2025/02/05 22:15
Helsinki Lambda Clubが、2025年1月29日(水)に〈「月刊エスケープ」release tour “冬将軍からのエスケープ”〉東京・恵比寿LIQUIDROOM公演を開催した。
「ヘルシンキラムダクラブです!よろしく!」橋本薫がそう言ったのは、1曲目の「引っ越し」が終わったところ。「冬将軍からのエスケープ」と題された全国ツアーのオープニングに選ばれたのは2018年発表のアルバム『Tourist』からの曲だった。海の底や火星に引っ越そうと唄うこの歌は、とてもメロウな味わいに満ちている。
そう、メロウネス。今夜のライヴは、そんな柔らかい空気感から入っていった。これには開演前のBGMにトム・トム・クラブやMGMT、ブラーにスティーヴ・レイシーといったアーティストたちの曲が流れていたこともあるし、以後の序盤に「テラー・トワイライト」「PIZZASHAKE」と、肩の力を抜いて楽しめるポップなナンバーが続いたのもある。とくに後者ではベースの稲葉航大が「最高ですね、みなさん! いい感じだね!」とフロアに語りかけ、そこからのベースソロの前には「稲葉! 稲葉!」と自分へのコールをリクエスト。いつも飾ることのない彼のキャラクターは、このツアーでも多くのファンを魅了したことだろう。そして「KIDS」をはさみ、今度は「THE FAKE ESCAPE」でまたもメロウな味わいに。まず目の前に現われたのは、ちょっとソフトで、やっぱりフレンドリーなヘルシンキだった。
「めちゃくちゃいいツアーを廻ってきて、今日も最高の夜にしたいと思っています。たくさん踊って、身体揺らして、大声出したりして帰ってください。よろしくお願いします」橋本がそう語ってからの「Yellow」はライヴの分岐点となった。グルーヴィーな演奏の間にハードな展開が含まれていたり、その轟音が激しく炸裂する瞬間もあったり。そんな中でも橋本の高い声は美しく響き、後半にはミニー・リパートンの名曲「ラヴィン・ユー」を思い起こさせるスキャットも一瞬だけ聴かせた。
ここからバンドは怒涛のパフォーマンスに突入していった。ファンキーなビートとともに転がっていく「真っ暗なドーナッツ」、そのエンディングからラウドなリフが疾走する「Golden Morning」と、まさにロック・バンドのダイナミクスをブチかましてくれたのである。と思ったら曲をつなげるように、今度は「キリコ」!熊谷太起のギターがサイケなうねりを爆発させ、その恍惚を岡田優佑(BROTHER SUN SISTER MOON)による4つ打ちのニュアンスを放つドラミングが加速させていく。ヘルシンキはこの数年のうちにタイのバンドたちと交流を続けたり、それ以前からもクルアンビンのようなサイケデリックな感覚を持つアーティストの音楽に傾倒したりしていて、この「キリコ」はそうした指向性が集約された作品のひとつだと言える。さらにこの曲のビートは「Happy Blue Monday」へと連なり、彼らが生み出すエクスタシーは色合いを少しずつ変えながらキープされていった。今までもこのように各曲をシームレスに演奏するアプローチはあったが、その有機性は本ツアーで最高値を記録したと思う。
ただ、そうしてサイケ沼にどっぷり浸るばかりじゃないのがこのバンドだ。次に披露されたのはポップなギター・ロックの「ミツビシ・マキアート」と「Skin」。ゆるやかに揺れていたフロアも、アップテンポの連続投下で一気に加熱! こうしてライヴの場をすぐさま一体感や熱気に染めてしまえるのもヘルシンキのサウンドの楽しさのひとつだ。「めちゃ楽しんでます、ありがとうございます。いい感じですか?」そしてその場がどんなに熱さを増しても、オーディエンスへの気配りを忘れない橋本薫という人のありよう。これもヘルシンキらしさだと思う。「次の曲は(気持ちを)ほぐしながら、リラックスして聴いてもらえたら、多幸感をより感じてもらえるんじゃないかと思います」
そうして始まった終盤は、まさに圧巻だった。リラックスするよう促されたのは、新作EP『月刊エスケープ』の最後の曲「My Alien」。どこまでも高く、どこまでも遠くへ行ってしまいそうなイメージを持つこのトリッピーなナンバーは、現在のヘルシンキの最もディープな部分を表現している。身も心もとろけそうで、最高。次の「収穫(りゃくだつ)のシーズン」も含め、彼らの音楽の多層的な快感度は今なお上昇傾向にある。これに続いたのは「すべての君に捧げます」とのMCのあとに入った「たまに君のことを思い出してしまうよな」。<痛み>や<優しさ>を唄った歌詞ともども、ポップでダンサブルなヘルシンキがひょいと顔を出す。
そして「また元気に会いましょう」と言ってからの本編ラストは「Be My Words」だった。やはりポップで、しかもまるで自分のすぐそばにいてくれるかのような、本当にナチュラルな歌。この最後のブロックは、近年の感覚をぎゅっと集約しつつ、現在のバンドの体温を示すようなパフォーマンスだった。見事だった。
アンコールで再登場した3人は、この日誕生日を迎えた熊谷のことを祝う。熊谷本人が「『おめでとう』みたいなことも違う感じになってきたよね。33(歳)とかになってくると」と言うと、橋本は「というか、だんだん年を追うごとに、次の歳の心構えしちゃってない?」、稲葉は「それ、めっちゃわかる」と相槌を打つ。いい雰囲気だ。その後には稲葉が煽ったあとに、7月5日にビルボードライブ東京でのライブが決まったことが発表され、場内は大きく沸いた。あのアダルトな空間でヘルシンキ! 果たしてどんな場になるのだろうか。アンコールはおなじみ「ロックンロール・プランクスター」、そして「古い曲を1曲やって帰ります」と告げての「シンセミア」。最後に再びメロウなヘルシンキへと戻り、この夜の宴は終わったのである。
文:青木優
写真:マスダレンゾ
2025年1月29日(水) 東京・恵比寿LIQUIDROOM
【SETLIST】
01 引っ越し
02 テラー・トワイライト
03 PIZZASHAKE
04 KIDS
05 THE FAKE ESCAPE
06 Yellow
07 真っ暗なドーナッツ
08 Golden Morning
09 キリコ
10 Happy Blue Monday
11 ミツビシ・マキアート
12 Skin
13 My Alien
14 収穫(りゃくだつ)のシーズン
15 たまに君のことを思い出してしまうよな
16 Be My Words
<encore>
01 ロックンロール・プランクスター
02 シンセミア
〈Helsinki Lambda Club 12th Anniversary Special Live Men on the Board~A Slow Burn Session~〉
2025年7月5日(土) Billboard Live東京
■チケット発売日
HELL sinki FiRE CLUBメンバー限定先行(ぴあ):2025年1月29日(水)21:30~2月5日(水)23:59まで
Club BBL会員・法人会員先行(Billboard Live):2025年2月14日(金)12:00~
イープラス特別先行(e+):2025年2月21日(金)12:00~
ゲストメンバー・一般発売(Billboard Live):2025年2月28日(金)12:00~
Billboard Liveオフィシャル・ウェブサイト:https://www.billboard-live.com/
X:https://x.com/helsinkilambda