※本稿は、安部敏樹『みんながんばってるのになんで世の中「問題だらけ」なの? 知識ゼロからの社会課題入門』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです。
以下は、安部さんと「おば」(架空のキャラクター)との会話の一部である。
ホームレスは「戦地の最前線で戦う兵士」
【おば】でも、路上生活になる「手前」でどうにかできなかったの? もっとがんばれなかったの? とも思っちゃう。ホームレスの実態はわかってきたんだけど、それでもやっぱり自分はホームレスになると思えないし、心理的な距離は縮まらないんだよなあ。
【安部】家族をはじめ「資産」がある人は簡単にホームレスになることはないよ。イメージがわくように、じゃあ……戦争の例で話しましょっか。
【おば】戦争? 物騒だな。
【安部】たとえなんで。考えてみてよ。戦地の最前線で戦う兵士と、戦地から離れた後方支援部隊にいる兵士とでは、明らかに戦死する確率は違うじゃない?
【おば】そりゃあそうでしょうよ。銃弾が飛び交っている場所と、そうじゃない場所では命の危険度が違いすぎるわよ。
【安部】後方支援部隊でかつ、物資の補給・輸送・管理システムである兵站にも恵まれていて支援もしっかり受けている兵士が、最前線で命からがら戦っている兵士に「努力が足りない」って言うのは違うでしょ?
【おば】それはずいぶんお門違いな発言ね。
【安部】ホームレスは、いわばこの最前線の兵士なんですよ。確率論だからもちろん運が味方してがんばれる人もいるっちゃいる。でも生まれたときからいきなり最前線の厳しい環境に置かれちゃったようなもの。
なまけているのではなく、厳しい状況に置かれている
【おば】たしかにさっき聞いたような家庭環境は、戦地で言えば命の危険性が一番高い最前線よね。
【安部】ホームレスって、なまけている人ではなく、厳しい状況に置かれた人なんだよね。
【おば】なるほどねえ。
【安部】ここまで話してきた「資産」っていうのは、戦場で言えば兵站で、武器や装備なわけ。それさえあれば、生き残れる確率がぐっと上がる。戦いでは最前線にいる兵士に敬意を持って援助物資を送るじゃない? でも現実には、最前線にいる人に武器や装備を送ることなく、突き放している。
【おば】それは戦えないどころか、生きていけない。
【安部】そうなのよ。ただ、ぱっと見た感じ「資産」の有無なんてわからないんで、「なんであいつはがんばれないんだ?」って思われちゃう。そもそもの前提条件が違うのに。