航空機の表面に微細な溝を付ける塗装をし、空気抵抗を減らして燃費を改善する実験を、日本航空と宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが進めている。国内線に続いてこのほど、国際線での実験を開始。この溝はサメの皮膚にヒントを得た「リブレット」構造で、生物の体を模倣してものづくりに役立てる「バイオミメティクス」の一例といえる。燃料消費や二酸化炭素(CO2)排出の削減が目的。リブレットのフィルムを貼る方法が欧州で開発されたのに対し、塗装は耐久性などでメリットが期待できるという。
「サメ肌」といわれるように、サメの皮膚には細かい溝があってザラザラしている。この溝は皮膚表面付近の乱流の渦を抑え、流体(水や空気)の摩擦抵抗を低減させる。サメはこの構造のおかげで、エネルギーを節約して速く泳げる。この性質に着目し、真似たものがリブレット構造で、競泳水着などに活用されている。
日航とJAXAは塗料販売大手のオーウエル(大阪市)と共に、航空機が受ける抵抗を減らすため、リブレットを塗装で機体の表面に取り付ける研究を進めてきた。水溶性の型で塗膜に直接リブレット構造を作る方法で、オーウエルとJAXAが特許を持つ。溝は幅が約0.1ミリで、表面摩擦抵抗を約5%低減できる。JAXAの担当者によると、フィルムによるリブレットではフィルムの重さや、耐久性の制約がある。塗膜ならば航空機の重さがほとんど変わらず、大幅な改修が不要。塗料と同じ8~9年の耐久性が見込めるという。
日航は国内線で使われるボーイング737-800型機で、2022年7月から耐久性を検証した。23年11月からは塗膜の面積を拡大し、燃費に与える効果を調べた。さらにJAXAが、国際線に使用するボーイング787-9型機で効果があるどうかを、風洞試験や数値解析で確認。オーウエルも機体の大型化に対応できる塗膜システムを開発した。これらを受け、787-9型機の胴体の約30%に施工し、長距離飛行による検証に踏み切ることにした。燃費改善効果や耐久性、美観を調べていく。
この機体を成田―フランクフルト線で標準的に運用した場合、巡航時の抵抗を0.24%低減し、年間約119トンの燃料消費と約381トンのCO2排出の削減が期待できるという。
JAXA航空技術部門航空環境適合イノベーションハブの郭東潤ハブマネージャは会見で「今回は30%だが、さらに施工面積を増やし、適用する機体も増やしていきたい。技術的な支援をしていく」と説明した。
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