薄給だが、職場環境が良いので転職するべきか迷う【転職相談室】
現職では人間関係に恵まれ職場環境への不満はないものの、薄給なことだけが悩みだというTさん。
転職で収入アップを目指す方法や、現職に対する分析を基に転職条件を優先順位付する方法を現組織人事コンサルタントの粟野友樹さんがお答えします。
残業もほとんどなく人間関係も良好。薄給なことだけが悩みです(Tさん/27歳/メーカー勤務)
東京都内の中小規模のメーカーで働いて5年になります。職場環境はとてもよく、上司や同僚にも恵まれていますが、同世代の友人たちに比べると給与が安いことが気になっています。
実家暮らしなので現時点では、まだ生活には困っていませんが、結婚や子育てなどのライフイベントを考えると、将来のことが心配です。
働きやすいので、自分では自社のことをホワイト企業だと思っていますが、職場環境が良くても、薄給の場合は転職を考えたほうが良いですか?
薄給をどう捉えるか
アドバイザー
現職では職場環境や人間関係、仕事内容に不満はないけれど、給与が安いことが将来を見据えると不安ということですね。
相談者
はい。ほとんど定時で帰宅でき、繁忙期でも月20時間程度の残業で、残業代もしっかりでます。上司や同僚は温厚な人が多く、何か仕事で困ったことがあっても周囲に相談をしやすく、一緒に乗り越えてくれるような社風なので、本当に働きやすいのです。
ただ、同年代に比べると薄給な気がして…。実際のところはどうなんでしょう?
アドバイザー
「薄給」というと、少ない給与のことを指しますが、実はこれには明確な基準がありません。月給いくらからが薄給だとは言えないので、参考までにTさんと同年代の日本人の平均賃金を見てみましょう。
例えば、厚生労働省が調べた「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、令和2年の25-29歳男性の月間の平均賃金は、大企業で26万6600円、中規模企業で24万8200円、小規模企業で23万6700円とされています。
相談者
えっ、大企業でも月間の平均賃金は26万円台なんですか。正直、もっともらっているんじゃないかと思っていました。思っていた以上に自分との差が少なくてびっくりしています。
アドバイザー
他にも参考になりそうな賃金データとしては、最低賃金という考え方もあります。厚生労働省の最低賃金確認サイトによると、東京都の最低賃金は1041円(2022年6月現在)です。
相談者
なるほど。私の場合、給与を時給換算してみると最低賃金は上回っていそうです。
アドバイザー
これらの情報はあくまで参考なので、これをもとにTさんが薄給であるとも、薄給ではないとも言えませんが、給与について考える材料の1つにはなるかもしれませんね。
相談者
なんだかこうしてデータを見ていると、「薄給」というほど酷い状況ではないような気もしてきました。感覚的には、もう少し給与は高い方が嬉しいのですが…僕がワガママだったんでしょうか。
アドバイザー
ワガママということはありませんよ。今回紹介したこれらの数値は、あくまでデータでしかありません。給与額の捉え方や額面に対する満足度というのは、どこを比較対象とし、どのような生活を送るのかによっても変わると思います。
Tさんの場合、同世代のご友人と比べて少ないと感じているとのことでしたよね。
相談者
そうですね。同じ大学、同じ学部を卒業しているのに、自分よりも月収や年収の高い友人が多く、年収にして100万円以上の差がついていることもあります。転職すれば少しでもこの差は縮まるのかな…と思ったのですが、一般的に転職するとどのくらいの収入アップが見込めるのでしょうか?
転職で収入アップを目指す場合
アドバイザー
転職によって、どのくらい収入アップするかは、人によって様々ですね。中には収入は下がってもいいので、働きやすさを求めたいという人もいます。
もちろん、収入アップを実現する人もいますよ。転職サービス「リクルートエージェント」が調査した転職時の賃金変動状況によると、「前職と比べ賃金が 1 割以上増加した転職決定者数の割合」は 32.6%だったそうです。
相談者
なるほど。転職すれば、50〜100万円くらいドーンと年収アップするかと思っていたのですが、簡単ではないんですね。
アドバイザー
もちろんそういった事例もありますよ。収入アップが叶いやすい業界・職種・企業に注目して転職活動を行う人もいます。
相談者
えっ、そうなんですね。それはどういった業界や企業なんですか?
アドバイザー
あくまで一例ですが、以下のような企業が挙げられます。
- 大手商社・コンサルティング・金融など基本の給与水準が高い業界
- 不動産業界・保険業界の営業職などインセンティブで高収入を狙える職種
- 規模が大きい企業や業界内の市場シェアが高く給与水準が高い企業
- 専門性の高い事業を手がけていたり、競合の少ない市場に参入していたりなど、高収益を生み出している企業など
相談者
なるほど。これはこれで転職ハードルが高そうですね。
アドバイザー
企業との相性もありますが、内定を得ることも簡単ではないですし、入社後も一定の成果を求められることも多いでしょう。
個人的には年収だけにこだわりすぎず、仕事面や働く環境へも目を向けて優先順位をつけて、自分に本当にマッチする転職先を探すことオススメしたいですね。
給与と職場環境。どちらを優先するか
相談者
ちなみに、最初に伝えた通り現職の職場環境がとても良くて捨て難いのですが、こういった場合はどう考えれば良いんでしょうか。転職して給与アップを目指すか、現職のホワイトな職場環境を優先するか迷ってしまいます。
アドバイザー
転職活動において優先順位付で迷った場合には、二者択一ではなく、「4つの観点」で考えてみると良いですよ。
人が企業に期待する項目を「目的への共感」、「活動内容の魅力」、「構成員の魅力」、「特権への魅力」の、大きく4つに分けて整理するやり方があるんです。
相談者
具体的にどんな風に考えていけば良いのでしょうか?
アドバイザー
まずは、これまでの自分の仕事を振り返ってみて、どんなことに充実感、満足感を得ていたか、そしてそれは何に起因しているものなのかを考えてみてください。その上で、現在の仕事に以下の4つの項目ごとに点数をつけます。各項目の配点は何点でも構いません。
- 目的への共感:企業理念に共感できたり、ビジョンにワクワクしたりする
- 活動内容の魅力:扱う商品が好きである、仕事内容が魅力的である
- 構成員の魅力:風通しの良い社風である、優秀な社員が多い
- 特権の魅力:給与や福利厚生、勤務場所、評価、教育制度など
相談者
給与は単体ではなくて「特権への魅力」として、他の項目とも合わせて考えるんですね。私の場合は現職を各項目5点満点で考えると、「目的への共感」は3点、「活動内容の魅力」も3点で、「構成員の魅力」は5点、「特権の魅力」は2点かな。合計得点は13点ですね。
アドバイザー
では次に、転職後に目指したい状態を4つの項目ごとに点数をつけてみましょう。持ち点は、現在の仕事を評価した際の合計点の13点と変えないことがポイントです。この13点を優先度に応じて配分してみてください。
相談者
「構成員の魅力」はそのまま保ちたいので5点。給与などを含めた「特権の魅力」は今よりもあげたいですが、その分何の配点を下げるかが難しいですね。うーん…「目的への共感」も「活動内容の魅力」も働く上では大切ですし…合計点を変えないとなると…悩みます。
アドバイザー
そうですね。転職先には、給与も社風も、ビジョンもできるだけ高い理想を求めたくなりますが、「すべての項目が満点」という仕事はなかなかありません。
この表を作る作業によって、現在の仕事を振り返った上で転職後に実現したいことを明確にし、優先順位をつけることができるんですよ。
相談者
確かにそうですね。悩みますが、給与アップは目指したいので「構成員の魅力」を当初の理想から少し下げて4点に、他を全て3点にします。
アドバイザー
理想に対して現職は「構成員の魅力」が+1、その分「特権への魅力」が−1という結果ですね。Tさんの場合は、現状と理想の差異がほとんどないということになりますね。
相談者
本当ですね。相談前は、現職について漠然と働きやすい会社なんだよなーと感じているだけでしたが、こうして数値で評価をしてみると、本当に自分の希望に対してバランスが取れているんだなと感じました。
アドバイザー
今回のように理想との乖離が少ない場合には、転職先を急いで決めなくてもいいという利点があります。短期間で内定を得ることよりも、じっくりと転職活動を進めて自分にマッチする企業を探して納得できる道を探してみるのも良いと思います。
相談者
確かに、具体的に視覚化したことで「将来のために今すぐ転職しなきゃマズイかも」という気持ちや、闇雲に不安になる気持ちは減りましたね。
アドバイザー
それは良かったです。Tさんの場合は、求人情報を見たり、企業とのカジュアル面談や、転職した知人から実情を聞いてみたりといったところから始めてみるといいかもしれません。
こういった動きを通して、給与面以外にも、今は気が付いていない新たな希望が見えてくるかもしれません。
相談者
給与面以外の新たな希望…ですか?
アドバイザー
「こんな仕事をしてみたい!」というものが見つかるかもしれませんし、「今の会社だと10年後にしかできない仕事が、転職したら今すぐにできるんだ」という発見があるかもしれません。それに、心から共感するビジョンの会社に巡り会う可能性もあります。
相談者
なるほど。今すぐ転職する決意がなくても、転職活動自体は始めてみてもいいんですね。
アドバイザー
もちろんです。様々な企業を見ることで視野が広がり、現職への評価も変わるかもしれません。その時には再度、「4つの観点」での評価をやり直してみて、価値観や優先順位付のアップデートを行うと良いですよ。
相談者
わかりました。まずはアドバイスいただいた通り、求人情報を見たり、人に話を聞いてみたりすることから始めてみたいと思います。今日はありがとうございました。
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