけを見ればCore Ultra 7 258Vを上回る。TDP 15Wと省電力だ。内蔵GPUはXeコアを4基搭載するIntel Graphicsが採用されている。

  • Core Ultra 7 155U。12コア14スレッドでコア数は多いが性能重視のPコアはこのうち2基だけ

  • GPUはXeコアが4基のIntel Graphicsを内蔵する

それぞれのスペックは以下にまとめた。単純なコア数はCore Ultra 7 155Uが上だが、性能重視のPコアの数はCore Ultra 7 258Vが多いという点がポイント。また、NPU、GPUとも世代が違うのでその性能差にも注目してほしい。

CPU Core Ultra 7 258V Core Ultra 7 155U
製造プロセス TSMC N3B Intel 4
コア数(P/E/LP E) 4/4/- 2/8/2
スレッド数 8 14
Pコアクロック(定格/最大) 2.2/4.8GHz 1.7/4.8GHz
Eコアクロック(定格/最大) 2.2/3.7GHz 1.2GHz/3.8GHz
LP Eコアクロック(定格/最大) 700MHz/2.1GHz
3次キャッシュ 12MB 12MB
対応メモリ LPDDR5X-8533(CPUに搭載) DDR5-5600/LPDDR5X-7467
NPU 第4世代(47TOPS) 第3世代(11TOPS)
TDP 17W 15W
内蔵GPU Arc 140V(8Xe) Intel Graphics(4Xe)

マウスコンピューターの14型軽量薄型ノートで比較

使用するノートPCを紹介しよう。Core Ultra 7 258Vは「MousePro G4-I7U01BK-E」だ。価格は239,800円から。Core Ultra 7 155Uは「MousePro G4-I7U01BK-C」だ。現在は販売終了しており、ほぼ同スペックの後継機「MousePro G4-I7U01BK-D」が販売されている。こちらは209,880円からだ。

それぞれの基本スペックは以下の通りだ。

モデル MousePro G4-I7U01BK-E MousePro G4-I7U01BK-C
CPU Intel Core Ultra 7 258V Core Ultra 7 155U
メモリ LPDDR5X-8533 32GB DDR5-4800 16GB
GPU Arc 140V Intel Graphics
SSD 500GB(NVMe SSD) 256GB(NVMe SSD)
OS Windows 11 Pro Windows 11 Pro
ディスプレイ 14型(1,920×1,200ドット) 14型(1,920×1,200ドット)
サイズ(幅×奥行き×高さ) 314×224×18.3mm 314×224×18.3mm
重量 約949g 約969g
直販価格 23万9,800円から 20万9,880円から(発売時)

ポイントはどちらもベースとなる筐体は同じであること。それで価格差は約3万円。どちらが自分の目的や予算に合っているのか比較するにはピッタリと言える。

  • MousePro G4-I7U01BK-E(右)、MousePro G4-I7U01BK-C(左)とも見た目は同じ

  • ビジネス向けらしく黒基調のシンプルなデザインだ

  • キーボードはクセのない日本語配列

  • ディスプレイはどちらも14型で解像度はWUXGA(1,920×1,200ドット)

  • ディスプレイは180度開く

  • インターフェースは右側面がmicroSDカードスロット、USB 3.2 Gen 1、ヘッドセット端子

  • 左側面がThunderbolt 4、HDMI出力、USB 3.2 Gen 2 Type-Cだ。LTE(nano SIM)はBTOにて選択が可能となっている

  • MousePro G4-I7U01BK-Eは筆者の実測で944g

  • MousePro G4-I7U01BK-Cは筆者の実測で957g

Lunar Lake 対 Meteor Lake 性能ベンチマークテスト

ここからは性能比較に移ろう。シンプルにCPUパワーを見るためCGレンダリングを実行する「Cinebench 2024」とアプリの性能を見るため、Webブラウザ、ビデオ会議、表計算などさまざまなアプリをシミュレートする「PCMark 10」のスコアを見てみよう。

  • Cinebench 2024

  • PCMark 10

Cinebench 2024は全コアに負荷がかかるMulti Coreもコア単体のSingle CoreもCore Ultra 7 258Vが上回った。コア数ではCore Ultra 7 155Uが上回るが、Core Ultra 7 258VのほうがPコアが多く、性能の底上げが行われているのも効いている。それはSingle Coreのスコア差からも明らかだ。PCMark 10はオフィス系処理のProductivityではコア数が効いたのかCore Ultra 7 155Uのスコアが高いが、それ以外はCore Ultra 7 258Vが上回った。特にクリエイティブ系のDigital Content Creationは差が大きい。クリエイティブワークも考えているなら、Core Ultra 7 258Vのほうが快適に処理が可能だ。

ゲーミング性能はどうだろうか。Core Ultra 7 258Vは最新世代のXe2コアが8基、Core Ultra 7 155Uは前世代のXeコアが4基とスペック上の差はかなり大きい。まずは、定番の3DMarkから見ていこう。

  • 3DMark

DirectX 11ベースのFire Strikeで約1.8倍、DirectX 12ベースのSteel Nomad Ligthで約2倍もCore Ultra 7 258Vが上回った。CPU以上にGPUの性能差は大きいと言える。

実ゲームではどうか。ここでは、定番FPSの「Apes Legends」、格闘ゲームの「ストリートファイター6」、オープンワールドゲームの「サイバーパンク2077」を用意した。Apes Legendsは、射撃訓練場の一定コースを移動した際のフレームレート、ストリートファイター6はCPU同士の対戦を60秒間実行した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で計測。サイバーパンク2077はゲーム内のベンチマーク機能を利用した。

  • Apes Legends

  • ストリートファイター6

  • サイバーパンク2077

どのゲームもフルHD解像度かつ最低レベルの画質設定だが、Core Ultra 7 258Vなら快適にプレイできる目安である平均60fpsをクリア。ストリートファイター6は対戦時だと最大60fpsなので、ほとんどのシーンで最大フレームレートが出ていると言ってよい。サイバーパンク2077は、アップスケーラーとフレーム生成を組み合わせた描画負荷軽減技術のFSR 3を有効にしているとは言え、重量級と呼ばれるゲームも遊べるのはうれしいところだ。ビジネス向けのノートでもゲームをプレイできるというのは、非常に大きな強み。その一方で、Core Ultra 7 155Uはどれも快適に遊ぶには厳しいフレームレートしか出ていない。GPU性能には大きな差があるのが分かる。

AI性能もチェックしてみよう。様々なAI推論エンジンを実行してスコアを出す「Procyon AI Computer Vision Benchmark」を使用する。テストはすべてOpenVINO(integer)に設定、CPU、GPU、NPUのそれぞれで実行した。

  • AI性能

Core Ultra 7 155Uに対して、とくにGPU、NPUが強化されているだけあって、スコアに大きな差が出ている。現在のAI処理はGPUが使われることが多く、今後NPU対応するアプリが増えることが予想されているだけに、AIの活用を考えているならCore Ultra 7 258Vを選んだほうがよいだろう。

エンコード性能はどうだろうか。どちらの内蔵GPUにはH.264/H.265/AV1のハードウェアエンコードに対応したQSV(Quick Sync Video)が搭載されている。ここでは、エンコードアプリの「HandBrake」を使って、約3分の4K動画をH.265のフルHD解像度にQSVを使って変換するのにかかる時間を測定した。

  • エンコード性能

どちらも爆速と言ってよい。Arcのハードウェアエンコードは高速であることは知られているが、Core Ultra 7 155Uでも十分な性能と言える。動画エンコードについては大きな差は出なかった。

  • システム全体の消費電力

Core Ultra 7 258Vのほうが低消費電力となった。Multi CoreのスコアがCore Ultra 7 155Uよりも約1.37倍も上であることを考えると、電力効率はかなり高いと言ってよいだろう。

今回のノートPCのように薄型軽量だと発熱も気になるところ。Cinebench 2024のMulti Coreを10分間連続で動作させた直後の温度をサーモグラフィーで確認した。

  • Core Ultra 7 258Vを搭載するMousePro G4-I7U01BK-Eは温度の高い右上で45.4℃、中央部は30.9℃だった

  • Core Ultra 7 155Uを搭載するMousePro G4-I7U01BK-Cは右上で41.4℃、中央部で31.2℃だった

サーモグラフィーを見るとCore Ultra 7 258Vのほうが温度の高い場所がちょっと広く、最大温度の高くなった。とは言え、実際に触ってもほんのり温かいレベル。どちらも中央部はまったく熱くなっておらず、負荷がかかった状況でも操作に影響を与えることはないだろう。ヒザの上でも安心して使用できる。

ここまでが、Core Ultra 7 258VとCore Ultra 7 155Uの比較だ。Core Ultra 7 155Uでもオフィスワークなら十分快適な性能を持っている。しかし、Core Ultra 7 258Vならそこに高速なAI処理性能、多くのゲームを遊べるGPUパワーが加わり、ノートPCの汎用性をより高めることができる。価格はもちろん前世代のCore Ultra 7 155Uを搭載するノートPCのほうが全体的に安い。今回の比較を見て、自分の予算と目的にマッチしたものを選んだほしい。