「ノクリア」シリーズのエアコンなど、空調機器を手がける富士通ゼネラルが「ウェアラブルエアコン」というネックバンドスタイルのデバイスを発売しています。昨年12月に発表、予約販売を開始した最新モデルのプレス向け体験会が開催されました。
強力に冷えるネックバンドスタイルのウェアラブルエアコン
富士通ゼネラルは、2020年から「Comodo gear」(コモドギア)というネックバンドスタイルのウェアラブルエアコンを展開しています。おもに、工場・建設現場向けの暑熱対策を目的とした業務用のデジタルデバイスとして位置付けられています。
コモドギアには、ペルチェ素子という半導体部品が内蔵されています。半導体素子に電流を流すと、素子の片面が冷却されて、もう片方の面が発熱します。コモドギアは、このペルチェ効果という半導体の特性を活かして、首もとに装着したデバイスで冷感・温感を得ることができます。
ペルチェ素子から効率よく冷却効果を得るためには、発熱している片側を効率よく冷やすことが肝要です。コモドギアは、屋外・屋内の暑い環境で働くプロフェッショナルのため、気温40度を超える過酷な環境でも一貫して冷感が持続するパフォーマンスを目指してきました。筆者は、富士通ゼネラルが2023年に発売した「Comodo gear i3」を「猛暑の現場でもよく冷える! ウェアラブルエアコンCómodo gear i3の進化」でレポートしていますので、シリーズの特徴を知るために合わせてご覧ください。
新しいウェアラブルエアコンは、コモドギアシリーズの開発によって得られた知見をベースに進化を遂げました。正式な名称がまだ決まっていませんが、富士通ゼネラルの公式オンラインショップではすでに予約販売がスタートしています。
コモドギアシリーズは、最も新しいモデルであるComodo gear i3が月額10,000円(税別)のレンタルサービスで提供されています。さらに、レンタル後に残価での購入もオプションとして選ぶこともできます。
最新のウェアラブルエアコンは“買い切り”による販売形態に統一されました。価格は60,000円(税別)です。富士通ゼネラルのグループ企業である富士通ゼネラルエレクトロニクスが岩手県に構える工場では、最短3月21日の納期を目指して生産が進められています。
本体を大きく軽量化、装着スタイルもシンプルに
新しいウェアラブルエアコンは、Comodo gear i3をベースに進化しています。大きく変わった点のひとつは、別筐体としていたラジエーター(水冷式熱交換器)をネックバンド部に一体化し、小型軽量化を図りました。それでもなおバッテリーパックが別筐体になるため、間をつなぐケーブルをうまく取り回しながら身に着ける装着スタイルは変わらないのですが、全体の質量はi3の約810gから、新型ウェアラブルエアコンは約650gになりました。使用開始時に素速く装着できて、装いあわせの自由度も高くなっています。
コモドギアシリーズは、外部温度に対して最大マイナス20度の冷却パワーを誇るウェアラブルエアコンです。電源を入れて冷却モードによる運転を開始してから、マイナス20度に到達するのにかかる時間が約30秒になりました。富士通ゼネラルは、前モデル(Comodo gear i3)よりも「約3倍速いスピード冷却」が実現できたことを強調しています。
プレス向け体験会は、神奈川県川崎市の富士通ゼネラル本社で開催されました。最新ウェアラブルエアコンの冷却効果は本社内の実験設備である「AE(Advanced Engineering) Lab」で、室温を35度に設定した“暑い部屋”で体験しました。
じっとしているだけで汗ばむほどに暑い実験室の不快感を、富士通ゼネラルのウェアラブルエアコンはすっきりと解消してくれます。冷却・暖房の運転モードはLOW/MEDIUM/HIGHの3段階から選べます。“暑い”だけの実験室であれば、MEDIUMで不快感をしのげました。湿気もまとわりついてくるリアルな夏本番にもぜひ試してみたいところです。
ウェアラブルエアコンは、3点のペルチェ素子を内蔵するプレートを首の後方と左右に当てて効果を得るデバイスです。肌に直接当てて使うことによって期待する効果が得られます。冷たさ・熱さの感じ方は個人により異なると思うので、あくまで参考になりますが、冷却と暖房の「HIGH」モードは筆者にはちょっと強めに感じられました。
ハードとソフトの両面から徹底的に改良した
Comodo gearシリーズからウェアラブルエアコンを担当する富士通ゼネラルの佐藤龍之介氏は、体験会に集まった記者に向けて最新モデルの開発ヒストリーを語りました。
新しいウェアラブルエアコンは、別筐体のラジエーターをひとまとめにしたことで装着時の負担が大幅に軽減された手応えがあります。佐藤氏は「ラジエーターを省略して全体をコンパクトにしたぶん、冷却性能が落ちないようにバランスを取ることに腐心した」と振り返りました。目指す性能と小型軽量化を両立させるため、ユニットを何度も試作しながら、熱の偏り分布や冷却の広がりを検証したそうです。
ペルチェ素子をただ長時間続けて冷やすだけでは、身体が冷たさに「慣れてしまう」ため、ウェアラブルエアコンの真価が発揮されません。従来のコモドギアシリーズでは、内蔵するセンサーでユーザーの皮膚温度を計測しながら、ペルチェ素子の冷却温度を一定の周期でアップダウンさせる“ゆらぎ”を付ける機能を設けました。
ただ、一方ではこのゆらぎ効果が、時としてペルチェ素子の温度が上がる段階で不快感(=生あたたかさ)を感じさせてしまうことが、ユーザーから寄せられる声で分かったそうです。そこで、新しいウェアラブルエアコンでは、冷却効果を制御するソフトウェアを改善。冷却効果のアップダウンを「ゆっくりと上下する」ように見直しました。今回、筆者が実機を体験した時間は短かかったので、新しい抑揚コントロールの効果は分かりませんでした。機会があれば、夏にまた体験してみたいです。
新しいウェアラブルエアコンの本体は、ウェアラブルデバイスに精通する社外のデザイナーにも見解を求めながら、人体の構造に基づくエルゴノミックなデザインに仕上げています。首まわりのサイズは300mm(女性Sサイズ)から460mm(男性XLサイズ)まで広くカバーします。
ネックバンドの前側がぶらつかないよう、マジックテープで固定する仕様としています。コモドギアシリーズは、スナップボタンで留める仕様でした。筆者は、簡単に着脱できるマジックテープ仕様が快適でしたが、作業用の手袋を着けて建設現場や工場で働くプロフェッショナルがこれをどう評価するのか気になりました。
ウェアラブルエアコンにますます注力する
富士通ゼネラルの新しいウェアラブルエアコンはどんなユーザーにふさわしいデバイスなのでしょうか?
これは筆者の私見ですが、バッテリーパックがケーブル付きの別筐体になっていることを考えると、薄着になる夏場に一般のコンシューマーが「街歩き」の際に使うウェアラブルエアコンとしては若干持て余すかもしれません。
富士通ゼネラルとしては、本機も「法人向けが原則のウェアラブルエアコン」であるとしています。同社の公式オンラインショップなどでは、購入を希望する人に対して建設・製造の現場でウェアラブルエアコンの利用を想定するプロフェッショナルであるかを事前にヒアリングしてから販売するそうです。同様の事業に携わる個人事業主の方でも買うことはできますが、購入申し込みの際にいわゆる屋号の有無なども聞かれる場合があります。
体験会には、富士通ゼネラルの取締役 経営執行役副社長である長谷川忠氏が出席し、同社が今後もウェルビーイング事業の中でウェアラブルエアコンの開発と商品化にいっそう力を入れる考えであると語りました。
長谷川氏はまた、コモドギアシリーズをはじめとするウェアラブルエアコンに注力しながら、2027年以降の本格始動を見据えて「新しい付加価値ビジネスの創出」にも力を入れる同社の戦略を改めて伝えました。気候変動による影響が世界のそこかしこで顕在化するなか、この地球規模の社会課題を解決するさまざまな方策が富士通ゼネラルから発信されることを期待しましょう。