東京で唯一!ウズベク料理店で味わう串焼き盛り合わせとユーラシア料理の真髄【東京エス肉めぐり第6回】

家では自炊ベジタリアン、外食は肉、というスタイルを貫くエスニック料理の研究家であるサラーム海上さんが東京近郊のエスニックな肉料理を食べ歩く連載です。連載第6回目に訪れたのは、日本橋にある東京で唯一のウズベキスタン~トルコ~ロシアの多国籍料理店「アロヒディン」!たっぷりと肉の串焼きをいただきました。(日本橋のグルメアジア・エスニック料理

東京で唯一!ウズベク料理店で味わう串焼き盛り合わせとユーラシア料理の真髄【東京エス肉めぐり第6回】

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東京周辺のエスニックな肉料理を食い尽くすこの連載「東京エス肉めぐり」第6回は日本橋にある東京で唯一のウズベキスタン~トルコ~ロシアの多国籍料理店アロヒディンで肉の串焼きシャシュリク盛り合わせだ!

 

 

ロシア料理?シシケバブ?いったいどっち?

エスニック料理に詳しい人なら、シャシュリクはロシア料理じゃないの?と思うはず。逆にこのページのシャシュリクの写真を見た人は、これはシシケバブじゃないの?と突っ込むかも。ウズベク料理、そして、このお店アロヒディンにおいてはその両方ともが正解なのだ。

 

ウズベキスタン共和国はかつてソビエト連邦を構成していた現CIS諸国に属する中央アジア=トルキスタンの共和国。北にカザフスタン、南にトルクメニスタンとアフガニスタン、東にタジキスタンとキルギスと接し、国境を二回超えないと海にたどり着けない、世界に二つしかない二重内陸国の一つ(もう一つはリヒテンシュタイン)。テュルク系ウズベク人が多数を占めるが、ロシア人、カザフ人、タタール人、タジク人などが暮らす多民族国家である。産業は農業と鉱業がGDPの半分を占め、金などの鉱物や天然ガス、石炭、ウランなどのエネルギー資源も豊富で、今後の経済成長が予想されている。経済界からは「21世紀はユーラシアの時代」と言われ始めているほどだ。

 

ウズベキスタンの料理は盛んな放牧による羊肉を使った料理、そして、小麦を使ったパンや麺類が主となる。同じテュルク系であるトルコ料理とも共通点があり、さらにロシア料理からの影響も強い。


2012年4月に日本橋と茅場町の間にオープンしたアロヒディンはそんなウズベキスタン~トルコ~ロシアの多国籍料理を掲げるお店だ。


この近辺はまったく疎いのでプリントアウトした地図を持って、約束の時間に地下1階にあるお店を訪れた。


「こんばんは。7時に4名、サラームです!」


「こちらは1号店(八丁堀店)になります。お客さまのお名前は伺っていないので、2号店(日本橋店)のほうですね。歩いて2分ほどです。首都高のトンネルを越えてすぐを右折してください。ご案内しますね」

 

えっ2号店? 聞くと5月21日に同名の新店舗をオープンしたばかりとのこと。おお、こんな東京駅近くのオフィス街でウズベク料理が繁盛しているなんて、期待がますます高まるぞ~! 言われたとおりに日本橋方面に向かって歩き、首都高のトンネルを越えて右折するとすぐに看板が見つかった。2号店は1階の路面店で、さすがに内装はピカピカだ。

 

「サラームアリクム! ファズさんですね!」

 

入り口近くに立っていた山羊鬚を生やした用心棒のようなマッチョガイに挨拶すると、「ファズさんはこちら」と、右奥の厨房を指さされた。そこから顔を覗かせていたのは小柄で童顔、まるでジャニーズ系アイドルのようなニコニコ顔の男性。オーナーシェフのファズさんこと、ファズリディン・アモノフさんだった。

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ファズさんはウズベキスタンの古都サマルカンド出身の29歳。21歳の時に語学留学のために来日し、日本語学校に通いながら、都内のトルコ料理店でアルバイトとして働き、調理を覚えた。そして、26歳の時にアロヒディンを開店した。

 

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「元々、サマルカンドの自宅でも姉から教わって料理を作っていましたが、日本に来てトルコ料理のレストランで働き始めて、料理に興味を持ちました。そこでトルコ料理を学びました。その頃、日本にはウズベク料理のお店がないなあと思って、アロヒディンを開いたんです。今日はご要望の肉料理だけでなく、ウズベキスタンの代表的な料理も幾つか食べてもらいますね」

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トルコ料理の前菜にはハズレなし!

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YES!!! 今回は4人の東京エス肉兄弟団選抜メンバーで訪ねたのでたっぷり頼めるぞ! まずはトルコのビール「エフェス」を飲みながら、トルコの前菜盛り合わせをつっつくとするか。お酒とともに大きな四角い平皿にのって運ばれてきた前菜盛り合わせ。平皿の四つ隅に白チーズ「ベヤズ・ペイニル」、ひよこ豆のペースト「ホモス」、茹でたほうれん草とヨーグルトのサラダ「ウスパナク・サラタス」、焼き茄子とヨーグルトのサラダ「パトルジャン・サラタス」と4種類の前菜がのっかっていた。それらをインドのナンやアラブのピタパンに似た薄い円形のウズベクのパンをちぎっていただく。トルコの前菜にハズレはないが、肉料理早く出てこ~い!

 

 

ラム肉が柔らかすぎて、美味すぎる

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「こちらもトルコ料理です。トルコ語だとエト・ソテー(羊肉のソテー)かなあ」と言ってファズさんが湯気の立つ耐熱皿を運んできた。メニューには「ラムの熱々鉄板焼き」と書かれているものだ。耐熱のお皿にラム肉と野菜を並べ、バターやマーガリンで軽く炒めてから、オーブンで焼く。トルコではトマトペーストをたっぷり使うことが多いが、ファズさんはそれを使わずに玉ねぎ、トマト、赤パプリカ、黄パプリカから出る野菜の旨味と、野生のタイムであるケケッキ、塩胡椒だけで味付けしていた。ラム肉も柔らかく、シンプルな味付けが美味い!

 

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次は「エト・ウズガラ」、ラムチョップのステーキだ。こちらはさらにシンプルで、味付けは塩と胡椒だけ。肉を柔らかくするために玉ねぎでマリネしているかもしれない。付け合わせのマッシュポテトとともにいただくと、ラムの旨味がしっかりと感じられる。中はほんのり赤く、焼き加減も悪くない。

 

めくるめく肉のオンパレード!

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続いて「キョフテのグリチカ添え」。キョフテとはラム肉のハンバーグで、トルコの国民食の一つ。そして、グリチカとはウズベク語でソバの実のこと。ウズベキスタンでは一般的な穀物らしい。焼いたキョフテに、マーガリンと塩胡椒で炊きあげたソバの実が添えられている。いいぞ、この調子! めくるめく焼き肉のオンパレードで、エス肉兄弟団四人の士気と、ついでに体温までがガンガン上がってきた~!

 

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「実は1号店は炭火焼きグリルを使っていますが、こちら2号店はガス焼きなんです。お肉が好きでしたら、次回は1号店にもお立ち寄り下さい」

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ビールに続いて、ファズさんおすすめのジョージア(旧グルジア)の白ワイン「タマダ」を開けていると、ついに今晩の主役シャシュリク盛り合わせが2皿届いた。1皿に巨大な串焼き、いわゆるケバブがガツーンと3本! 内訳はラム肉のシシ・ケバブ、鶏肉のタウック・シシ、羊のミンチ肉のキョフテ・ケバブだ。ロシア語やウズベク語でなんと呼ぶのかはさすがにわかりませーん! 4人には1皿でも十分な量かもしれないが、我らエス肉兄弟団! 2皿行かんでどうする~!

 

来ました今晩の主役!ガツンと串盛り合わせ!

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う~ん! これもまた美味い! 通常のトルコのケバブほどスパイシーではないが、しっかりとマリネされていて、肉の中まで味が付いている。案の定2皿頼んで正解だった!

 

 

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「シャシュリクはロシアでもウズベキスタンでもほぼ同じものです。でも、私のシャシュリクは以前働いていたトルコ料理店で習ったものなので、ほとんどトルコ料理のケバブかもしれません。ウズベク料理とトルコ料理の違いは、ウズベク料理はスパイスをあまり使わないことです。味付けは塩、胡椒、にんにく、玉ねぎ、さらにクミンのホールスパイスを使うくらい。肉自体の旨味を引き出すのがウズベク料理の特徴なんです」

 

ロシア料理のバーベキューであるシャシュリクは19世紀末にカフカス地方(ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニア、オセチア、チェチェンなど)からロシアにもたらされた串焼き料理ケバブが元となっている。そして、20世紀のソビエト連邦時代にサハリンまで含む全土に広まった。イスラーム教徒の料理だったため、元々は羊肉や鶏肉が主であったが、ロシアでは豚肉や牛肉、チョウザメの肉まで用いられている。

 

ウズベクの麺と炊き込みご飯が美味い! 

さて、ここからはファズさんの故郷ウズベキスタンの料理だ。まずは手打ち麺の「ラグマン」。羊肉と玉ねぎ、ピーマン、トマトを炒め煮にした具材を手打ちで延ばした腰の強いゆで麺にかけていただく。この連載第四回「激安ラム串焼き&世界最古の麺料理を東京唯一のウイグル料理店で」編でも「ラグメン」として登場した、中央アジア=トルキスタン諸国に広く分布する料理だ。

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そして、ウズベク料理の真髄とも言えるのが肉と人参の炊き込みご飯「プロフ」。こちらも連載第四回では「ポロ」という名前で「ユーラシアご飯料理の三巨頭」と紹介した。人参の甘みと肉の出汁が染みこんだご飯はいつ食べても美味しいが、ファズさんはホールスパイスのクミンを隠し味に用いていた。少々固いアルデンテに炊かれたご飯の食感も良い。

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プロフはかつてのブハラ・ハン国の首都で、中世からトルキスタン文化の中心地だった町、ブハラの名産とされる。ブハラと名前の付いた料理は今でも遠くトルコやイスラエルでも一目置かれている。

 

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「私の町サマルカンドが大阪だとしたら、ブハラは京都です。プロフはブハラの人だけでなく、ウズベク人は誰もが作ります。ウズベク料理はラグマンもプロフも作りたてじゃないと美味しくないんです。なので、この店ではご予約いただいた方のみに提供しています。トルコ料理のほうが作り置きが効くので商売はやりやすいのですが、ウズベク料理は家庭料理なんですね」

 

もう入らない。締めはお茶で

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さて、たっぷりの肉の後に太麺とご飯まで食べたら、さすがにもう何も食えない! 今夜はスウィーツは抜きにして、締めにお茶だけいただこう。チャイを注文すると、ウズベクのチャイはトルコのチャイと違い、紅茶ではなく緑茶だった。中国風の渋い緑茶は砂糖を入れても、入れなくとも良いらしい。砂糖なしで飲めば、肉の脂を胃の中で洗い流してくれそうだ。

 

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「ウチのお客さまは中央アジアに興味を持っている方、ウズベクやカザフやキルギス、タジクなどを仕事で訪れた事のある方、そして、ロシアでウズベク料理を食べて忘れられなくなった方が多いです。それにオフィス街という場所柄、ランチタイムには周りで働いている会社員の方ばかりです。日本人にはもっとウズベク料理に興味を持って頂きたいですね」

 

最後にファズさんに「アロヒディン」というお店の名前の由来を聞いた。

 

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「アッラーの宗教という意味ですが、私の父の名前でもあるんです」

 

 

おお、なんと親孝行な息子! アロヒディンお父さん、ファズさんは遠い東京の空の下で今夜もしっかり働いてますよ~!

 

紹介したお店

アロヒディン

住所:東京都中央区八丁堀1-4-8 森田ビルB1F

TEL:03-6228-3898

プロフィール

サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com

 

過去の「東京“エス肉”めぐり」はこちらから

                             
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